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小澤征爾 指揮 新日本フィル:R.シュトラウス「サロメ」(1990/東京文化会館)

2024年02月15日 | pocknのコンサート感想録(アーカイブ)
小澤征爾さんの訃報を機に、このブログを始める前に書いていた小澤征爾指揮の公演の感想から、とりわけ感銘を受けたものの感想をアーカイブで紹介します。

pocknのコンサート感想録アーカイブス ~ブログ開設以前の心に残った公演~

1990年 9月13日(木)
R.シュトラウス/楽劇「サロメ」Op.54 ㊝
(配役)ヘローデス:ラグナル・ウルフング(T)、ヘローディアス:ヘルガ・デルネッシュ(MS)、サロメ:エヴァ・マルトン(S)、ヨカナーン:小松英典(Bar)、ナラボート:林誠(T)、ヘローディアスの小姓:西明美(MS)、5人のユダヤ人:田代誠、川村敬一、太田実、土師雅人、小川裕二 他
バレエ:エリザベッタ・マリーニ、東京シティ・バレエ団
(演出、装置、衣装)ピエル・ルイジ・ピッツィ
(指揮)小澤征爾/新日本フィルハーモニー交響楽団

東京文化会館


R.シュトラウスのオペラを初めて観た。世界一級の歌手達を集め、小澤の棒による「サロメ」は見応え、聴き応え十分の感動的な舞台だった。舞台は銀の玉でできた月が不気味に浮かぶ下のUFOを思わせるような傾いた円盤の上で全てが進行する。何とも象徴的なピッツィのアイディア。それがこのオペラにはたいへんふさわしいように思われた。

主役の歌い手達はどれもエクセレント!輝かしく力強く威厳を感じたヘローデス役のウルフング、これだけスケールの大きなテノールは日本人では望めないかも知れない。ヘローディアス役のデルネッシュは一番ブラーヴァを受けただけあってすごい。強靭なという表現がふさわしい声は恨みをむき出しにする役にぴったり。慄えがくるほどの迫力で圧倒した。そしてタイトルロール、サロメのマルトン。強く美しい声の持ち主。しなやかでみずみずしく計り知れない力を含んでいる。若く美しいサロメを演じるだけの十分な魅力を持ち、そして情欲をむき出し狂人のようにヨカナーンの首を求めるすごい女を見事に演じ切っていた。"Ich will den Kopf des Jochanaan!"を叫び続けるくだりの身に迫る歌は、今思い出してもゾッとするものがある。主役中、唯一の日本人キャスト、ヨカナーン役の小林英典もよかった。不正を許さぬ厳格な人物像だけでなく、神の使いの聖者、長い間暗い井戸の底にいるという神秘性、何か不気味さを感じさせるものがあった。ブラボーをいっぱいもらっていたが、圧倒する強さがもっと欲しいとも思った。声はたいへんいい。

これら歌手陣同様に感動したのはオーケストラ。新日本フィルは小澤の手にかかると、まるでウィーン・フィルのようなデリケートで表情のたいへん豊かな音を出す。R.シュトラウスの豊饒な管弦楽の世界を十分に味わった。小澤の指揮は無駄がなく的確でありながら、溢れる情感を湧き上がらせる。集中力から生まれる迫力、緊張感もすごい。この雄弁なオーケストラの演奏に何度トリハダが立ち、心臓が高鳴ったことか。意外にも小澤にだけ複数のブーが飛んでいたのは何故だか、オペラにはそう明るくない私にはわからず、無条件で感動した。

とにかくこのオペラは終始異常な空気で貫かれていて、おそろしいものを感じるが、人間が誰でも心の奥底に多かれ少なかれ持っているものではないだろうか。見ごたえのあったところはやはりサロメの踊りだ。舞台いっぱいに拡がるほどの白いヴェールをつけ、ダンサーたちがそれをまるで生き物のように操る。放出された精液を想わせるような白いうねうねとしたヴェールの踊りは、サロメの肉欲を象徴した見事な演出だ。踊り終えたサロメはいよいよヨカナーンの首を手に入れるべく白から赤い衣装へとかわる。最後、サロメが殺される強打音はまさにこのオペラをしめくくるのにふさわいい。音楽、歌い手、舞台どれもがすぐれたすばらしい「サロメ」だったと思う。私は終わったあとあまりの衝撃にしばらく拍手ができなかった。




(拡大可)

小澤の指揮で観た初の本格上演でのオペラは、初のシュトラウス体験ともなった。そのどちらも、衝撃的と云えるほどの感銘を受け、この先は小澤が指揮するオペラを度々観に行くようになった。新日本フィルも並々ならぬ力量で小澤の指揮に応えていたことが思い出される。

ヨーロッパではベーム、カラヤン、クライバーなど、デビュー当初からオペラハウスの指揮者としてキャリアを積んだ大指揮者が多い。オペラ指揮者として経験が浅かったこの頃の小澤のことを、「小澤はオペラを知らない」なんて得意げに吹聴する輩も少なくなかった。この公演で小澤にブーイングを浴びせたのもこうした類の奴らだったに違いない。その後の小澤のオペラ指揮者としてのキャリアを思えば、この頃から小澤はオペラに対しても非凡なセンスを持ち、力を発揮していたことは間違いないだろう。僕が小澤の「サロメ」に感動したのは、オペラの知識があまりなく、余計な先入観なしに小澤の演奏に向き合えたからだと思う。
(2024.2.15)

巨星・小澤征爾の訃報(小澤の感想リストあり)

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