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テツラフ・カルテット

2014年10月07日 | pocknのコンサート感想録2014
10月7日(火)テツラフ・カルテット 
~クァルテットの饗宴2014~
紀尾井ホール
【曲目】
1.モーツァルト/弦楽四重奏曲第15番ニ短調 K.421
2. ヴィトマン/弦楽四重奏曲第3番「狩りの四重奏曲」
3. ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第15番イ短調 Op.132
【アンコール】
ハイドン/弦楽四重奏曲第33番ト短調 Op.20-3 ~第3楽章メヌエット

ヴァイオリニストとしてのテツラフの存在は知っているが、テツラフが固定メンバーでカルテットをやっていたことは知らなかった。しかもこのテツラフ・カルテットは結成から20年という長い活動歴を持つ。紀尾井ホール主催ということもあり、興味を持ってアルテミス・カルテットとのセットでチケットを買った。

最初のモーツァルトが始まってすぐに感じたのは純度の高い響きの美しさ。不純物が一切混ざっていない透明な響きが、モーツァルトの短調の楽章から立ち昇ってきた。テツラフ・カルテットは、この研ぎ澄まされた美音で音楽を緻密に練り上げる。4人のプレーヤーが、空中で精巧に積み木を積み上げて行くような高度なバランスを保ちつつ、今アンサンブルでどのパートがどのように聴こえるべきか、ということを完全に掌握しながら主役が次々と入れ替わり、主役を譲った側の役割も明瞭に聴こえてくる。そんなアクロバティックなやり取りがごく自然に行われてゆく。

更にこのカルテットから感じたのは、弱音の静けさ。それは身動きせずじっと息を潜める静けさで、そこから一気に嵐を引き起こす振幅の大きさと激しさ。アグレッシブとも言える激しさや鋭さは、「歌」よりもコントラストやアクセントを強調するクレーメルを思わせるスタイルで、好みで言えばモーツァルトではもっとしっとりと歌い上げて欲しい気もしたけれど、第3楽章メヌエットのトリオでテツラフは軽やかで美しい「歌」を聴かせてくれ、テツラフが素晴らしい歌心の持ち主であることも示していた。

そんなテツラフ・カルテットのアグレッシブな特徴が炸裂したのが次のヴィトマンの曲。視覚的なパフォーマンスや叫び声なんかも入り、音楽はいつも高いテンションに貫かれている。バランス感覚や響きへの細やかな配慮も感じられ、アグレッシブさと共に高級感も備わっていた。

でも一番心に迫ってきたのは後半のベートーヴェン。ベートーヴェン晩年の弦楽四重奏曲はどれもちょっとイっちゃってるというか、常人の世界を離れたところがあって、他の曲でどんなに素晴らしい演奏をしても、これはやっぱり手強いな、と思ってしまうことが多い。しかし、今夜テツラフ・カルテットが披露した演奏は、このベートーヴェンの世界観を完全に自分たちのものとして消化して、その世界へ連れて行ってくれた。

前半と変わらない純度の高い響きと、研ぎ澄まされた感性で音楽のエッセンスを抽出し、それを4人のプレーヤーが鮮やかな手つきと身のこなしで最上の姿に形作って行く。この曲だけでなく、ベートーヴェンの晩年のカルテットの演奏では、バラバラになりそうなところで必死にコラえてゴールインしてるみたいな演奏に出くわし、「タイヘンな曲なんだなー」と感じることが少なくないが、この4人は呼吸が完全にシンクロナイズしていて、どこで何が起きているかを誰もが把握し、それにどう反応すべきかを心得て、一つの生命体として進んで行く。その様子は、荒波を軽々と乗り越えて進んで行く船のようにも思えた。実際、フィナーレ楽章ではそんな舵取りの見事さに息を呑んだ。

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