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南北朝(日本)時代と漫画家・車田正美先生の作品を瞑想する部屋。

劇場版『機動戦士ガンダム00』-A wakening of the trailblazer-

2010年10月04日 01時44分05秒 | 映画

2314年。
木星から地球に向かって飛来する異星体(ELS)は「Extraterrestrial Living-metal Shapeshifter」の頭文字で、地球外(生命)変移性金属体。
これはますます地球外知性体との遭遇(コンタクト)を描いた『Solaris』になってきた、と思ったら、ELSは擬態形成体(ミモイド)よりもはるかに情熱的で、積極的で、受容的な存在でした。

(ルイス)「怖いのが、来る!」

やって来るのは、ある意味で「地球人類」だと予想していました。ある意味で。

*

2312年、沙慈・クロスロードと刹那・F・セイエイは、言葉というコミュニケーションのツールがあっても、というかなまじ言葉が通じるがゆえに、どうしてわかってくれないんだ!―――わかってくれとは云わない―――希望と絶望が裏表になったソラリスの海の関係でしたっけ。
それが、金属生命体が相手、なんてことになったら、そもそもわかり合う必要があるのか?と根本的なレベルを問われそうです。異質の次元が違う。
ですが、人類にその気がなくても、ELSにその気はありました。
イオリア・シュヘンベルグの計画がリボンズ・アルマークによって加速し、イノベイターになり得る「因子」が予測を超えて増えたのかもしれません。戦争によって。
その脳量子波を感知したELSが木星の大赤斑(ワームホールの出口)からやって来た。人も迷子になったら、道を教えてくれそうな人を選ぶのと同じで、話を聞いてくれそうな「人」がいる、と思ったらしい。
デカルト・シャーマンが「叫び」と形容し、誰よりも“波”がきめ細かくレンジが拡張した刹那が捉えたELSの意思は、

生きたい(つながりたい)

だから、刹那は迎撃をためらった。これは駆逐すべき目標なのか。

(刹那)「わからない・・・本当にわからないんだ」

人体が金属に浸蝕されたり、無人の車両が激突して血の雨が降ったり、それは確かに恐怖なんですが、どうもELSが敵には見えず、あれはきっとハグなんだよなあ、わからないがゆえの・・・乗り物は前に進むように造られているから、そのように造ったのは人で・・・と、ものすごいコミュニケーションのすれ違いを堪能していたら、00ライザーで「対話」を試みた刹那が情報オーバーロード(Information Overload)。溶断(てか?)してぶっ壊れたのでビビりました。
これはヤバい。廃人か、部位によっては人格崩壊です。

これまでに、宥和政策を進める地球連邦のイノベイターに対する迷いが明らかになっています。

(デカルト)「理屈なんかありはしません。(ここに)あるんですよ、そうだ、という確信がね」

とんとん、と指した「ここ」は額の中央、松果体(※01)あたりでしょうか。
デカルトは「純粋種」でありながら連邦軍にモルモット扱いされ、人である前に軍人という意味を与えられたままイノベイター専用MAガデラーザ(GNMA-Y0002V)で出撃するも、ELSにとり込まれてしまう。超人機関の被験体とどこが違うのか。ひどいな。
しかし、彼が軍人であるがゆえに悲劇的な死を遂げたのか、といえばそうでもないです。
連邦政府がイノベイターになり得る因子を持つ者を極秘裏に調査していたこと、
その保護が早かったこと、
脳量子波遮断施設が低軌道リング上にあること、
おそらく、イノベイターとそうでない者の能力差が引き起こす「恐怖」を予測し、大統領曰く「インフラの整備」はELSの接近よりも前から進められていたのでしょう。
ありのままに事実を公表すれば、ELSを引き寄せるイノベイターを追放、隔離、殺せ!というテロリズムも想定されるわけで、粛々と政治を行わなければならない新政権の苦悩がうかがえます。
イノベイターは危うい。哀しいことですが。皆がマリナ・イスマイールには、まだなれない。
で、この人、なんで「デカルト」なんだ、と思って『Discours de la méthode』(1637年)を読み直しましたよ。

我惟(おも)う、ゆえに我在り(わたしは考える、ゆえにわたしは存在する)

わたしは一つの実体であり、その本質ないし本性は考えるということだけであって、存在するためにどんな場所も要せず、いかなる物質的なものにも依存しない、と。したがって、このわたし、すなわち、わたしをいま存在するものにしている魂は、身体[物体]からまったく区別され、しかも身体[物体]より認識しやすく、たとえ身体[物体]が無かったとしても、完全に今あるままのものであることに変わりはない、と。

『方法序説』(ルネ・デカルト/谷川多佳子訳/岩波文庫)

本質(essentia)は思惟からやって来る。精神と物質は実体である。17世紀のデカルトの命題は、むしろ刹那の運命にかかわっていました。
ソレスタルビーイングは、ダブルオークアンタ(GNT-0000※02)をイノベイター専用機ではなく刹那の専用機―――戦いを止める機体―――として開発しました。スメラギ・李・ノリエガの「刹那に頼りすぎよ・・・」という逡巡から察するに、2年間、刹那は人として、デカルトが被った悪意や誤解からは自由でした。
※01:脳内でこれらの観念が受容される共通感覚とみなされるべきものは何か。「共通感覚」はアリストテレスに由来する。個々の感覚を統合する感覚。デカルトは松果腺をその座とした(『方法序説』)。
※02:QAN[Τ]の[Τ]はツイン(TWIN)の意味だそうですが、つまりはQUANTA(pl)、「QUANTUM(sg)=量子」でしょう。

なのに、フェルト・グレイスは「対話」の可能性(potential)を飛躍させたはずの彼の沈黙に違和感を覚え、気遣っていた。なぜ。
孤独。
それが暴露されたのが、刹那の「夢」だったのだと思います。
脳に損傷を受けて思考の箍(たが)がはずれたのか、凪の下から現れたのは荒涼とした光景。死人、死人しか出てこない。まったく癒されてない。全っ然。
心を開かないのではなく、開けなかったんじゃないのか。
高次の領域に到達した脳量子波が精神を照らすほど、そうではないもの、ネガティブなものが鮮明に浮かび上がり、直視したら気が狂いそうだったんじゃないのかな。
黒が黒いほど、白すぎる白が眼にキツい、みたいな。
もし、イノベイターの有用性―――リボンズ・アルマークの罠―――に生きる意味(inner meaning)を見出していたら、刹那もデカルトと同じ末路をたどったのかも・・・あの“短絡事故”がかえって刹那を救った。傍にいたのがフェルトで幸運でした。女神さまや。
フェルトが選んだのは、のたうちまわっている刹那と同じ時間、苦痛、悲痛を共有することでした。
勇気ある行動です。
いや、だって、脳細胞の再生処置を施されたとはいえ、自然治癒力にかけるしかない状況で拘束をはずしたら、フェルト、正気を失った刹那に殺されていたかもよ?
ルイス・ハレヴィが沙慈を絞め殺す寸前までいったのを思い出して、ぞっとしました。そこにいる刹那はもう刹那じゃないかもしれないのに・・・。
あなたは苦しかったのね。泣きながら祈ってくれたフェルトの手で、刹那は血に塗れた手に「花」があることに気づいた。かつての仲間達に、まだ生きている、とも云われた。生きているから想いが在る。想っているから生が在る。あの呼び戻しも「再生」でした。それにしてもこの2人、いつも時間がないな。

さて、ヒーローが寝んねしていた頃、地球連邦軍は絶対防衛線でELSと交戦。「人類の存亡をかけた最終決戦」はなにがすごかったかといって、ELSの驚くべき行動ですよ。
カティ・マネキン准将があれだけ嫌悪した「掃討作戦」を口にしたように、人類の目的はELSの抹殺。相手にとって究極の悪意です。
そのエネルギーをELSはコミュニケーションと捉え、交流した。GNミサイルだろうがMSだろうが、片っ端から融合し、学び、擬態する。瞬時に理解して形にしてしまう。こちらの「ルール」に合わせてくれたわけです。
あれが戦争に見えましたか? なにか、求愛みたいでしたよ。

これがあなた? こうすればいい? どう? 同じ? もっと? まだ? 知りたい、わかりたい、つながりたい、生きたい、生きたい、生きたい、生きたい、生きたい、生きたい、生きたい、生きたい、生きたい、生きたい、生きたい、生きたい、生きたい、生きたい、生きたい、生きたい、生きたい、生きたい、生きたい、生きたい、生きたい、生きたい、生きたい、生きたい、生きたい、生きたい、生きたい、

もっと!

ああ、鏡だ、と思いましたね。これが人類の形、人類の不完全な知性による歪んだ理解をELSは反射しているだけなんだ。人が人と闘っている。とすれば・・・。
古き良き飛行機乗り、グラハム・エーカーが切り拓いた活路から、刹那と、ティエリア・アーデ(ヴェーダ)と、00クアンタがELSの本体に進入する。
ちょっとカッコよくまとめすぎじゃないですか? イノベイター×ヴェーダ×GNドライヴがイオリア・シュヘンベルグの理念を体現する瞬間は。言葉にできないな。これが『00』のガンダム。また刹那が焼き切れるんじゃないかと心配しましたけど。
QUANTUM SYSTEM起動。QUANTUM BURST。ついに「来るべき対話」の始まり(※03)です。
※03:木星衛星軌道上のモノリスへの突入を連想しました(『2001年宇宙の旅』1968年)。木星探査船「エウロパ」といい、1stシーズンからHAL/9000みたいなティエリアといい、わざとやってるんでしょうか。

(ティエリア)「よけいなもの(情報)は受け流せ、本質を、彼らの思いを!」

太陽の死。母星からの脱出。
ELSはつながることで生き延びようとした。一体となることで相互理解を求めていた。
刹那はELSを知り、ELSは刹那を知り、生命としてもっともシンプルなレベルで共感しました。

生きる

きれいにまとめすぎですよ。
死とともに生きた刹那だからこそ、わかり合えた相手。刹那は生きる意味(essence)を見出してELSの母星へ旅立ち、ELSは地球を見守る「花」に変容した。完全なコミュニケーション、本質のフェアトレードです。美しい。

「そんなに簡単じゃないのよ」(1st#04)

と絹江・クロスロードが笑った世界は思ったよりも、いや、よけいなことを思わなければ簡単でした。世界を簡単でなくしたのは誰だったのだろう。神でないことは確かです。もう、神はいない。それはよかった。

(沙慈)「僕、(映画に)出てなかったな・・・」

生き残った関係者の証言を元に、リアルに戦場を再現!とか煽っていそうだ、『ソレスタルビーイング』。スカーフェイスの刹那とか、アレハンドロ様のゴージャス専用機とか、ブーメランとかやりすぎ。誰だ、ソースは。たとえプロパガンダでも、おもしろければ観に行きますって。これ、撮ってくれないかな、スピンオフで。

(マリナ)「これで・・・これであなたの家族は幸せになれるのですね?」

中東使節団のマリナは連邦議員で大使のシーリン・バフティヤールとともに、コロニー公社がL3で建設中のコロニーで労働に従事させられている、中東政策による強制移民の帰還を交渉中。暗殺未遂。
思い出したあ。

(連邦政府)「・・・中東再編計画は、完全統一を目指す地球連邦政府にとって、当面の最重要課題です。民族的、宗教的に対立する国家間は連邦軍によって国境線を確保、事態の安定を図ります。また国内紛争に関しては、対立民族の一方をコロニーへ移住させることも視野に入れ・・・」(2nd#08)

ほんとにやりやがった。アロウズめ。しかし後に、マリナはこの交渉を成功させます。宥和政策に必要なのは根気。クラウス・グラード大統領特使も尽力したでしょうが、あれだけ苦労した対外折衝に強くなったものです。まだ第一皇女だったんですね。

(ロックオン)「鈍いんだよ、イノベイターのくせに」

刹那は本当に鈍いのか、という視点で見ると、ロックオン・ストラトス(ライル・ディランディ)のサポートは2年間、刹那にとって相当にありがたかったのではなかろうか。マリナもフェルトもスルーの刹那を、ロックオンは普通、それは、鈍いとぼやいた。まるでサラリーマンが会社で同僚に接するように。イノベイターだから変なんじゃないの、という偏見がまったくない。アニュー・リターナーのおかげなんですね。そのアニューを撃ったのは刹那でしたが。ちゃんと乗り越えていました。この人が普通でよかった。

(フェルト)「大きいから・・・あの人の愛は大きすぎるから・・・私はあの人を想っているから・・・それでいいの」

00クアンタの発進シークエンス。あれが、彼女が最後に見た刹那の姿だったのでしょうか。でも、あの「花」がなにを意味するのか、フェルトは真っ先にわかったはず。宇宙空間で安定したELSの生きる時間はむっちゃ永そうです。彼女の想いは残る。なにかを生み出し続ける。そこから刹那が帰還する。

(リンダ)「あらあら、よかったわねえ、素敵な彼氏ができて」

アーデさんのお気持ちは?

(ハレルヤ)「てめえの行為は偽善だぁっ!」
(アレルヤ)「それでも善だ! 僕はもう、命を見捨てたりはしない!」

じーんとした。

(パトリック)「死んでも帰るんだよ、大佐のもとに!」

どっちなんだよ。だが、それがいい。イケダさんも不死身のような気がしてきた。
ほかにもいろいろありますが、ありすぎて書けないので、『00』の始まりと終わりについて。

2091年。
在りし日のイオリアとリボンズに似た青年、E.A.レイの会話。理念を理念で終わらせず、3世紀近くもかけて人類の進化、世界の変革を実現させてしまった爺さんが一番普通じゃないと思いました。その友人(?)のDNAを受け継いだと思われるリボンズがあれほど計画にこだわったのは、約束―――かな。

2364年。
外宇宙航行艦「スメラギ」で、とうとうクラウスは地球特使みたいなことに。人類の40%がイノベイターとは、たいした開花率です。「スメラギ」と、誰が命名したのか想像はつきますが・・・デザインもアレだ。MSもアレだ。
そして、刹那はガンダムとともに地球へ帰還。新都心から離れた旧市街跡、花に埋もれた少年兵の故郷へ。

(刹 那)「君が正しかった」
(マリナ)「あなたも間違っていなかった」
(刹 那)「俺達は」
(マリナ)「わたし達は」

「わかり合うことができた」

老境にあるマリナと抱擁を交わす刹那の眼には、マリナがそうは視えなかったことでしょう。本質が像を結ぶ太陽の眼ですから。マリナの魂は絶世の美女だった、と思います。
視力を失ったマリナにとっても、どのような姿をしていようと、刹那は刹那でした。今、イノベイター、と云っていいのかどうか。
ELSと融和し、平安を得た刹那は幸せになりました。自己の存在が「真」である人になりました。それを、彼の幸せを祈ってくれた人に伝えるために帰ってきた。獲得した雌雄を守る、他者を傷つけてしまいかねない“愛”を超越した、愛。
長い旅が終わった後の、静かな感動に浸りながら「夢」から覚めました。
ありがとう。

*

2回観ましたけど、やたらと人に親切にしたくなるんですよ、観た後に。じわじわと来る。
それと、きっちり生者と死者を区別したのは見事でした。そうではない描き方もできただけに。そこが『ガンダム』だった。1日に小説が出たけど、買おうかな。

*

劇場版『機動戦士ガンダム00』-刹那のミーム-
劇場版『機動戦士ガンダム00』-宇宙のパルーシア-


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