前々節の大宮ホームのプレビューでは「神戸、大宮、新潟、G大阪、この4チームが生き残りをかけ、2つの椅子をめぐって争う」と書いたが、あれから18日経って迎える今節では、そこに鹿島の名前も低い可能性ながら加わってきた。14位・神戸と15位・大宮が勝点36で並び、降格圏の16位・G大阪が勝点33で追う。13位・鹿島は勝点38で、もし鹿島が負けてG大阪が勝てば、完全に残留争いに飲み込まれることになる。
G大阪の猛追から逃げる大宮も当然ながら必死。ただ、鹿島にはまだ引き分けでもOKの余裕はある。大宮にとってのアドバンテージは、鹿島は3日のヤマザキナビスコカップ決勝で120分を戦っていることだ。しかも試合内容も、カウンターから2点を奪って勝利したが、清水にポゼッションを許し、守備では走らされた。その疲労が残っていないはずはない。
もちろん「優勝した勢いのまま乗り込んでくる」(北野貴之)ことに警戒は必要だが、過去5年でナビスコカップ優勝チームがその直後のリーグ戦で勝利した例は、2007年のG大阪しかない。
体力的不利に加え、一種の燃え尽き感も出てくるのだろう。ましてリーグ戦の現状は、残留争いの一歩手前。勝利の美酒に酔った直後の鹿島にとっては、メンタル的に切り替えが難しい戦いになりそうだ。
さらに、カップ戦の決勝と柏で行われた準決勝第2戦、直前の2試合をベルデニック監督本人が現地で、その目で視察できたことも、大宮にとって幸いだった。鹿島戦へ向けてのミーティングが行われた5日の練習後、前節ハットトリックを達成したズラタンは、「試合前なので具体的には言えないが、鹿島の弱点は頭に入っている」と、不敵な笑みを浮かべた。ベルデニック監督は鹿島について「技術と戦術に長けた選手がそろい、守備からカウンターが非常に鋭い。そこが脅威だ」と評した。
カップ戦を見ていると、確かにその通り。カップ戦決勝の1週間前に行われた清水戦(リーグ戦)での鹿島は、自らのストロングポイントを押し出して攻撃的に臨んで敗れた。それを元に決勝では、大前元紀に対して新井場徹ではなく昌子源を当て、ボランチの柴崎岳を1列上げて本田拓也をボランチに起用して守備を固め、後半からドゥトラ、新井場らを投入して勝負をかけた。
そうした『勝つためのサッカー』を遂行できるしたたかさ、そして勝負強さが鹿島の栄冠の数となって現れている。シーズン序盤になかなか勝星を挙げられず苦しんでいる鹿島を評して、大宮の鈴木淳・前大宮監督は、「鹿島は今までずっと、相手に良いところを出させないサッカーをしてきた。監督が代わって、今は自分たちの良いところを出して主導権を握るサッカーをしようとしている」と語った。これが、カップ戦では強さを発揮しているものの、鹿島がリーグ戦では苦しんでいる理由だろう。
ただ一昨年からマルキーニョスや野沢拓也ら攻撃の主力が相次いで離脱しており、遅攻でも崩しきれる往年の力は影を潜め、今や鹿島は完全にカウンターのチームだ。
一発勝負のカップ戦では、相手の長所を消す戦い方とカウンターの強みが合致して結果を出しているが、リーグ戦では結果よりも内容を重視して、なかなか勝星が重ねられていない。ただ、残り4試合。しかも相手の大宮に負けると順位で入れ替わられ残留争いに巻き込まれる状況では、さすがに切り替えて『勝つためのサッカー』をやってくるのではないか。まして鹿島はこの試合、引き分けでもそう悪い結果ではない。鹿島にとっても大宮で警戒すべきは堅守からのカウンターだから、むしろ大宮にボールを持たせて試合を進めるのが得策だろう。もし本田をスタメン起用して東慶悟をケアさせるようであれば、鹿島のねらいがそこにあることは明らかだ。
大宮にとっては、確かに「勝点3を取ることでしか下(の順位)を引き離せない」(ベルデニック監督)し、「勝てば鹿島と順位が入れ替わる」(青木拓矢)のだが、ここで負けてG大阪が勝つと降格圏に転落する。そのリスクを考えると、あれだけまざまざとカウンターの脅威を見せつけられた相手に対して、攻撃的に臨むという注文相撲を演じなければならないのはつらいところだが、それでも生き残るためにはやらねばならない。
前節からスタメンに変更はなさそうだ。「カウンターを受けないよう、簡単にボールを失わないことが大事。細かいことはせずに、ダイナミックにシュートまで持って行きたい」と攻撃の鍵を握る東が言えば、最後尾に構える北野も「攻めにかかったときにパスを奪われると、FWの動き出しが速いしそこに出せる選手もいるから一気にピンチになる。攻めているときこそ、後ろは声かけと高い集中力で守備の準備が必要」と、チーム全体がカウンターへの警戒をMAXにして臨む。たとえなかなか鹿島ゴールをこじあけられなくても、大宮は少なくとも失点せずに終盤を迎えれば勝機はある。
ここ数試合、戦列を離れていたノヴァコヴィッチが今週から全体練習に合流しており、「短い時間であれば100%の力を出せる状況」(ベルデニック監督)にある。長谷川悠も好調を維持しているし、中盤で運動量と展開力もあるカルリーニョスを投入することもできる。大宮にとって大事なのは焦らないこと。焦れば鹿島の思うつぼだし、逆に焦らずゲームを進められれば、鹿島の体力的不利が響いてくることもあり得る。
水曜日の夜のゲームだがチケットは売り切れ間近とのことで、残留争いの大宮サポーターはもちろん鹿島サポーターにとっても気が気ではないだろう。飲み込むか、突き放すか。大宮がボールを保持していても、実は鹿島のペースということもある。互いにわずかな隙をうかがい合う、スリリングなゲームになるだろう。
以上2012.11.06 Reported by 芥川和久