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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

第78回日本音楽コンクール受賞者発表演奏会

2010年03月09日 | pocknのコンサート感想録2010
3月9日(火)
東京オペラシティコンサートホール タケミツメモリアル

【曲目】
1.中辻小百合/「消えていくオブジェ-北園克衛の詩による-」
2.サン=サーンス/ハバネラOp.83
Vn:青木尚佳
3.ショーソン/詩曲Op.25
Vn:尾池亜美
4.モーツァルト/ピアノ協奏曲第23番イ長調K.488~第2楽章
Pf:伊藤伸
5.デザンクロ/トランペットとオーケストラのための「祈祷、呪詛と踊り」
Tp:稲垣路子
6.サラサーテ(マテベカバック編曲)/カルメン幻想曲
Cl:田中香織
7.プッチーニ/「マノン・レスコー」から「捨てられて、一人寂しく」
 プッチーニ/歌劇「蝶々夫人」より「ある晴れた日に」
S:佐藤康子

S:佐竹由美/板倉康明指揮 東京シンフォニエッタ(1)
現田茂夫指揮 東京交響楽団(2~7)

作曲部門第1位、中辻小百合さんの作品は、感覚的に言葉を集めたような詩をテキストにしたソプラノ独唱入りの室内楽。言葉の持つ響きと言葉が表すものに音たちが敏感に呼応し、言葉の心象を反映した響きが空間に鮮烈に放たれる。音の抑揚、リズム、音色はどれもが研ぎ澄まされ、精緻で隙のない結晶となって耳に届いてきた。いまや死語と成り果ててしまいそうな「前衛」の気骨が貫かれた音楽が1位に選ばれたということも嬉しい。

2番目に登場の青木尚佳さんは2008年に東京ジュニアオーケストラソサエティの演奏会で聴いたシェエラザードの素晴らしいヴァイオリンソロがいまだに心に残っていて、その青木さんが去年音コンで見事優勝し、演奏をまた聴けるというのがこの演奏会への一番の誘い水となった。

青木さんのヴァイオリンの音は一本の極上のシルク糸のよう。暗闇の中に走る一条の光のごとく気高く優美なその糸は、終始繊細で優雅に、ときにエロティックなほどに妖艶な舞いを踊り、聴いていて心がとろけそうになる。ただただ聴き惚れるしかない。そんな世にも美しい音が、ホールの高いところから聴こえてくるようだ。毎年優秀な人材を世に送る音コンだが、青木尚佳のヴァイオリンは別格という気がした。青木さんは2年前より更なる成長を遂げ、ある意味今が最高の旬にいると思う。演奏家として今後どういう道を歩むか、楽しみでもあるが怖くもある。

ヴァイオリン部門もう一人の優勝者、尾池亜美さんの演奏にも去年の藝祭で触れている。尾池さんのヴァイオリンが始まるや、熱い意志を持つ、くっきりとした雄弁な語り口に引き込まれた。オケが休止してヴァイオリンがソロでポリフォニックに二声で奏でるところでは対旋律が二人でデュオを奏でているかのように聴こえ、バッハとかイザイの無伴奏を聴いてみたくなった。

ピアノ部門の覇者は今回唯一の男性である伊藤伸さん。「左手負傷のため」、ということで曲はモーツァルトのこの短い第2楽章のみ。とてもゆっくりのテンポだが、音楽は停滞することなくピアノの一音一音が静かでしなやかな足取りで進んで行く姿には凛とした気高さを感じた。しかしモーツァルトのこの楽章は優美な第1楽章と快活な第3楽章の間に佇んでいてこそ良さが際立ってくる。いつか伊藤さんのソロで全曲聴くチャンスはあるだろうか。

トランペット部門の優勝者、稲垣路子さんの演奏からは颯爽とした逞しさを感じた。切れの良い明快な音が鳴り響き、細かいパッセージのコントロールも抜群で聴衆をうならせた。

既に海外でもキャリアを積んでいるクラリネットの田中香織さんは真っ赤なドレスに身を包み、サラサーテのヴァイオリンの超絶技巧曲をクラリネットで吹いてのけるという、気合いもサービス精神も旺盛だが、その演奏も素晴らしい!クラリネットでは聴いたことないようなヴァイオリンさながらのハーモニックスの超高音まで楽々と聴かせたのにも驚いた。

演奏会の「取り」はソプラノの佐藤康子さん。ステージ上の振る舞いも歌の存在感ももう立派なプリマ・ドンナだ。実際海外のオペラ劇場でも活躍しているという佐藤さんは、深い表情を湛えて熱い思いを歌い上げるアリアで会場を大いに盛り上げた… はずなのにこの演奏会は全体として聴衆の反応が大人しい。拍手もすぐに引いてしまい、最後に今夜の出演者全員がステージに登場する手はずになっていたのにその前に拍手が止んでしまった。若い才能をみんなで盛り立てていく気合いが聴衆にももっとあるといい。

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