五里霧中

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稲川淳二の怪談 Mさんの思い出話

2009-08-20 21:56:00 | 心霊・怪談

 

 

それは、福井県の、海側の町。

小さな入り江のある町だそうです。

そこの出身でMさん。

彼女が話してくれたことなんですが------。

Mさん、名古屋に出て、働いてて。

あるとき、仕事で休暇をとって。

で-------実家に帰った。

ちょうど端午の節句のとき。

毎回、端午の節句のころに、実家に帰ることにしてる。

それが、なんとなく、習慣になってたそうです。

ところが、そんときは、仕事が長引いて。

端午の節句の日に帰るはずが、一日遅れてしまった。

でもまあいいやと------。

で、、帰ったわけだ。小さな入り江の町に。

駅からバスに乗って。入り江の入り口にあるバス停に降りて。

実家にたどり着いて。

で------ひとまず荷物置いて。ひさしぶりだってんで、町をぶらつこうかなと。

入り江までまた歩いた。

顔見知りの定食屋に入って。

と、

「見たことない男性が、昨夜町にいた」

って、地元の人がいう。

「ああ、男性なら私も昨晩見かけたよ」

行商のおばさんもいった。

「どこの人だろう?暗くて、夜で、よく顔見えなかったけど」

「入り江のバス停のとこ、歩いてたねえ」

いって。で、へえっ------とMさん、思った。

車で、よその人が通りかかることはあっても、小さな町ですから、見知らぬ人がぶらぶら歩いたりして、長居してることはめったにない。

「変ねえ-----」

こういう御時勢ですから。物騒だ。気をつけようって思った、Mさん。

でえ、その日も日がだんだんと暮れてきて。

でも、まだ家に帰りたくないんで、Mさん、入り江のほうに散歩に出かけた。

ひさしぶりに見る故郷の海。

故郷の浜辺。

なつかしい。

きれいで、見てるだけでほっとする。

「やっぱりふるさとって、いいなあ-----」

思って、ぶらぶら、夕暮れの入り江を歩いてると、男性が、歩いてくるのが見えた。

えっ?

そんとき、Mさん、非常に驚いたっていう。

というのは、その男性、突如、現れた感じがしたからだ。

入り江の長い浜。

Mさん、そこ歩いてて、浜の先まで、まだ見える。

その人影が見えなくなるほどまでには、まだ暗くなってはいなかったからだ。

さっきまで、その浜の先には、だーれもいなかったはずだ------。

たしかに、だーれもいなかった気がする。

それなのに、突如、20メートルぐらいのところに男性が歩いてくるので、

ええっ!

驚いたわけだ。

だんだん、だんだん、近づいてくる。

男性と、自分。すれ違う。

Mさん、わざと顔見合わせないようにして、下、見てたって。

で、とうとう、すれ違った。

そのすれ違いざまに、

うっ!

と、見た。そっち。男性のほう。

え、えっ!うゎ!

お母さん!

とっさに、Mさん、叫んだって。

男の姿、--------消えてる。

お母さん!

Mさん、それから、自分がどこをどう走ったのか、わかんない。

わかんないほど、必死で小走りに走って。で、家に帰った。

「お母さん!今、浜でね!」

Mさん、お母さんに一部始終話した。

男のこと。

すると-----お母さん、

「あら、そう------」

まあっ-------ていって、そんなに驚いた様子じゃない。

というよりも、顔をゆがめて、困ったような様子してるんで、

「どうしたの?お母さん」

聞くと、

「ううん、なんでもないけど」

いって。で、

「昨日から、町の人が見かけている男って、きっとあの人よ」

「きっとあの男よ。幽霊よ。間違いないわ。」

Mさんがいった。

でも、思い出すたんびに、ぞくっぞくっと背筋に悪寒が走る。

だって、無理もない。

自分は、その幽霊と、すれ違ったんだ。

「いやだ-----。今夜、眠れるかしら」

Mさん、怖くなって、その夜はお母さんと一緒に寝ることにしたって。布団ならべて。

で、夜-------。

寝てるとき、

「お母さん」

Mさん、いった。

「なに?」

「悟さん、どうしてる?」

聞いてみた。

悟さんというのは、町の消防団のメンバーで。

町の小さな酒屋をついで、ひまですから、年中、町の消防団の仕事してる。

実は、Mさんは、その彼と、いい仲になりそうだったんだけど-------。

いろんな事情があってねえ------。家の事情の違いとかで------。

結局、別れ別れになって。

彼は、地元に残った。

Mさんは名古屋に、働きに出たわけだ。

ひさしぶりに故郷に帰ってきて、かつての、好きだった人のことが気になるわけだ。

「悟さん、いい人、見つかった?」

聞くと、-----お母さん、黙ってる。

見ると-----母さん、まだ寝ていない。

目を開けてる。でも、黙ってるんで、

「悟さん、モテるから、もうとっくに結婚して、家庭もってるんでしょ?」

聞いたわけだ。

で、それでもお母さん-------黙ってる。

ははぁ-----。

Mさん、わかった。

きっと、悟さん、幸せな結婚してて、で、お母さんは自分にそれをいうのをためらっているんだと。

Mさんは、まだ独身。

でも、悟さんは、もうとっくに結婚してる。

幸せな家庭を築いているんだ。

だもんで、お母さん、なにもいわずに、だまっちゃったんだ------思った。

そんときだった-----。

「悟さん、亡くなったよ」

ぽつんと、いった。

あんまり、何気ないいい方だったんんで、えっ?一瞬Mさん、聞き返したら、

「悟さん------。亡くなったよ」

------いった。

--------!

「昨年末に、ガンで亡くなったよ」

いう---------。

Mさん、驚いて、ショックで、口がきけない。

「悟さん、去年、いってたよ」

って、お母さん。

「おまえ、いつも、端午の節句に戻ってくるから。来年はバス停まで迎えにいこうかなって、いってたよ」

って------。

「でも、死んじゃって、かなわなかったけどねえ」

--------。

「あんたのこと、まだ忘れられなかったんだよ」

って、お母さん、そんときはじめていうんで、Mさん、そんとき、いろんなことが急に思い出されて-----。

いろんなこと-----。

悟さんと離れ離れになってからのこと、名古屋での仕事のこと、いろんなことが急に思いだされて、で、お母さんのその言葉聞いてもう、一気に気持ちが高まっちゃって。

泣き出した。Mさん-----。

と-----お母さんが、

「浜ですれ違った男性って、どんな人だったの?」

聞くんで、

「ううん-----わかんない。暗くてよく見えなかった」

いうと、

「服装は、どんなだった?」

いうんで、

「えっ-----、それは------肌色の上下の作業服、着てて。胸に赤いリボンがあって-----」

いいながら、Mさん、--------はっ!とした-----。

あぁぁぁぁ-------!まさか!

思った-------。

ようやく、そんとき、気づいた。

あれ、消防団の制服だった------。

あの男性、消防団の制服着てた。

それ聞いてお母さん、最後にぽつん、と一言、いったそうです------。

「もしかしたら悟さん、あんたを迎えに来てたのかもねえ」

って------。

終わり



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