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「でにをは」別口入力・三属性の変換による日本語入力 - ペンタクラスタキーボードのコンセプト解説

未定義③キーにあてる別口入力キー候補その3…[し]

2018-02-10 | 別口入力にまつわる諸問題
これまでの別口入力の存在目的はもっぱら文法上の区切り明確化を見据えてのことで導入したものが大半であります。
「でにをは」などの助詞にしても「だ・です・ル形動詞」のような語尾成分にしても何か特定の言い回しに向けて用意したものではなくあらゆる接続のパターンでも本質的に変わらない文法上の機能を物差しにして入力文を形成していく骨格になっているものでした。
(まあル形動詞別口入力に関しては若者ことば「--る」に的を絞っているので特定的かもしれませんが今回の趣旨に沿うものとして捉えてください(苦笑))
しかし別口入力の考察・議論も進んできてさらにその可能性を探っていこうということになると、入力時に頻出しそうなローカルケース…個別的な細事が障壁となって正しい変換を妨げるネックとなるような事象が思ったより多くみられることが往々にしてあるということに直面させられるのです。
今回の提案ではそういった問題に対処すべく文法的基準からの枠組みから少し離れて、特定の語彙・語句への対応に的を絞った新たな方向性の別口入力について検討していきたいと思います。

今回検討していきたい別口入力候補はサ変動詞あるいは五段活用動詞のうちサ行のもの…の連用形[し]です。
「し」は動詞使いでのもの以外にも語中・語頭・語尾を問わずとにかく日本語の文章には頻出する要素であり誤変換の温床・宝庫となっている張本人(?)でもあります。
--氏、--死、--市、--誌などのように同音異字の種類がとても多くて三属性変換-属性ハ(接頭語・接尾語の変換)で接辞がらみのものは一応選択/変換できる手立ては用意してあるものの、[通常変換]では属性に着目していないものなのでうまく変換できない場合も十分考えられます。
今回の提案は端的に言い切ってしまえば、これら「し」の接尾語要素のからむ誤変換にピンポイントで対応して別口入力を立ててしまおうとのねらいで考え出されたものであるといえます。
個別の接尾語弁別のためにキーを使い分けるのは非現実的であるので、別口入力は動詞活用の一形態の「し」をマーカーとする入力要素としました。
--氏、--死、--市、--誌などを指定して操作させるのはむずかしいので不変化部分のかな文字「し」を使っていこうということで、いわばできないのなら対岸から攻めていこうという作戦ですね。

乱暴に言ってしまえば数あるかな文字のなかで特に「し」のためだけに新たな別口入力を作ってしまおうという馬鹿正直な方法ですが、これがなかなか素朴にして効果的な対策案だと言えるのではないでしょうか。
環境によって変換に違いがあるかとは思いますが例えば変換 ふしんし:(不審死)・(腐心し/普請し) を使い分けるのに役立つかと思われます。ふしん[し]と入力したときは[腐心し/普請し]の方が提示されるといった具合です。
同様に さくしの場合:(佐久市/作詞/策士)・(裂くし/咲くし) の2グループに分かれます。あつぎし:厚木市・厚着し の場合も同様です。
別口入力[し]のはたらきで、変換候補提示に迷う場合でもまず動詞活用形「し」の語句のものは明確にコンピュータが把握しているので解釈の負荷が大幅に減り候補提示も解析上は動詞連用形のものはすでに省かれ済みという前提として捉えられるのでより適切な語句を絞れるという構造になっています。

さらに別口入力[し]の効用として「漢語一文字+し」からなるサ変動詞の区別に威力を発揮するのではないかという推断もあります。
例えば、以下のようなサ変動詞が挙げられます。
察し・奉し・辞し・期し・課し・比し・際し・滅し・有し・賭し・逸し・称し・呈し・祝し
べたのかなで2文字あるいは3・4文字しかないこれらの語句は、周辺文字列の配置によっては当然誤変換に左右されやすいデリケートな文字列ですが、この別口入力を導入することにより実に効果的なマーキングを施すことができます。

もちろんサ変動詞の活用形は
(未然形)「し-ない」「し-よう」「せ-ず」「せ-られる」「さ-ず」「さ-れる」等
(連用形)「し-ます」「し-た」「し-たい」
(終止形)「する」
(連体形)「する-とき」
(仮定形)「すれ-ば」
(命令形)「しろ」
のように「し」で始まるものばかりではありませんのでカバーできる言い回しは未然/連用/命令 形のところだけですが場合によっては命令形のところの([し]ろ)と打ち込むようなものはいささかぎこちなさも感じるので別口入力をあえて要求しないということもあるかもしれません。
なので[し]にからむ入力の場面は限られてしまうかと思われますが、冒頭の--氏、--死、--市、--誌などの接尾語「し」と明確に区別できる効果は大きいのでそれなりのメリットはあるかと思います。
とはいうものの未然形の「せ」「さ」に対応できなかったり、頻出と思われる「する」にも対応できていないという面で何か物足りないとお感じの方もおられるかもしれませんがさまざまな事情がありあまり幅広くサ変をこなすことは期待できそうにありません。
ワイルドカード入力で「し-せ-さ-する」等を近隣文脈から推測して適宜解釈させればよい、とも考えましたが、「--し」でひと区切りつける連用形中止法の用法もあって終端部の「し」と同じく「する」が競合するためうまく解釈できなさそうなので気が進みませんし、
それができないとなると「する」抜きで「し-せ-さ」だけワイルドカードさせるものなんだか収まりが悪い気がしてくるので別口入力「し」は用途限定の非ワイルドカード別口入力としたほうがシンプルだと思います。

こんな事情もあって「し」一点突破の別口入力はもっぱら「し」の同音語片対策の色彩が色濃くなっているのですが、先程チラッと話に出た連用中止法がらみの誤変換には有効な対策として切り込んでいけると踏んでいます。
連用中止法とは、「よく学び、よく遊ぶ」や「眠気があり、運転できない」などのように連用形で叙述を一度中止して、他の語と接続することなくまた続けていく用法のことで活用形テ形とほぼ類似しており代替も可能でありますが連用中止法の方は文中に複数回使えるなどの違いがあります。
当然サ変動詞においても連用中止法はよくみられるものなのですが、有名な誤変換「ちかくしじょうちょうさをおこなう→知覚し冗長さをおこなう」(ATOK 2007)のように句読点を挟まずにすぐ後続文が続くときなどはこの「し」のケースでは特に顕著に誤変換がみられるのです。
このような例には別口入力[し]によるマーキングが有効ですし、さらにちょっと無理やりですが「歴任し長ずる⇔歴任視聴ズル」/「兼任し生じる⇔兼任師匠汁」のような文の区別に役立つといったこともあるかもしれません。

しかし注意深く見ていくと別の面では問題もあります。
例えば「長押し⇔長尾氏」のような使い分けは一見別口入力[し]をうまく使って事なきを得たかのように見えます。しかし「長押し」はこれひとつで連用形転成名詞ですので文解析上の扱いは名詞になるところなのですが、これがまかり通るとなると「串刺し」や「手のひら返し」などのような意識せずとも自明の名詞までいちいち別口入力[し]を付加しなくてはならないのかという問題が出てきます。
ケースバイケースで変わってくるとしたらその境界条件は何なのか基準が明確ではない事態が懸念されますし、それよりも根源的な事なのですが「押し」はサ変動詞ではなく五段動詞なのでこれを説明するためにすこしややこしい状況なってくるのです。

そもそもサ変動詞の中には「愛する」(サ変動詞)が「愛す」(五段動詞)と混在したり「課せられる」が「課される」のような近年変化の途上にあるものなどがありサ変動詞の五段動詞化がすすんでいる状況です。
そこへきて今回の別口入力はまだ模索中ですから単純にサ変動詞ばかりだけではなく五段動詞のさ行のものへも適用するとなると全てをきちんと精査しているわけではないのでどんな副作用が起こるのかを見定めることができてはいません。
ましてや「し」「せ」「さ」が揺れている中でワイルドカード解釈させていこうというのはやはり無理というものでしょう。

かといって単純にサ変動詞のみを別口入力適用対象に絞る、とするのも性急すぎるような気もします。
五段活用動詞では同じ用言属性の属性ロであっても通常変換では見分けのつきにくい例(マシ/増し)のように役立ちそうな例も見つけられますが、
逆にサ変動詞と五段動詞が競合してかえって混乱する事例(怪我し/汚し)のようなものもあったりします。
ただ「長押し⇔長尾氏」のように五段動詞でありながらも弁別に役立つものを排除するのは惜しいですし競合するケースでも次点の変換候補で選択・提示していけばいい話なので語彙的なところは上手く捌いていければ良いかなと思います。


…以上、長々となってしまいましたがそのほかに吟味すべき点も多々あり今記事だけでは収まりそうもないので[し]に関しては<補足>として近く追記事をあげていくつもりです。

なお[し]は別口入力候補として「サ変動詞」あるいは「五段活用動詞のうちサ行のもの」と謳ってはおりましたがどうも個別のケースでは[し]でのマーキングが適さない事例もありそうなのでサ変/さ行五段動詞コンパチブルであるのはあまり前面に出さず、
ざっくりと「さ行まわりの動詞のための別口入力」とぼやかした言い方にするか、いっそのこと「便利キー・[し]」としてしまい文法的背景から離れた名称にすることもあわせて検討していきたいかと思います。

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