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小澤征爾指揮 東京のオペラの森:R.シュトラウス「エレクトラ」(2005/東京文化会館)

2024年03月09日 | pocknのコンサート感想録(アーカイブ)
小澤征爾さんの訃報を機に、このブログを始める前に書いていた小澤征爾指揮の公演の感想から、とりわけ感銘を受けたものの感想をアーカイブで紹介します。

pocknのコンサート感想録アーカイブス ~ブログ開設以前の心に残った公演~

2005年3月22日(火)東京のオペラの森 オペラ公演
◎ R.シュトラウス/歌劇「エレクトラ」 ㊝
(配役)エレクトラ:デボラ・ポラスキ/クリテムネストラ:アグネス・バルツァ/クリソテミス:クリスティーン・ゴーキー/オレスト:フランツ・グルントヘーバー/エギスト:クリス・メリット 他
(演出)ロバート・カーセン
小澤征爾指揮 東京のオペラの森管弦楽団/東京のオペラの森合唱団

東京文化会館


いわゆる「通」と言われている人たちの間では冷ややかに見られていた、小澤のプロジェクト「東京のオペラの森」のメイン公演とも言える「エレクトラ」に出かけた。初めて接するこのシュトラウスの大作オペラ、小澤征爾というネームバリューで集められた大物歌手陣と、この公演のために集められた腕利きのプレーヤーによるオーケストラ、演出や美術諸々に至るまで世界で活躍する一流どころが結集して上演されたこの公演は大変充実した、満足の行く印象深い公演だった。

オケの性能は誠に素晴らしく、切れ味、瑞々しさ、音の輝きどれをとっても抜群。細やかな表情から轟くような大音響でも決して荒っぽくならないダイナミックレンジの広さ… こうしたものをどれも備え、それが小澤流のセンスでスマートに、しかしみなぎるエネルギーを持ってまとめあげられて行く。室内楽的ともいえるような繊細で一本にまとまった弦、高音の超絶技巧も軽くこなしてしまう金管、自由自在に表情豊かにこなす木管 各プレーヤーの技量にも脱帽で、理想的なシュトラウス・サウンドを堪能。

このオケに輪をかけるように驚嘆するほどすごかったのが歌手陣。オケの大音響と互角に張り合い、ものすごい迫力で存在感をアピールしたエレクトラ役のポラスキをはじめ、凄みを利かせるクリテムネストラ役のバルツァ、役どころを的確につかみ、焦燥感、おののき、人間臭さを見事に出したクリソテミス役のゴーキー、一種の神々しささえ漂わせたオレスト役のグルントヘーバー… どれも甲乙つけがたいほどの実力を発揮し、それぞれが個性的。この中の誰か1人だけでも出演する「エレクトラ」があったとしたら「この歌手のこの役を聴きにやって来た」と大勢に言わしめる程の実力派集団が、すごいオケと合唱(これも迫力満点)とで聴かせた「エレクトラ」はスリリングなほどに緊張感みなぎる充実度だ。

それにロバート・カーセンの演出、舞台がまたいい。流行りといえば流行りのモノトーン一色でシンプルな舞台装置だったが、象徴的な壁と穴、そして登場人物やダンサー達を巧みに、象徴的に浮かび上がらせる照明と影の効果… これらが強烈に視覚に訴えてきて、感情を大きく揺り動かし、この狂気的な復讐劇へと没入させる。穴から引きずり出された全裸のアガメムノンが女達に担ぎ上げられ舞台を練り歩いたショッキングな冒頭の光景から目は舞台に釘づけと言っていい。この他にもダンサー達によるパフォーマンス的効果も印象深い。シンプルな舞台がゴージャスな舞台装置では表現できないような強い印象を与える最高の例ではなかろうか。とにかく、僕はこの小澤の「エレクトラ」に打ちのめされる程の感銘を受けた。

終演後の客の反応は、歌手達には最大級のブラボーと拍手が送られていたが、小澤が出てくるとあちこちからブーイング。これは小澤のオペラにはつきものの風物詩とさえなっているが、とりわけ「オペラ通」にとって小澤が振るオペラというのはどうも許せないようだ。オペラに関してはズブの素人、しかも初めて観る「エレクトラ」とあってはこうしたブーイング野郎どもを打ち崩す説得力は持ち合わせていないが、「期待できない小澤のオペラ」に大金を払って出かけ、勝ち誇ったように執拗なほどのブーイングを浴びせる輩は全く理解に苦しむ。


「東京のオペラの森」ってそう言えば全然聞かないなぁと思ったら、今、東京で3月から4月にかけて大々的に開催されている「東京・春・音楽祭」に引き継がれていることを知った。2024年の今もこの音楽祭の実行委員長を務めている鈴木幸一が、小澤と「新しいオペラを始めたい」ということで始めたイベントだそうだ。オペラは現在の音楽祭の最大の目玉であることを考えれば、小澤の日本のオペラ界への貢献度はもっと評価されていいだろう。その初の公演が小澤による「エレクトラ」だったわけだ。

それにしても小澤は、この公演に限らずオペラでは執拗なブーイングを浴びていたことは驚くべきことだ。ウィーン国立歌劇場の音楽監督に就任して3年以上経過し、ウィーンで誰もが絶賛というわけではなかったとしても、小澤を高く評価する声も多かったわけで、何が気に食わなくてわざわざ小澤が振るオペラに出かけてブーイングを浴びせたのだろうか。こんな意識でしか小澤のオペラを観ることができなかった人達は、今思えば随分損したのではないかと思うし、今では後悔しているのではないだろうか。
(2024.3.9)

巨星・小澤征爾の訃報(小澤の感想リストあり)

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