TBSが反則ボクサーのために
新聞メディアから叩かれています。 珍しいメディアスクラムですな
そのうちに各社HPからなくなるでしょうから備忘録として載せておきます。
東京新聞
“亀田一家ブーム”あおり続け… TBS、商業主義改めず
2007年10月17日 朝刊
今月十一日のボクシング世界タイトル戦での反則行為などで、亀田大毅選手らが日本ボクシングコミッション(JBC)から処分を受けた。品性を欠く言動や、反則行為が非難の的になっているが、亀田父子の破天荒ぶりを大々的にあおり、視聴率を稼いできたTBSの放送姿勢に問題はなかったのか。本紙には視聴者からの厳しい声が続々と寄せられている。 (宮崎美紀子、安食美智子)
TBSは、大毅選手や兄の興毅選手をスポーツドキュメンタリーやバラエティー番組などに次々に出演させ、亀田ファミリーと“持ちつ持たれつ”の関係を築いてきた。挑発的な言動も繰り返して流し、破天荒なキャラクターを売りにする兄弟のスター性を高めるのにも大いに“寄与”した。
昨年八月の興毅選手の世界ボクシング協会(WBA)ライトフライ級王座決定戦の視聴率は42・4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)に跳ね上がったが、試合開始を延々と引き延ばして視聴者をじらす放送手法には、“疑惑の判定”と相まって、同局に抗議の電話などが五万件以上も殺到した。
昨年四月の同局番組審議会では、委員の一人が「兄弟の取り上げ方があまりに極端な商業主義化。試合が終わった後に歌を歌わせたり…。抑制しないと、スポーツの持つ意味がだんだん変わってくる」と警鐘を鳴らしたが、同局の姿勢に変化はみられなかった。
しかし、問題となった十一日の大毅選手の試合以降は様相が一変。十三日の「ブロードキャスター」では福留功男キャスターから、「亀田ファミリーのみならず、テレビ局も謙虚にならなければならない」と、暗に局側に自戒を促すような発言も飛び出した。また番組の“ファミリー”として親密さをアピールしていた「サンデー・ジャポン」には十四日、チャンピオンの内藤大助選手や家族が生出演。苦労話を特集で手厚く放送し、同局の変わり身の早さも浮き彫りにした。
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今回の騒動について、スポーツジャーナリストの谷口源太郎氏は「ワルのキャラクターの亀田父子を大々的に売り出し、視聴率は成功したが、ボクシング中継という感覚じゃない。これ以上はダメという明確なケジメをTBSは持っていなかった」と指摘。さらに「父と兄の反則指示まで“見事”に伝えたのは、権威ある世界タイトル戦の中継という自覚がないから。普通は、まずいと思って画面や音声を切り替えるでしょ」と苦笑する。
放送ジャーナリストの小田桐誠氏は、まずテレビ界全体の最近の風潮を憂う。
「『もうかればいいのか』とIT企業を非難しながら、朝から晩まで自局主催のスポーツや番組を宣伝している。亀田問題も、その一つ。十八歳の少年が年長者に暴言を吐くことの影響力を認識して番組を作っていたのか」
またTBSについては、「五十歳以上の人にとって、節度があり、質の高いドキュメンタリーやドラマを作るというイメージの局。(亀田問題は)落差を感じて仕方ない。『楽しくなければテレビじゃない』のフジや、力道山の時代からスポーツに力を入れている日テレなら、もう少しうまくやっただろう。慣れないことをやって視聴率をとらなきゃいけないほど、追いつめられているのか」と“迷走”ぶりを指摘。亀田父子については「ある意味、メディアの怖さを知らないがゆえの犠牲者」と評した。
TBSには十一日の試合放送後、翌日午前九時までに千五百件近い抗議などが寄せられた。
同局広報部は「今回の処分については、直接コメントする立場にないが、視聴者や関係者の皆さまからさまざまなご指摘をいただいており、これを真摯(しんし)に受け止め、今後の番組作りに生かしたい」とコメントしている。
朝日新聞
亀田父子処分―あおった者の責任も重い
2007年10月17日 朝刊
ボクシング一家として関心を集めてきた亀田家の父親と兄弟2人に、厳しい処分が下された。
フライ級の世界戦で目つぶしや首投げ、抱え投げと、プロレスまがいの反則行為を繰り返した挑戦者の大毅選手は今後1年間試合ができない。
反則をそそのかしたり相手選手をおどしつけたりした父親は、選手に指示するセコンドの資格を無期限で停止された。今後の指導も禁じられる。同じく反則をけしかけた長男、興毅選手も厳重な戒告を受けた。
米国では10年前、ヘビー級世界戦で相手の耳をかみちぎったタイソン選手が選手資格をとりあげられたことがある。今回はそれに準じる重大な反則だ。処分は当然だろう。
ボクシングは、人が一対一で殴り合うスポーツだ。かつては死亡事故も少なからずあった。それを教訓に危険防止や闘う技術の研究を重ね、厳しい規則の網をかぶせて、スポーツとして練り上げてきた。単なる殴り合いとは明確な一線をひく歴史を積み重ねてきたのだ。
その点で亀田父子の責任は重い。しかし、彼らの暴走を許し、あおったものにも目を向ける必要がある。
まず、ジムだ。入門した大阪のジムは「父子鷹(おやこだか)」に目をつけ、デビュー前から売り出しに熱中した。その後、東京へ移ったが、そこでもジムの会長は父親の指導の下で自宅で練習することを認め、実力の怪しい外国選手ばかりと戦わせて世界ランクをあげた。実力不足は今度の試合を見れば明らかだ。
亀田父子の人気に頼って収入をあげることを優先し、ボクサーとしての本来の教育や実力アップを放置してきたことは非難されても仕方あるまい。
メディアが果たした役割も見過ごせない。なかでもTBSだ。世界戦を中継するにあたって特別番組や情報番組で繰り返しとりあげるなかで、過剰な演出や配慮を感じさせられた。視聴率優先の無批判な番組作りが、父子の気分をいたずらに高揚させたのではなかったか。
安易なヒーローづくりは、長い目でみれば決してボクシングのためになるとは思えない。
ボクシング人気は最近低迷している。亀田兄弟の試合を除けば、世界戦でも視聴率が1ケタということが珍しくない。パフォーマンス優先の新興格闘技が次々に現れ、シンプルでストイックな競技は分が悪い。だが、その奥深さに魅力を感じるファンも少なくない。
日本のプロボクシングは、興行を含めて基本的にジム任せだ。大口の収入はテレビ放映料がほとんどだから、テレビ局におんぶにだっこにならざるをえない。今回の問題の下地はそこにある。
処分が出て、問題が解決するわけではない。選手育成や収益構造の見直しなどにボクシング界全体で取り組まなければ、ゆがみはまた別の形で現れる
産経新聞
【主張】亀田父子処分 持ち上げた周囲にも責任
日本ボクシングコミッション(JBC)は、世界ボクシング評議会(WBC)フライ級タイトルマッチで反則を繰り返した亀田大毅選手を1年間のボクサーライセンス停止にしたのをはじめ、父親の史郎トレーナー、兄の興毅選手にもそれぞれ処分を下した。
大毅選手は試合中、王者の内藤大助選手を投げ飛ばし、グローブの親指の部分で目を突くなどの行為を公然と行った。明らかなルール違反だ。
ボクシングはリングの上で、選手同士が殴り合い、相手を倒す競技で、時には、死に追いやる危険性を伴っている。だからこそ、互いに敬意を払い、試合終了のゴングが鳴れば、勝敗を別にして健闘をたたえ合うスポーツだ。この基本から逸脱した亀田一家の行動は見苦しい限りだった。ペナルティーは当然である。
JBCにも混乱を招いた責任がある。大毅選手は実力不足にもかかわらず、派手な演出で注目を集めて世界戦を実現させる手法を黙認し、結果的に支援してきた。また、WBCのルールでは、セコンド(選手に付き添い、アドバイスをおくる役)に親族がなることを禁止しているにもかかわらず、「JBCでは過去に例がある」として認めてしまった。
試合後、多くのファンから抗議を受けると一転して、事情聴取さえ行わずに処分を下すちぐはぐさだった。
視聴率至上主義のテレビ局にも問題がある。試合を中継したTBSは「親子の絆(きずな)」というストーリーを作り、亀田一家を持ち上げ続けた。昨年8月の興毅選手の世界戦の平均視聴率は42・4%(ビデオリサーチ関東地区調べ)に達し、11日の大毅選手の試合も、アンチ亀田ファンも加わって、平均28%(同)を記録した。
スポーツ中継の人気番組だったプロ野球・巨人戦の平均視聴率は今季、10%を割り、かつての勢いはない。それに代わる番組を探しているテレビ局にとって、容易に高視聴率をマークしてくれる「亀田一家」は魅力的な商品といえるのだろう。
だからといって、メディアが意図的にスター選手を作っていいわけではない。スポーツではその力と技に感動したファンが応援してはじめて、真のスター選手が生まれるのである
毎日新聞
社説:亀田選手処分 視聴率に踊らされた厚化粧ボクサー
2007年10月17日 0時06分
「ボクシングはスポーツであるが故にあらゆるボクシング試合はスポーツマンライクの態度をもって行われるべきである」。日本のプロボクシングを統括する日本ボクシングコミッション(JBC)の憲法ともいえる「宣言」の総則の冒頭にある一節だ。
この宣言を持ち出すまでもないが、11日の世界ボクシング評議会(WBC)フライ級タイトルマッチで、反則行為を繰り返して判定負けした亀田大毅選手(協栄ジム)の試合は、そもそもボクシングでもスポーツでもなかった、ということだろう。
ボクシング関係者は、亀田選手のようなスポーツマンとしても未熟な選手を、最高の舞台である世界タイトルマッチのリングに上げたことを深く反省しなければなるまい。人気をあおったマスコミの責任も免れないが、とりわけ今回の対戦を過剰に盛り上げ、試合を放映したTBSの責任は重い。
TBSだけを批判するつもりはない。かつてボクシングの世界戦は確実に視聴率を稼げるテレビ局のドル箱番組だった。4月、10月の番組改編期には、ライバル局の新番組のスタートに世界タイトルマッチをぶつけるのがテレビ局の常とう手段だった。
だが、近年はボクシング人気の低迷もあって、確実に視聴率を稼げる世界チャンピオンがいなくなった。そんな中、父史郎氏が手作りで育て上げた異色の兄弟ボクサー、興毅、大毅選手の出現は、彼らの過激で挑発的な言動もあいまって、テレビ局には久々に「視聴率の取れる」ボクサーの出現と映ったのだろう。
これまで多くの世界チャンピオンを取材してきたが、共通していたのはハングリーな精神と、ストイックな生き方だった。そうしたボクサーのイメージを亀田父子は一変させた。試合前からやくざまがいの言動で対戦相手を挑発し、自分の大物ぶりを誇示しようとしているように見えた。
興行である以上、話題を提供する意図は分かるが、彼らの振る舞いはボクシングの品位を汚しているようにしか思えなかった。また、そうした行動が若者に支持されているとしたら、その風潮を嘆くべきなのかもしれない。
大毅選手はリング上で一敗地にまみれ、国内最年少での世界王座獲得の夢は砕け散った。試合の終盤、反則技を繰り出すしかなかったのは、ボクサーとしての経験と力量の不足を本人が一番痛感していたからだろう。対戦した内藤大助選手には実に迷惑な話だ。
高視聴率を狙ったテレビ局の思惑に乗せられ、厚化粧して世界戦のリングに上がった大毅選手。まだ18歳だ。1年間の資格停止は化粧を落とし、一から出直すいい機会になるはずだ。ひたむきに技術と心を磨き直し、世界に挑戦するにふさわしいボクサーとして再び姿を見せてくれる日を待とう。