空の中
有川浩 著
メディアワークス 2004年
角川書店 2008年
![](http://ecx.images-amazon.com/images/I/51NHJOaGrLL._SL500_.jpg)
とうとうこの書評の出版社欄に「メディアワークス」が書き込まれることになった。まあ「ラノベレーベルの作品には書評を書かない」という暗黙規定を作っているからであるが、この作品についても角川で文庫落ちしなければ書かないままだったかと思うと、規定の見直しを考えるべきかという気もしてくる。まあそれはともかくとして。
国産旅客航空機復活の夢を賭けた試作機「スワローテイル」が、試験飛行の途中高度二万メートルで突如爆破炎上、乗組員全員が死亡した。さらにその一ヵ月後、同じ空域で航空自衛隊の最新鋭戦闘機F15J二機編隊のうち一機が、またしても突然爆発。生き残ったもう一機のパイロット武田光稀は、「スワローテイル」プロジェクトの調査委員である春名高巳とともに、高度二万メートルへと飛ぶ。
一方、爆発した戦闘機のパイロットの息子で、高知に一人で住む斉木瞬は、近所の浜辺で見たこともない生物を拾う。UMAが大好きな幼馴染の天野佳江と一緒にそれを育てることになるのだが・・・
原因不明の連続飛行機事故と、海岸で見つかった未確認生物、この2つのストーリーが重なり合うとき、途方もなくスケールの大きい設定が浮かび上がる。この語り方が巧みで、設定の全貌がわかる頃にはもう既に作品に引き込まれてしまっている。
設定自体はかなり奇抜で、荒唐無稽ととられてもおかしくないようなもの(登場人物の春名自身が、「トンデモ」という表現を使っているほど)。しかし作品が荒唐無稽なものになっていないのは、これでもかという程ディテールを突き詰めているからである。超現実の設定をまず設置した上で、その超現実が現実に入り込んできたらどうなるのか、という命題に対して真剣に取り組んでいる。
そして、その細やかさゆえにドラマは複合的なものとなり、SF、青春小説、恋愛小説など様々な側面を併せ持つ小説になっている。そしてそれらの要素が全く乖離することなく、一つの物語の流れの中に完全に溶け込んでいる。そのため、文庫500ページの長大な小説でありながら読者を飽きさせない。
また魅力はストーリーのみではなくキャラクターもまた持っている。頭の回転が早く弁舌巧みだが嫌味さの全くない春名、意地っ張りだが真っ直ぐな性格の武田、不器用さが時に微笑ましく時に切ない瞬と佳江の二人と、その二人を温かい目で見守る高知の川漁師の老人宮田喜三郎・・・豊かに造形された登場人物たちによって作品は深みを増している。
人と人との絆のドラマ、土佐弁の魅力、安易なセカイ系作品への問題提起なども盛り込んだ大作。文庫版には後日談の短編「仁淀の神様」が合わせて収録されている。濃密なエンターテイメントとして、強くお勧めしたい作品だ。
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