日本以外全部沈没 パニック短編集
筒井康隆 著
角川 2006年
★第5回星雲賞短編賞受賞作「日本以外全部沈没」収録
ツツイストの皆様にとっては大変遺憾なことと思うが、しばしば「時をかける少女」が一番の代表作のように扱われてしまうSF作家・筒井康隆。彼の本領はスラップスティック――ドタバタ小説にこそある(「鍵」等のホラー作品も捨て難いが)。そのドタバタコメディがふんだんに詰まった短編集。
表題作「日本以外全部沈没」は、2006年にSMAPのクサナギ(文字化けを恐れてカタカナ)主演の映画「日本沈没」の向こうを張って制作された劇場版で知名度が上がった作品。当然小説の方も小松左京の名作「日本沈没」のパロディである(注;筒井康隆と小松左京は親友同士の間柄)。元ネタとは違い、こちらは「既に他の全世界が沈んでしまった後の日本」を舞台に、ひたすら日本に媚び諂う外国人達と、それを受け止める日本人達とのやりとりを、まったくシーンを変えずに、笑いのペースを落とさずに、わずか23ページでオチまでつけて描き上げてしまう。収録された全ての短編において、冗長なシーンの一切を省いた、テンポの良さが魅力である。「ヒノマル酒場」は、大阪を舞台にした異星人来訪モノ。東野圭吾然り、大阪出身の作家が大阪を舞台にして大阪人が駆け回る小説を書くと傑作が生まれやすいのは大阪という風土の為せる業なのだろうか。
しかし私は映画の方の「日本以外全部沈没」を観ていないので、23ページの作品をどのように長編映画にしたのか気になるところではある(笑)
※冒頭で「時をかける少女」について触れましたが、一つお断りしておくと、私は「時をかける少女」を不当に貶めるつもりは一切ございません。あれも名作であると思います。ただ、筒井康隆を「『時をかける少女』の作者」としてのみ認識すると非常に間違った方向に向いてしまうという事を言いたかったのです。あの作品は「筒井康隆らしくない」作品ですので。
高田崇史はもうカバンにしまったのでご心配なく~
といっても読まれる頃にはもう会ってるかな。