五里霧中

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稲川淳二の怪談 ねんねこ坂

2009-09-21 22:17:32 | 心霊・怪談

 

ことの始まりというのは、ある年のね、夏に入る前だったんですが、

私のツアーにも毎回、きてくれる人なんですけどね、

その人から

「面白い場所があるから、行ってみたらどうだ」

って連絡、もらったんです。

この人も大変に、まあ、日本中あっちこっちへと行く方で、

珍しい場所を見つけたりするのが、好きな人らしいんですがね。

彼の家を訪ねて、場所聞いて、行ってきました。

場所はね、千葉県なんですよ。

千葉県っていうのはね、まぁね、ご存じの方もいらっしゃるとは思うけど、

海沿いにはねぇ、道路もある、鉄道も走ってるんですがね、

千葉県をこう中央を突っ切る道路、鉄道ってないですよね。

で、結構、山が深いんですよ。

不便なところがわりとあるんですよ。

そんなところの、ある場所なんです。

行ってみたらね、これが妙なんですよ。

っていうのは、車1台がやっと通る様なね、長くてきつい、上りの道があるんですよ、山の道。

その暗い道を、どんどんどんどん、どんどんどんどん、上がっていくんです。

するとね、やっと頂上に出るんですが、

そこにね、廃墟になったラブホテルがあるんですよ。

いつ頃建ったもんなのか、いつ頃その営業を止めたもんか分かりませんがね。

不気味なんですこれが。

大体、なんで、こんなとこに、建ってんだろうと思ってね、町からは随分遠いんですよ。

途中に明かりはないし、民家がないんですよ。

こんなとこまで、くるかな~って思うわけですよ。

そんなとこなんです。

でも、そこにホテルがあるんです、確かに。

で、この峠の先は、きつい下りの坂が続くんですよ。

この坂がやっぱり車1台がやっと通れるくらい、狭い坂でしてね。

すごい急な傾斜を下っていくんですが、つづら折りというやつで、ジグザグになってるんですよ、道が。

一方は、すごい崖ですよ、断崖の崖が、ずーっと続いてる。

で、もう一方はっていうと、谷なんですよね。

もう絵に描いた様なところ。

上の方は、鬱蒼とした山なんですよね。

で、ここが暗いんだ昼間でも。 

で、このながーい坂道の途中、車と車がすれ違えるように、

こう車道のね、幅を広くした場所が、3カ所位あるんですよ。

そこにね、不思議なことに、この長い坂道の途中に、公衆電話ボックスがあるんですよ。

しかも、ちゃんと使えるんだ。

だけどね、そこには、全く民家なんてないんですよ。

明かりもないくらいなんですよ。

車が、ほんとたまに通るだけ。

人はいないし、一体この公衆電話、何のためにあるんだろう、

一体、誰が使うんだろうってね、ずっと気になってたんですよ。

何で、こんな場所にあるんだろうって。

しかもね、今時、皆さん、携帯電話があるじゃないですか。

町中なんかずいぶん、公衆電話なくなりましたもんねぇ。

なのに何故、こんな場所にあるんだろう。

気になったんでね、あれこれ調べたんですよ。

そうしたらね、ま、地図にはない名前なんですが、昔、土地の人はここを

「ねんねこ坂」

と、呼んだっていうんですよ。

ハテナ?

と、思った。

実はね、それ私、知ってるんですよ。

っていうのはね、静岡県の東部なんですが

「ねんねこ坂」

ってあるんです。

ただ行ったことはないんですがね、話は聞いたことがある。

それはどういう話かというとね、

その昔、凍てつく冬の闇の夜にまぎれて、遠くに向かう険しい山道を、夫婦が逃げてきた。

亭主はヤクザ者で、人を殺めて追われる身。

女房はその後を追って、ついてきた。

女房は背中に、ねんねこで赤子をしっかりと結ぶ。

灯りも持たずに、きつい坂道を上がってきたもんですから、

足は傷だらけで血にまみれ、おまけに赤子を背負ってのことですから、

息も絶え絶えで、峠までついたんですが、そのままストンと座り込んじゃった。

足はもう棒のようで、一歩たりとも歩けない。

その先はっていうと、急な下り坂がずーっと続いてる。

女房が苦しい息をしてると

「さぁ、あとはもう下るだけだ」

と、亭主がね、先を急がせる。

せかされた女房も、立ち上がってはみたんですけど、

足がふらついて思うようには歩けない。

それでも闇に包まれた急な坂道、女房は一歩一歩とね、ふらつく足で歩こうとしてた。

それを見た亭主が、こいつと一緒じゃ、この先、なにかと足手まといになるに違いない。

この坂道を下って、無事逃げ切れりゃ、

またこれから、どんないい思いができるか分からない。

そうなると、こっちが邪魔になってくる。

いっそのこと、赤子もろともここで殺してしまおうか、と考えた。

そんなこととは知らない、この女房の方は、

急な坂を一歩一歩、赤子をかばうようにして下りていった。

そんなとき、あろうことか、このヤクザ者の亭主が、

その女房を後ろから、力任せに蹴ったからたまんない。

女房は、頭っから急な坂道をゴロゴロゴロゴロと、転げ落ちてった。

女房はね、とっさに、子供を助けようと思うんですけど、

勢いづいて転がっているし、

子供の方は、ねんねこでしっかりおぶってるもんですから、体から離れない。

ガラガラガラガラガラガラゴロゴロゴロゴロ

転がる度に、女房の背中の下で、押し潰された子供は

「うぇっ、うぇっ」

と、血を吐いて、みるみるこのねんねこを、赤く染めていくわけだ。

女房は、もう死にものぐるいで、凍てつく坂道に、ガッと爪を立てるんですが、

バリバリバリ、っと生爪がはがれて、腕といい、顔といい、

散々にぶつけたもんですから、血にだんだんだんだん、染まっていく。

血に染まりながら、女房は谷底にガラガラガラガラ、落ちていく。

悲しい女房の悲鳴が、暗い谷底に落ちて行った。

それ以来、この赤ん坊と母親の血を吸った、怨念の坂道、

ここを通ると谷を吹き抜ける風に乗って、

時折、悲しい女の悲鳴と、狂ったような赤子の泣き声が聞こえる。

そんなことから、この土地の者は

「ねんねこ坂」

と呼んでいる、そんな話です。

時が流れて、時代が経ったんですけどね、

不思議なことに、この坂道を通る車が、原因のわからない事故を起こすって言われてるん
です。

急に車が止まってしまったり、ブレーキがきかなくなったりして、

崖にぶつかったりするということが、あるっていうんですよね。

でね、そのとき

「待てよ、その話って、もしかすると、静岡ではなくて、千葉県のこの場所じゃないか」

と、思ったんですよ。

それで、調べてみたんですよね。

そうしたら、面白い話が聞けたんですよ。

と、言うのは、いつの頃からか、定かじゃないんですが、

峠にあるこのホテルから、深夜、カップルが車でもって、この急な坂を下りてきたんだそ
うなんですよ。

それは冬のことだったんですがね、

車が、そのきつい、つづら折りの道を、ずーっと下りてきた。

その途中までくると、なぜかエンジンが止まっちゃう。

いくらキーを回しても、ピクリともエンジンは動かないんです。

男の方は携帯を持ってたんで、

これでJAFでも呼ぼうかと思ったんですが、電波が届かない。

辺りを見るんですが、辺りにはまるっきり人家がない。

明かりもない。

助けを求めて、ホテルまで行こうかと思うんですが、

かなりきつい上りな上に、距離が相当にある。

行けたもんじゃないんだ。

じゃあ、下っていくかっていったって、

町まで、これまた相当距離がある。

これも行けたもんじゃない。

おまけに車はね、道いっぱいに止まってるもんですから、

他の車がきたら、通れなくなるわけだ。

仕方ないので、後はもう、他の車がきて、助けてもらうのを待つだけなんですよね。

車は道幅いっぱいで、

これ、車がよけて通るわけにはいかないですから、絶対向こうは止まるわけです。

じゃあ、ここで待とうかと、ジーッと車で待ってるんですがね、

いくら経っても車がこない。

上りもこなければ、下りもこない。

車の周囲はっていうと、真っ暗で夜の闇ですよ。

シューーーーーーゥシューーーーー

谷間を吹き抜ける風。

シューーーーゥーーーーー

なんか妙に寒々しい。

さすがに、恐くなってきちゃった。

参ったなーー、って思っていると、

カーーーーーーーって風に乗ってね、

音だか何だか、判らないものが聞こえる。

それが少しずつ、だんだんと大きくなってくる。

うめき声のような、叫び声のような、

それでいて何だかケモノのような、妙に得体のしれない声が聞こえてくる。

(うわぁ!何だ気持ち悪いな)

と思ってるんですが、それが、確実に闇の中で近づいてくる。

どうやら、この真っ暗な闇の坂道を、

その声の主というのが、こっちへ下りてきているようなんですよ。

だんだんと下ってきて、近づいてきている。

(うっ、嫌だな、何だろうな)

と思っている内に、少しずつ、それがハッキリと聞こえてきた。

ヒュゥーーーーーゥゥーーーーー

ーーーーーーゥゥーーーーーンンンギギギギギン

全く、得体の知れない声なんです。

もう、気持ちわるくて、できるもんなら、そのままやり過ごしたいわけですよ、

ただ黙ってね。

ピュゥーーーーーンーーーーーーンンンン

ギギギギギィィィ

だんだん近づいてくる。

うぅぃあぁわーーーーーーーーぅ

ぅぅーーーーううううーぐぅ

なんだか、恐い。

恐いけど、逃げれない。

飛び出すわけにも行かないから、だたジーッと、ガマンしている。

ううぁえぇーーーううぁえぇ

もう、すぐそこまできてる。

闇の中、何だか判らない。

外は、真っ暗な闇だから見えない。

ううーぇええーーーぇぇ

やぁぁにゃゃゃああわあ

もうそこ。

にゃあやあぁぁぁにゃぁぁぁぁぁ

ドッドドドドッドドド

(うわっ!なんか流れてきた。うわぁっ)

ドッドドフンギャァぁぁにゃぎゃあほんぎゃぁ

(うわぁっ)

と、思いながら、男がバックミラーの方を、フッと見たら、

そうしたら、暗い闇にの中に、なにかを見た。

その瞬間、体が凍りついた。

リアウインドーの、暗い闇が写ってる、

その、リアウインドーの上の方に、血まみれの足が、ズルッと這い上がってた。

ドンドドンニィ~~~~~ッドンドンドン

頭の上で、音がしてる。

這い上がってくる。

今、車の上を這いずってるわけですよ。

ドンドンドンウィ~~~~ニィ~~~~

ということはね、これから先、どういうことがあるかって、予測がつくわけですよ。

で、彼女の方に

「いいか、いいか、目、つぶってろ!見るな、絶対見るな」

って、言ってね、自分も黙って目、つぶってたんです。

ん~~~~ドンドンドンッ

ニィ~~~~ドドンドンドンドンドドン

ニィ~~~~~~~~ギィャャャ~ャャャ

その瞬間、彼女の悲鳴が聞こえたんで、男が思わず、フッと見た。

目の前の、フロントウインドーに、血にまみれた手が、ボンッと貼りついてる。

そのまま、黙って見てると、今度は、フロントウインドーの上から、

ザワザワザワザワって、髪が落ちてきた。

見るうちに、血に濡れた額が見えてきた。

やがて、目がのぞいてる。

血まみれの女の顔が、ズズズーーーって滑ってこっち見てる。

ドドンドドンドドンッニィ~~~~~って、

ずーっと言っている、

女の首の付け根辺りの真っ赤なボールのようなもの、

それが、突然、口を開けて、

ニェァ~~~~~~ッ~~

ドドンドドンドッドッドン

ニェァ~~~~~

って、叫んでた。

そして、ボンネットの上をすりながら、

闇の中に、その姿は消えてったそうです。

恐怖で体が凍りついて、何にもできないでいたそのとき、スルッと車が動いた。

そのまま、スーーーーっと動いてって、ドンッて崖にぶつかった。

エアバックがボンッと膨らんだ。

シートベルトをして、シートとエアバックに挟まれた、

その姿というのは、

ねんねこの中で、母親の背中に押し潰された、赤子の姿に似ていたそうですよ。

しらばくして、そのふたり、慌てて車から飛び出すとね、

助けを求めて、暗い坂道駆けてった。

トットットッ坂道を逃げていくと、前方に明かりが見えた。

明かりが、段々近づいてくる。

見るとそれ、公衆電話ボックスなんですよ。

(うわあ~、助かったーーー!とにかく助かったー)

って、思ってね、トットットッ走って、ガタンと開けて中へ入った。

で、そこから助けを呼んだんだそうです。

そうなんですよ、あの公衆電話ボックスなんです。

人家も人通りもほとんどない、明かりもないあの場所、あの坂。

そのための、電話ボックスだったんですね。

終わり




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