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小澤征爾 指揮 ボストン交響楽団(1999/サントリーホール)

2024年02月20日 | pocknのコンサート感想録(アーカイブ)
小澤征爾さんの訃報を機に、このブログを始める前に書いていた小澤征爾指揮の公演の感想から、とりわけ感銘を受けたものの感想をアーカイブで紹介します。

pocknのコンサート感想録アーカイブス ~ブログ開設以前の心に残った公演~

1999年 5月7日(金)
小澤征爾指揮 ボストン交響楽団
サントリーホール

1.ベートーヴェン/「レオノーレ」序曲第3番 ☆
2.ベルリオーズ/劇的交響曲「ロメオとジュリエッタ」より
 「ロメオただひとり」、「カピュレット家の宴会」、「愛の情景」☆
3.バルトーク/管弦楽のための協奏曲 (優)
アンコール:ロッシーニ/歌劇「セミラーミデ」序曲

 ずっと聴きたいと思いながらなぜか一度も聴いていなかったボストンシンフォニーをとうとう初めて聴いた。これまで聴いたアメリカのオーケストラは失望の連続だったが、やはりボストンは違った。落ち着きと自然さ、それに深い味わいのある音と演奏。「ヨーロッパの伝統ある一流オーケストラを聴いているような気分」という誉め言葉は、このオケにはかえって失礼にあたると思われるほど、固有の音の世界を持ったオーケストラだ。

小澤はやはりさすがだ。恐らくボストン・シンフォニー固有の良さを全く無理なく自然に引き出すという点で秀でているのではないだろうか。最初の曲、「レオノーレ」が始まっていくらもたたないうちから既にこのオケの素晴らしさがひしひしと伝わってきた。その「レオノーレ」序曲では小澤はソツなくまとめたという感じ。そのソツのなさがこの音楽のもつ魅力を自然に引き出していた。もっと訴えて欲しくもあったが、終盤ではそうした手に汗握る集中力も伝わりため息がでる。ベルリオーズは「愛の情景」での絹が織りなすような高貴でなめらかな肌触りと深みのある弦がまことにすばらしかった。

バルトークのオケコンは、前半のプログラムで更にふくらんだ期待を十分満足させてくれる演奏だった。アンサンブルはたいへん滑らかで美しく溶け合い、管楽器のソロの巧さに舌を巻いた。 弦のしっとりした深みのある歌にもますます心引かれ、鮮やかで品のある決して自己陶酔に走らない金管の響きも素晴らしい。小澤はこうしたオケの素晴らしい素材を見事にコントロールし、組み立て、綿密であると同時にしなやかな強さをもつ音楽に築き上げて行った。アンコールの「セミラーミデ」は上品過ぎのようにも感じた。

アメリカのオケでこれまでに感じた作り笑い的な明るさや「おれを見てくれ」的な押しつけがましさとは対極をなすような、自然と引き込まれて行く魅力溢れる小澤/ボストン響の演奏は心への焼き付き度がたいへん強い。感銘が時間が経つほどかえって鮮明にいつまでも心に残るすばらしいコンサートだった。


(チラシの裏面を見る)

長い歴史と伝統を持つ世界有数の名オーケストラであるボストン交響楽団の音楽監督を、小澤は29年間(1973-2002)の長きに渡って務め上げた。記録によれば、ミュンシュの在任期間(13年)を遥かに凌ぎ、クーセヴィツキの25年よりも長い小澤の在任記録は、恐らく今後も塗り替えられることはないだろう。それほど切っても切れない関係にあった小澤とこのオケの共演を聴くことが出来て本当に良かったと思う。あの時感じたオケについての「きめの細かく優美な音色と柔軟な表現力」という印象を、当時の感想では、オケそのものの持ち味を小澤が最大限に生かしたという風に書いているが、小澤がボストンシンフォニーの音の形成に一役買う貢献をしたことも確かだろう。

感想では、他のアメリカのオーケストラをネガティブに書いている。ロストロポーヴィチが指揮したワシントン・ナショナル・フィルの大味で威勢のいい演奏は覚えているが、ムーティ指揮のフィラデルフィア管弦楽団の演奏には感激したし、なんでこんなにアメリカのオケをけなしているのかわからず古い感想を捲っていたら、サロネン指揮ロスアンジェルス・フィルの演奏をこき下ろしているのを見つけた。この演奏に興奮している聴衆のことまで酷く書いていた。そんな思いが離れず、あんな感想になったのだろう。アメリカのオケを大して聴いてはいない身ではあるが、ボストン交響楽団は小澤の指揮者としての多様な資質、とりわけデリケートで豊かな感性を育むのに最も相応しいオーケストラだったのではないかとも思う。
(2024.2.20)

巨星・小澤征爾の訃報(小澤の感想リストあり)

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