3月28日(金)小菅優(Pf)
~ソナタ・シリーズVol.4「神秘・魅惑」~
紀尾井ホール
【曲目】
1.スクリャービン/ピアノ・ソナタ第9番 Op.68「黒ミサ」
2.藤倉大/ピアノ・ソナタ
3.ベルク/ピアノ・ソナタ Op.1
4.リスト/ピアノ・ソナタ ロ短調


【アンコール】
♪ リスト/ノクターン「夢の中に」S.207 R.87
4回目となる小菅優の「ソナタ・シリーズ」を聴いた。選ばれたソナタはどれも古典的なソナタ形式から離れた独自の世界を持つ4作品。小菅は集中力を途切れさせることなく、それぞれの作品の個性を明確に描き分けた。
小菅は、音楽が持つ固有の空気や色を表現することに非常に長けている。音楽の独特の匂いをかぎ分け、それを引き出し、このリサイタルのテーマである「神秘・魅惑」に相応しい色で染め上げ、聴き手をその音楽の世界へ引き込んでゆく。
スクリャービンでは、最初の下降音階から闇の中、異界へ引き入れ、半ば熱にうなされたような取りつかれた気分へと導いていった。日本初演となった藤倉大のソナタは、柔らかな淡い光が浮遊して辺りを包み込み、色彩のグラデーションを描いていく前半部分が、まさに神秘や魅惑を感じさせた。まるで魔法にかかったような音の饗宴・舞いを思わせるピアノだった。
ベルクのソナタは、調性ははっきりしないがしっかりと旋律があり、構成があり、展開があることが演奏からはっきり伝わってきた。ロマンチックななかに芯があり、頼もしい骨格を感じた。ベルクが、過去の音楽に対する憧れや敬意を持ちつつ、新たな音の世界を目指していることが感じられた。
最後はリストの大作。厳しく、熱く、集中力に溢れる圧巻の演奏だった。悪魔的なものを漂わせ、ダイナミックに華やかに歌い上げるところでも影が付きまとい、近寄り難いものを感じる。
多くのピアニストが取り上げるこの曲は、単に優れたテクニックと豊かな音量で訴えるだけでなく、そのピアニストならではの味つけが欲しいが、小菅の演奏からは、ある種の「毒」が潜んでいるように感じられた。この毒は、危険なドラッグのようにも、快楽のようにも感じられ、それが「神秘・魅惑」というテーマに合致していた。終結部の静かに天に舞い上がった後に打たれる低い「シ」の音が、そんな毒の最後の一滴のようにも聴こえるただならぬロ短調ソナタだった。アンコールで弾いた「夢のなかに」が、一種の解毒作用のように心を穏やかに和らげてくれた。
小菅のリサイタルシリーズにはテーマが与えられるが、全ての演奏曲目が表面上ではなく、深いところでそのテーマで繋がっていることを、リサイタル全体を聴き終えて実感することとなり、小菅優の非凡さにあらためて恐れ入ったリサイタルだった。
小菅 優 “ソナタ・シリーズ” Vol.3「愛・変容」~2024.9.29 ひまわりの郷ホール~
小菅 優 “ソナタ・シリーズ” Vol.2「夢・幻想」~2023.11.14 東京オペラシティ~
小菅 優 “ソナタ・シリーズ” Vol.1「開花」~2023.3.10 和光大学ポプリホール鶴川~
小菅 優「自分が今一番向き合いたい作品」~2022.1.21 東京オペラシティ~
小菅 優 ピアノリサイタル Four Elements Vol.4 Earth~2020.11.27 東京オペラシティ~
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3.ベルク/ピアノ・ソナタ Op.1

4.リスト/ピアノ・ソナタ ロ短調



【アンコール】
♪ リスト/ノクターン「夢の中に」S.207 R.87

4回目となる小菅優の「ソナタ・シリーズ」を聴いた。選ばれたソナタはどれも古典的なソナタ形式から離れた独自の世界を持つ4作品。小菅は集中力を途切れさせることなく、それぞれの作品の個性を明確に描き分けた。
小菅は、音楽が持つ固有の空気や色を表現することに非常に長けている。音楽の独特の匂いをかぎ分け、それを引き出し、このリサイタルのテーマである「神秘・魅惑」に相応しい色で染め上げ、聴き手をその音楽の世界へ引き込んでゆく。
スクリャービンでは、最初の下降音階から闇の中、異界へ引き入れ、半ば熱にうなされたような取りつかれた気分へと導いていった。日本初演となった藤倉大のソナタは、柔らかな淡い光が浮遊して辺りを包み込み、色彩のグラデーションを描いていく前半部分が、まさに神秘や魅惑を感じさせた。まるで魔法にかかったような音の饗宴・舞いを思わせるピアノだった。
ベルクのソナタは、調性ははっきりしないがしっかりと旋律があり、構成があり、展開があることが演奏からはっきり伝わってきた。ロマンチックななかに芯があり、頼もしい骨格を感じた。ベルクが、過去の音楽に対する憧れや敬意を持ちつつ、新たな音の世界を目指していることが感じられた。
最後はリストの大作。厳しく、熱く、集中力に溢れる圧巻の演奏だった。悪魔的なものを漂わせ、ダイナミックに華やかに歌い上げるところでも影が付きまとい、近寄り難いものを感じる。
多くのピアニストが取り上げるこの曲は、単に優れたテクニックと豊かな音量で訴えるだけでなく、そのピアニストならではの味つけが欲しいが、小菅の演奏からは、ある種の「毒」が潜んでいるように感じられた。この毒は、危険なドラッグのようにも、快楽のようにも感じられ、それが「神秘・魅惑」というテーマに合致していた。終結部の静かに天に舞い上がった後に打たれる低い「シ」の音が、そんな毒の最後の一滴のようにも聴こえるただならぬロ短調ソナタだった。アンコールで弾いた「夢のなかに」が、一種の解毒作用のように心を穏やかに和らげてくれた。
小菅のリサイタルシリーズにはテーマが与えられるが、全ての演奏曲目が表面上ではなく、深いところでそのテーマで繋がっていることを、リサイタル全体を聴き終えて実感することとなり、小菅優の非凡さにあらためて恐れ入ったリサイタルだった。
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