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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

小川典子 ピアノリサイタル

2010年12月09日 | pocknのコンサート感想録2010
12月9日(木)小川典子(Pf) 
トッパンホール
【曲目】
1.モーツァルト/ピアノ・ソナタ第8番イ短調K.310
2.モーツァルト/ピアノ・ソナタ第9番二長調K.311
3.プロコフィエフ/ピアノ・ソナタ第2番ニ短調Op.14
4.プロコフィエフ/ピアノ・ソナタ第7番変ロ長調Op.83「戦争ソナタ」

【アンコール】
モーツァルト/ピアノ・ソナタ ハ長調K.330~第2楽章

一昨年、超久しぶりに聴いたサントリーホールでのリサイタルがとても良くて、それからは自分のなかで注目度が急激にアップした小川典子。今夜のトッパンホールでのリサイタルも迷うことなくチケットを買った。

モーツァルトとプロコフィエフ2人だけにスポットを当てたビアノリサイタルというのは珍しいが、天才作曲家は誰か?と訊かれれば、モーツァルト、メンデルスゾーン、そしてプロコフィエフを挙げたい。迷いがなく、無駄がなく、持って生まれた煌めきがあるところが3人の共通点。

小川典子が演奏するモーツァルトは、「雅やか」とか「慈しみ深い」といったのとは違った演奏になるのではと思っていた。確かにそうしたものとは違った演奏だったが、では何が良かったかと聞かれると、すぐに思いつかないのが辛い。イ短調の第1楽章が始まったときは、毅然とした右手のメロディーと、その心象を映すような左手の対比の素晴らしさに期待が膨らんだのだが、どうも一本調子というか、全ての音をキチンと弾きすぎるというか… もちろん一音たりともいい加減に弾けばモーツァルトは成り立たないのだが、天上に戯れるような余裕のある遊び心が欲しいと思ってしまった。

モーツァルトでは満たされなかったが、だからといって後半のプロコフィエフへの期待がしぼんだわけではない。そして、そのプロコフィエフでは期待を上回るほどの感動を与えてくれた。2番のソナタは初めて聴く曲だが、そんなことは何てことはない。硬質で磨き上げられた光沢のある小川ならではの美しい音色は、颯爽と展開されるプロコフィエフの世界に最初から引き込むのに十分だ。明晰なピアニズムは、ときにオーケストラのようなダイナミックで多彩な響きを聴かせ、またときに、スポットライトを浴びた単色の美音によるソロダンスを見せてくれる。結晶のような美しい秩序と輝きを放つ演奏に心が縛りつけられた。

2曲目の戦争ソナタは2008年の東京文化会館小ホールでのリサイタルでも聴いて感動した曲だが、今回はそれに輪をかけた新たな感動を味わった。縦横無尽に行き交う音たちはどれも明確な意思を持っているが、それらは見事にひとつの力に束ねられて進んで行く。打鍵は地響きが起きるほど力強いが、ただ音量で威圧するのではなく、そこには常に統制の取れた美しさがあり、気高くさえある。とはいっても、締め括りは迫力に圧倒された。完成度が高く、感動的なプロコフィエフだった。

アンコールは再びモーツァルト。とても丁寧に、大切に弾いている姿に、小川さんのモーツァルトへの思いを感じた。だけど、ごく短いやつでいいからもう1曲プロコフィエフが聴きたかったな。

トッパンホールには空席がチラホラ目だったが、これはとてももったいない。満員のお客が集まる価値のある演奏会だ。


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2 コメント

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田部さんを聴きました (HIROSHI)
2010-12-11 00:34:38
pocknさんが小川典子さんの演奏を聴かれたこの日、私は浜離宮朝日ホールで開かれた、田部京子さんのリサイタルを聴きました。

【田部京子ピアノ・リサイタル】
1.クララ・シューマン:ロマンス~4つの性格的小品 Op.5より

2.ローベルト・シューマン:森の情景 Op82

3.フレデリック・ショパン:ピアノソナタ第2番 変ロ短調 Op.35

※休憩

4.ローベルト・シューマン:ピアノソナタ第1番 嬰へ短調 Op.11

‘アンコール’
1.ローベルト・シューマン:トロイメライ~子供の情景 Op.15より

2.ローベルト・シューマン:交響的練習曲 Op.13より遺作 変奏曲Ⅴ

**************

小川さんと田部さん・・リサイタルが同日に開催されるため、どちらの演奏を聴こうか迷ったのですが、田部さんのシューマンを聴きたかったのです。

結果・・聴いてよかったと思いました。特に、シューマンのピアノ・ソナタ第1番は釘付けになる演奏でした。

これまで、他の方の演奏で聴くたびに何となく長く感じていたこのソナタでしたが、田部さんはこのソナタがおそらく大好きなのでしょう・・音の隅々まで細やかな神経が宿っていて、その緻密さとは相反するかのように整然と考え抜かれた構築性が功を奏した見事な演奏でした。

小川さんと田部さんはデュオを組んで演奏されることもあるようなので、機会があればお二人の演奏を同時に堪能できる演奏会にも足を運んでみたいです!
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Re: 田部さんを聴きました (pockn)
2010-12-12 01:13:33
HIROSHIさん、こんにちは。田部京子のリサイタルレポート、ありがとうございます。
日本には素晴らしいピアニストがたくさんいますね。
全てはチェックできないので、何人かに絞って応援していますが、田部さんもいいですね。
小川典子と田部京子のデュオ、これは是非聴いてみたいです。
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