関西ではプロレス中継がずいぶん遅れて放送される。真夜中の放送であるし好事家しか見ていないからそれでもいいが。先日ずいぶん遅れて、ようやくにして7・16ノア日本武道館の高山善廣復帰戦を見た。
この試合は、実に様々な裏面がある。高山は脳梗塞で倒れ、これが707日振りの復帰である。一時期は右半身不随とも伝えられ、甦ることは叶わないと思われていた高山がついにリングに還ってきた。それだけでもこの試合には価値があるが、タッグを組む予定だった小橋健太が、腎臓ガンが発見され緊急摘出手術。そして代打に「この男しかいない」と指名された佐々木健介は、実は左眼窩底骨折を負っていた。しかしこの怪我を隠し、病院から「外泊許可」で参戦。試合の翌日緊急手術を行う経過となったことは報道で知られるとおり。
プロレスを腐す人に、この男達の生き様を理解してもらおうとは今はもう思わない。しかし、彼らの身体を削りに削って魅せている姿をそんな目でしか見られない人たちのことを僕は不幸だと思う。大切なものをどこかに置き忘れて来た人たちに違いない。
さて、試合の経過を振り返る記事ではないので措くが、当代きっての巧者である三沢&秋山との対戦は実に見ごたえがあった。技マニアの僕にとって実に満足いく試合内容だった。高山のニーリフト。ドロップキック。ドラゴンスープレックス。ハイアングルバックドロップ。エベレストジャーマンスープレックスホールド。また健介のプランチャ。フェイスクラッシャー。逆一本背負い。ストラングルホールドγ。パワースラム。三沢のエルボーパット。エルボースイシーダ。フェイスロック。セントーン。エメラルドフロウジョン。秋山のジャンピングニーパット。エクスプロイダー。それぞれが代名詞とも言える技を惜しげもなく繰り出す。もうたまらない。
その中で、高山が最初に出した技が、三沢と組み合う前に放ったビッグブーツだった。このフロントキックは右足だった。一時期は言うことをきかなかった高山の右足。それだけで僕は鳥肌が立つほど感動した。その感触を確かめるように場外でも、またリングでも高山は何度も放っていた。やつは病に勝って還ってきたのだ。
さて、このビッグブーツと言う技、つまりはハイアングルのフロントキックである。前蹴り。僕はあまりこういう流行的な名称を好まず、スピアーも「弾丸タックルと呼べ」というくらいに古臭い頑なな男なのだけれども、今回は特別にそう呼ぶ。高山が還ってきたのだもの。
しかしながら、今フロントキックのことを何でも「ビッグブーツ」という風潮が目立つ。ビッグブーツと言うからにはやはりデカイ足をもつ大男が放ってこそだろう。日本では唯一、高山に相応しい。永田や川田がフロントハイキックを放っても、それをビッグブーツと言うにはいささか違和感が伴う。田上もいるが…日本では高山くらいにしていただきたい。
この名称の最初は誰だったのだろう。調べれば分かるかもしれないのだが不精している。僕が思い出すのは、ブルーザー・ブロディとハルクホーガンである。ホーガンはWCW時代からだったかもしれないなぁ。もっとも二人ともハイアングルのフロントキックは昔から使っていて、ネーミングの問題だけなのだけれど。あのブロディのでかいシューズは、ビッグブーツと呼ぶに相応しかったかもしれない。あの蹴り倒すようなブロディのフロントキックは迫力があったなぁ。
名称のことはともかく、このフロントハイキックは日本では相当馴染み深い。結局これは馬場さんの「十六文キック」だからである。
馬場さんの代名詞とも言える十六文キック。足のサイズからそう名づけられたと言われるが、実際は1文は約2.4cmである。そうなると16文は38cm強である。実際馬場さんの足はこんなに大きくなかった(31cmとも言われる。十分デカいが)。これはリングシューズのサイズが16号であったことに由来していて、サイズの規格と文が混同したことによる。
馬場さんのキックは、相手をロープに振って返ってきたところをカウンターで放つ。よく、晩年の馬場さんの試合振りから、ただ足を上げて待っているところに相手が突っ込んでくると言われて揶揄の原因ともなったのだが、馬場さんのキャリアはついに吸引力まで持つに至ったのである。そこを凄いと思わなくてはいけない。
それはともかく、十六文キックなんか効かないよ、という人に、全盛期の馬場さんの試合を見せてあげたい。昭和40年代前半の、インター選手権者だった、腕にも肩にも筋肉のついた見方によっては逆三角形の体躯とも言える馬場さんの雄姿を。あの頃の馬場さんは相手を蹴り倒していた。後年はヒットすれば後ろに重心が傾き倒れそうだった馬場さんだが、相手を蹴って前に踏み込んで止まり広い肩を揺すって大見得を切っていた、あの姿をもっと若い人にも知ってもらいたい。馬場さんは強かったのだよ。
さて、後にアンドレ・ザ・ジャイアントが18文キックなるフロントキックを放った。このフロントキックは「人間エグゾセミサイル(by古館伊知郎)」と呼ばれ、このキックからヒップドロップ(人間圧殺刑)に至る必殺コースがあるわけだが、これも18文あったわけではない。馬場さんよりも足が大きかったと言いたいだけのことである。
さて、ビッグブーツ、フロントハイキックはつまり前蹴りであり、なかなかフィニッシュに結びつかない技である。例外として十六文キックがあるが、これも三十二文ロケット砲の時代は繋ぎであり、ここ一番はネックブリーカードロップもあった。それでもフィニッシュ技として存在はしていたが、後年衰えてからはフィニッシュとしては難しくなった。
これを必殺技として甦らせたのは蝶野正洋である。もちろんヤクザ・キック(TVでは問題があるのでケンカ・キック)。まさに蹴り倒しのフロントハイキックである。これはいい。迫力が伝わる。蝶野のコスチュームやリングシューズもこの技に合っているように思う。見方によっては実に単純な技だが、足裏に憎悪を込めたように放つヤクザ・キックは説得力がある。相手の顔面が歪み、脳が揺れる様がよくわかる。
ところで、最近蝶野がフィニッシュとして使うシャイニング・ケンカ・キックというのはどうだろうか。相手のヒザの上に乗ることによって重心が後ろへと傾く。走りこむスピードだけで威力を出しているだけで「蹴り倒す」という本来の蝶野の蹴りの迫力が軽減されるような気がしてならない。シャイニングものは流行ではあるが、やはり片足をマットに踏みしめて思い切り蹴りを突き出した方がずっと説得力があるような気がするのだが。ちょっと残念。
高山は復帰戦、大いに暴れてその存在感を誇示し、最後は三沢のエメラルドフロウジョンから秋山のリストクラッチ・エクスプロイダーに沈んだ。負けたものの観客も十分満足である。高山ならではの素晴らしいプロレスを披露してくれた。彼が復帰することによってまたプロレス界も活性化してくるだろう。
一方で、怪我を隠し男気を見せた佐々木健介。TVの解説をした北斗晶の大人しさ、しゃべりのキレの悪さは、健介のことが本当に心配だったのだろう。しかしそのことを言うわけにはいかない。このプロレスという因果な職業を生業としてしまった夫婦の生き様というものもまたドラマだった。幸いにして既に健介は手術を終えて退院したが、まだ復帰のメドは立たない。また、この試合に出場するはずだった小橋健太も、摘出手術を終え、転移はなかったと発表されている。両人の早期の復帰をどうしても望んでしまうけれども、今はゆっくりと休んで欲しい。もう無理するな。プロレスという仕事は、身体を「異形の者」に保つために無理に無理を重ねている。今だけでもゆっくり休んでくれ。一年前の橋本真也ショックを僕達は忘れていない。頼むから自分の身体を第一に静養して欲しい。
この試合は、実に様々な裏面がある。高山は脳梗塞で倒れ、これが707日振りの復帰である。一時期は右半身不随とも伝えられ、甦ることは叶わないと思われていた高山がついにリングに還ってきた。それだけでもこの試合には価値があるが、タッグを組む予定だった小橋健太が、腎臓ガンが発見され緊急摘出手術。そして代打に「この男しかいない」と指名された佐々木健介は、実は左眼窩底骨折を負っていた。しかしこの怪我を隠し、病院から「外泊許可」で参戦。試合の翌日緊急手術を行う経過となったことは報道で知られるとおり。
プロレスを腐す人に、この男達の生き様を理解してもらおうとは今はもう思わない。しかし、彼らの身体を削りに削って魅せている姿をそんな目でしか見られない人たちのことを僕は不幸だと思う。大切なものをどこかに置き忘れて来た人たちに違いない。
さて、試合の経過を振り返る記事ではないので措くが、当代きっての巧者である三沢&秋山との対戦は実に見ごたえがあった。技マニアの僕にとって実に満足いく試合内容だった。高山のニーリフト。ドロップキック。ドラゴンスープレックス。ハイアングルバックドロップ。エベレストジャーマンスープレックスホールド。また健介のプランチャ。フェイスクラッシャー。逆一本背負い。ストラングルホールドγ。パワースラム。三沢のエルボーパット。エルボースイシーダ。フェイスロック。セントーン。エメラルドフロウジョン。秋山のジャンピングニーパット。エクスプロイダー。それぞれが代名詞とも言える技を惜しげもなく繰り出す。もうたまらない。
その中で、高山が最初に出した技が、三沢と組み合う前に放ったビッグブーツだった。このフロントキックは右足だった。一時期は言うことをきかなかった高山の右足。それだけで僕は鳥肌が立つほど感動した。その感触を確かめるように場外でも、またリングでも高山は何度も放っていた。やつは病に勝って還ってきたのだ。
さて、このビッグブーツと言う技、つまりはハイアングルのフロントキックである。前蹴り。僕はあまりこういう流行的な名称を好まず、スピアーも「弾丸タックルと呼べ」というくらいに古臭い頑なな男なのだけれども、今回は特別にそう呼ぶ。高山が還ってきたのだもの。
しかしながら、今フロントキックのことを何でも「ビッグブーツ」という風潮が目立つ。ビッグブーツと言うからにはやはりデカイ足をもつ大男が放ってこそだろう。日本では唯一、高山に相応しい。永田や川田がフロントハイキックを放っても、それをビッグブーツと言うにはいささか違和感が伴う。田上もいるが…日本では高山くらいにしていただきたい。
この名称の最初は誰だったのだろう。調べれば分かるかもしれないのだが不精している。僕が思い出すのは、ブルーザー・ブロディとハルクホーガンである。ホーガンはWCW時代からだったかもしれないなぁ。もっとも二人ともハイアングルのフロントキックは昔から使っていて、ネーミングの問題だけなのだけれど。あのブロディのでかいシューズは、ビッグブーツと呼ぶに相応しかったかもしれない。あの蹴り倒すようなブロディのフロントキックは迫力があったなぁ。
名称のことはともかく、このフロントハイキックは日本では相当馴染み深い。結局これは馬場さんの「十六文キック」だからである。
馬場さんの代名詞とも言える十六文キック。足のサイズからそう名づけられたと言われるが、実際は1文は約2.4cmである。そうなると16文は38cm強である。実際馬場さんの足はこんなに大きくなかった(31cmとも言われる。十分デカいが)。これはリングシューズのサイズが16号であったことに由来していて、サイズの規格と文が混同したことによる。
馬場さんのキックは、相手をロープに振って返ってきたところをカウンターで放つ。よく、晩年の馬場さんの試合振りから、ただ足を上げて待っているところに相手が突っ込んでくると言われて揶揄の原因ともなったのだが、馬場さんのキャリアはついに吸引力まで持つに至ったのである。そこを凄いと思わなくてはいけない。
それはともかく、十六文キックなんか効かないよ、という人に、全盛期の馬場さんの試合を見せてあげたい。昭和40年代前半の、インター選手権者だった、腕にも肩にも筋肉のついた見方によっては逆三角形の体躯とも言える馬場さんの雄姿を。あの頃の馬場さんは相手を蹴り倒していた。後年はヒットすれば後ろに重心が傾き倒れそうだった馬場さんだが、相手を蹴って前に踏み込んで止まり広い肩を揺すって大見得を切っていた、あの姿をもっと若い人にも知ってもらいたい。馬場さんは強かったのだよ。
さて、後にアンドレ・ザ・ジャイアントが18文キックなるフロントキックを放った。このフロントキックは「人間エグゾセミサイル(by古館伊知郎)」と呼ばれ、このキックからヒップドロップ(人間圧殺刑)に至る必殺コースがあるわけだが、これも18文あったわけではない。馬場さんよりも足が大きかったと言いたいだけのことである。
さて、ビッグブーツ、フロントハイキックはつまり前蹴りであり、なかなかフィニッシュに結びつかない技である。例外として十六文キックがあるが、これも三十二文ロケット砲の時代は繋ぎであり、ここ一番はネックブリーカードロップもあった。それでもフィニッシュ技として存在はしていたが、後年衰えてからはフィニッシュとしては難しくなった。
これを必殺技として甦らせたのは蝶野正洋である。もちろんヤクザ・キック(TVでは問題があるのでケンカ・キック)。まさに蹴り倒しのフロントハイキックである。これはいい。迫力が伝わる。蝶野のコスチュームやリングシューズもこの技に合っているように思う。見方によっては実に単純な技だが、足裏に憎悪を込めたように放つヤクザ・キックは説得力がある。相手の顔面が歪み、脳が揺れる様がよくわかる。
ところで、最近蝶野がフィニッシュとして使うシャイニング・ケンカ・キックというのはどうだろうか。相手のヒザの上に乗ることによって重心が後ろへと傾く。走りこむスピードだけで威力を出しているだけで「蹴り倒す」という本来の蝶野の蹴りの迫力が軽減されるような気がしてならない。シャイニングものは流行ではあるが、やはり片足をマットに踏みしめて思い切り蹴りを突き出した方がずっと説得力があるような気がするのだが。ちょっと残念。
高山は復帰戦、大いに暴れてその存在感を誇示し、最後は三沢のエメラルドフロウジョンから秋山のリストクラッチ・エクスプロイダーに沈んだ。負けたものの観客も十分満足である。高山ならではの素晴らしいプロレスを披露してくれた。彼が復帰することによってまたプロレス界も活性化してくるだろう。
一方で、怪我を隠し男気を見せた佐々木健介。TVの解説をした北斗晶の大人しさ、しゃべりのキレの悪さは、健介のことが本当に心配だったのだろう。しかしそのことを言うわけにはいかない。このプロレスという因果な職業を生業としてしまった夫婦の生き様というものもまたドラマだった。幸いにして既に健介は手術を終えて退院したが、まだ復帰のメドは立たない。また、この試合に出場するはずだった小橋健太も、摘出手術を終え、転移はなかったと発表されている。両人の早期の復帰をどうしても望んでしまうけれども、今はゆっくりと休んで欲しい。もう無理するな。プロレスという仕事は、身体を「異形の者」に保つために無理に無理を重ねている。今だけでもゆっくり休んでくれ。一年前の橋本真也ショックを僕達は忘れていない。頼むから自分の身体を第一に静養して欲しい。
ごく単純な技なんですが迫力がありますよね~。
私も深夜に高山の復帰戦を見て興奮のままにupしてしまいましたがプロレスって人を惹きつける力がありますよね。
もちろん技もすごいけどレスラーの生き様が試合から伝わってきて胸を熱くするんです。
あの試合もそんな試合でしたね
PS 今「11000番get~」
ご褒美に凛太郎さん特製トマトソース希望
先日の試合は、技に魂がこもっている感じがしました。全員が出し切ったと言うか…あれで三沢がタイガードライバー91でも出していれば全部だったと思います。技から生き様が見えるんですよ。特に健介の逆一本背負いは…泣けてきそうでした。
ところでまたキリ番ありがとうございます。lintaro's barは僕も見ていないので全然知らなかった(笑)。トマトソース差し上げたいですが、ありゃ「男の料理」ですので、油脂の量が多いのです。人様に、特に女性に差し上げると恨みを買いそうで…(笑)。美味いんですけれどもね(爆笑)。
早速、新日とBMLへの出場が決まりましたね。
また大暴れして欲しいのと無理をしないで欲しいという部分があります。
しかし、無理はいかんぜよ、無理は(汗)。