ぴーちくぱーちく

活字ジャンキーぴーの365日読書デイズ。

しゃべれどもしゃべれども

2007-07-31 23:24:33 | 
佐藤多佳子氏です。

若手落語家の三つ葉は従弟の良から、あがり症を克服する為に落語を教えてほしいと頼まれる。
関西弁をやめず、学校で喧嘩ばかりしている村林や、美人だけれど無愛想で攻撃的な十河など、
生徒は問題児だらけ。

お笑いは好きでも落語って、そういやマトモに聞いたことがなかったです。
この本を読むと、落語もいいな。聞いてみようかなという気にさせられます。
「一瞬の風になれ」では走るのが嫌いなわたしですら、思いっきり走ってみたいと思いましたよ。
わたしが単純で影響を受けやすいと言えば、それまでなんですけど(苦笑)
でも主人公である三つ葉の落語に対する熱意を目の当たりにすると、
その世界に触れてみたくなるでしょう。
知っているようで知らない落語の世界。
古典落語はそれこそ何人もの噺家さんによって、語り継がれてきたわけです。
演劇だって演じる人が違えば、違う雰囲気になります。
面白くもなるしつまらなくもなる。
話の流れを辿っているだけでは自分のものにならないのと同じですね。

三つ葉の教え子の一人に、村林という小学生がいます。
喧嘩と本人は語りますが、実際にはいじめを受けても
頑なまでに関西弁を使い続ける村林少年。
彼は阪神ファンなんですが、昨今のミーハーなトラファンではなくって、
弱くてダメな阪神タイガースもちゃんと知ってて、
どうしようもないんだけど、やっぱり阪神が好きだという根っからの立派なトラキチです。
そんな彼にわたしはすっかりシンパシィを感じてしまいました(笑)
これは落語の話なんですけど、プロ野球の話題になると俄然盛り上がります(自分の中で)
しかも元プロ野球選手も出てくるんですけど、どう見てもモデルは江夏なんですよ。
江夏世代ではないわたしですが、ぐっときちゃいますね。

彼らが抱える問題は、落語を上手く喋れるようになることで、
直接的に解決するわけではないのですが、
一歩、前に進んだようです。
読み終えた後、清々しさが残りました。



もつれっぱなし

2007-07-27 23:27:18 | 
井上夢人氏です。

宇宙人の証明/四十四年後の証明/呪いの証明/狼男の証明/幽霊の証明/嘘の証明

男女の会話だけで構成される短編集です。
証明するのはタイトルにあるように宇宙人だったり、四十四年後だったり。
突拍子もないものを「証明」しないといけない訳ですから、男女の会話はどんどんもつれます。
もつれにもつれた着地点はそれぞれ異なり、色んな表情を見せてくれます。

そもそも会話だけで話を進めるというのは、かなり高度のテクニックが必要とされます。
しかも短編ですから無駄な文章は省きたいところ。
それでいて必要な情報は読者に伝えなくてはいけない。
でもただ伝えるだけでは勿論ダメ。
返す返すも、ハードルの高い設定です。
それが6つの短編全てそうなのですから。
尚かつテイストを変えなくては並べる意味がない。
どこまで高いハードルを自ら課すのでしょうか。

この中でどれが一番好みかとなると、「四十四年後~」です。
現在24才の男性の元へかかってきた電話は、未来の孫娘から。
SF小説みたいなことが現実に起きるわけないですよね。
それをどうやって自称孫娘が証明していくかが見もの。
悪戯電話だと決めてかかっていた男性が、やがて彼女の話に耳を傾けるようになります。
優しさと切なさがこの短編の中に凝縮されていて、その後の展開が特に好きです。

「嘘~」は最後でビックリ。
いい意味で騙された!となりますが、見事すぎて壮快ですらあります。
連作短編集ではないので、どこから読んでも大丈夫ですが、
やっぱり順番通りに読むのがよいかもしれません。

夜明けの街で

2007-07-26 21:41:59 | 
東野圭吾氏です。

渡部は家庭に何ら不満もなく、自分は良き夫であると思っていたが、
「越えてはいけない壁」を越えて派遣社員の秋葉と不倫の関係に陥る。
しかし秋葉はある殺人事件の容疑者だった…

主人公の渡部の一人称で語られるこの不倫話。
よりによってというか、イベントラッシュの冬から付き合い始めると、
不倫って大変なんだ…と妙なところで感心してしまいました。
クリスマス、年末年始、バレンタインデー、ホワイトデー。
秋葉の誕生日が冬ではなくて良かったのかも。
今まで真面目な家庭人だった渡部の、
走り出したら止まらないぜ的な暴走っぷりは、不倫初心者ゆえでしょうか。
適度に遊んできた男だったら、妻と愛人の間をうまく渡り歩くのかもしれません。
それが出来ないのが、渡部の良さであり大きな欠点でもあります。

でも不倫の話だけでは終わりません。だって東野圭吾ですもの(笑)
殺人事件の容疑者と不倫の関係に陥った男の心情をどう描くのか、
その辺りは「手紙」の時みたいにズシン、と胸に響くのかと思ってました。
でも意外とアッサリ終わってしまって、帯で煽るほどの作品かしら?なんて訝ってみましたが
秋葉の立場になって思うと、これほど深い話はないのです。
彼女の視点で描かれていない分、語られていないことは色々あります。
それが最後になって鮮明に浮かび上がってきます。
こういう表現の仕方は上手いですよね。さすがです。

ところで。
舞台が横浜。サザンの曲。不倫。
昔見たドラマ「スウィートシーズン」を彷彿とさせます。
泣きながら見てたなぁ(笑)




魂萌え!

2007-07-24 23:08:33 | 
桐野夏生氏です。

突然夫が亡くなり、59才で未亡人になった敏子。
10年来の愛人がいたことが発覚して心を乱したり、
遺産相続を巡って子供達と対立したりで、悲しむ暇もない。

新聞連載時に途中から読み出していたので、ようやく話の前後が繋がりました。
世間知らずの主婦だった敏子が、夫を亡くして独りになることに向き合う過程が、
非常に丁寧に描かれています。
これからも暫く続くと思われた夫との安寧な日々は、夫の突然に死によって崩壊し、
家庭に守られていた敏子は、還暦を前にしてようやく世間というものを知ります。
手厳しい洗礼を受け、少しずつ意識を変えていく敏子の姿は、
かつての桐野氏の作品に登場する女性と核の部分は同じです。
違うのは一般的な人生から大きく外れてしまうようなことを(例えば犯罪など)
主人公がするかしないか、でしょうか。

平均寿命からいえば、夫が先にこの世を去る場合が多いでしょうね。
さすがにまだ自分を当て嵌めて考えてみても、どうもピンときません。
結婚して子供を産めば女性は、女であるよりも妻であるよりも、
何よりも母でいることを求められることが多いですよね。
じゃあ、夫が先立ち子供が自立した後の女性はどうなるのでしょうか。
すんなりと女を最優先する女性は、おそらく少ないはずです。
それを良いとも悪いとも言えません。
選択肢は色々あっていいと思うのですよ。
何がその人にとって最良かは、本人でしかわかりませんからね。


マドンナ

2007-07-18 00:04:28 | 
奥田英朗氏です。

マドンナ/ダンス/総務は女房/ボス/パティオ

40代前半の課長クラスの男性が主人公の短編集です。
この年代は家庭を持ち子供の進学で頭を悩ませる一方で、親を看取る心づもりが必要であり、
会社内では同期との昇進の差が出来てくる微妙な頃。
一般的な会社で働いた経験がないのですが、サラリーマンって大変だけど頑張ってるんだよって、
世のお父さんたちを応援したくなります。

何か大きな事件がある訳ではなく、日常のごく些細な出来事。
人生を変えるほどのドラマはないけれど、昨日までとちょっと考え方や目線が変わる程度のことです。
あくまでも「ちょっと」です。でも本人にとっては「なかなか」の変化かもしれません。

表題作の「マドンナ」は部下の女性に片思いをしてしまった課長の話。勿論主人公は妻子もち。
不倫をしようと目論んでいるわけではなくって、純粋に片思い。
本人もどうしたらいいかわからないけど、他の男と仲良くされるのは許せないという困りもの。
気持ちはわからなくもないのですけどね。
毎日はどうしても単調になっていくもの。そこに変化と潤いを求めるなら恋愛なのかもしれません。
恋愛までいかなくても、ファン程度にとどめていたらもっと罪はありませんね。
その人に会うことが、日常に一つ楽しみが増えるわけですから。
ちなみにわたしの職場は女性ばかりなので、その楽しみは皆無であります(笑)




どんなに上手に隠れても

2007-07-15 23:25:54 | 
岡嶋二人氏です。

白昼堂々、しかもテレビ局内で新人歌手が誘拐された。
大胆で緻密な犯人の指示に、警察は翻弄され続ける。

解説が東野圭吾氏だったのでつい…(笑)
それはさておき、非常によくできた構成でした。
歌手が所属する芸能プロ、CMプランナー、事件を追いかけるフリーカメラマン。
様々な立場の利害関係が上手く絡み合って、読み手を飽きさせません。
誘拐を扱ったものっていうのは、たくさんあると思いますが、
この作品は練りに練った展開になってます。しかも適度に。
筆力のある方っていうのは、こういう作品をさらっと書いているような印象を受けます。
多分ご自身の作品との間合いの取り方がいいんでしょうね。
付かず離れずのような、絶妙のスタンス。
だから読んでいて楽なのです。
そして話は面白い。理想型ですね。
ただし犯人が誰であるかは、何となく予想はついていたのでこの辺はご愛嬌かしら。

ラストの場面、長谷川は何を伝えようとしたのでしょう。
とっても気になるんですが…

1985年の奇跡

2007-07-14 10:22:48 | 
五十嵐貴久氏です。

成績重視の校長の監視下で、楽しいはずの高校生活は誰もがどこか諦め気味。
野球部の面々は練習よりも「夕ニャン」を見ることを最優先する、自他共に認める練習嫌い。
そんな最弱チームに、野球のエリート高校から転校してきた沢渡が加入する。


今回、辛口です。




1985年といえば、万年Bクラスだった阪神タイガースが日本一になった年です。
このタイトルはまさに阪神の為にあると信じて読み進めたわたしの期待は、
すぐに裏切られました。勝手に期待して勝手に裏切られたのだから、仕方ないです。
でも中途半端にバースの名前を使わないで、とフツフツと煮えたぎる想いを抑え、
中途半端に日航機事故に触れないでと胸の痛みを堪え、あの飛行機に乗っていた同級生がいたので今でも辛いのです
展開は明るい話なのに、どうも読むごとにテンションがさがりました。
別に1985年じゃなくてもいいんじゃない?これ言っちゃうとミもフタもないのは重々承知。
奇跡的に日本一になった阪神と、奇跡的に勝利した小金井公園高校野球部とを重ね合わせたいという狙いは
わからなくはありませんが、相乗効果はなかったように思えます。
当時のアイドルや流行った曲を挟んでいくだけなら、別に1986年でもいいんじゃないですか?
おニャン子クラブのデビュー後でも、話は変わらないでしょう。

野球部の話ではありますが、試合の流れをスパっと切って結果だけ書いちゃうのは、
読んででカクンっと倒れそうになりました。
わたしが読みたいのは「そこ」なんですよっ。
でもそこを読みたいなら、「バッテリー」を読んでなさいってことなんでしょうね。

リカ

2007-07-08 23:33:08 | 
五十嵐貴久氏です。

妻子がありながら出会い系サイトに嵌る本間は、
「リカ」という女とメールをやり取りするようになったが…

ホラーなのかと思って読んでいたら、なかなか怖くならない。
導入部は出会い系サイトとは如何なるものかを、説明してくれている感じ。
徐々にリカの異常ともいえる執着心が、何か引き起こしていくのだろうと予想はつく。
若い女性ならいざしらず、そこそこの年齢の女性が自分で自分のことを下の名前で呼ぶのは、
非常に嫌いだ。たぶんあまり好感をもつ女性はいないと思う。
そんなに自分をアピりたいですか。
リカは自己愛の塊のような女性だから、こんな所にも彼女の性格が滲み出ていると思う。
設定や話の展開は古典的ともいえるほど、期待を裏切らない。
思った通りの展開すぎて、半ば拍子抜けする程ではある。
が、リカが送ったファックスのキスマークもどきなど、
幾つかのエピソードではかなり驚かされた。というよりも、チョットひいた…
その発想はなかったな。

そこそこの安定した地位もあり、妻子もある男のちょっとした火遊びのつもりが、
とんでもない女にひっかかっちゃって、怖いね~~という話。(ちょっと違う)


博士の愛した数式

2007-07-06 23:20:17 | 
小川洋子氏です。

事故の後遺症のため80分しか記憶がもたない「博士」の元に派遣された家政婦と、
その息子「ルート」との静かな交流。

わたしは数学が嫌いだった。
数字を見るのも嫌でたまらない程数学アレルギーだった。
だけどわたしの嫌いな数学に、こんなに優しい意味を持たせることができるとは。
見るのも嫌な数字に果てしないロマンがつまっているのだとは。
わたしの知らない世界がいっぱい詰まっていました。

そして「28」という数字に秘められた意味と、江夏の背番号の「28」
江夏豊という投手の偉大さはリアルタイムで見ていなかったこともあり
半ば伝説のようなもので、わたしにとって阪神の選手だったことよりも
メジャーに挑戦していた頃の野球人としては終盤の頃のイメージしかありません。
作品の時代設定は約10年前。
SHINJOではなく新庄だった頃。まだ亀山が細かった頃(泣)
パチョレックが大洋ではなくて阪神にいた頃。
(パッキーの名前が出てくるのに、オマリーの名前が登場しなかったのは何故だろう?)
などなど、阪神ファンにはちょっと嬉しくて懐かしい選手の名前があちこち出てきます。

記憶障害を題材にすると、えてして「泣かせる」傾向にあるのですが、
非常に淡々としています。
柔らかなヴェールに包まれているようで、どことなくお伽噺のような感じです。

No.6(4)

2007-07-04 22:57:45 | 
あさのあつこ氏です。

沙布を救う為に情報を集めることにした彼らは、No.6の中枢にいる人物を捕らえることに成功する。
力づくで聞き出そうとするネズミ。根気よく心を割って話す紫苑。
そんな中、紫苑らが生活する西ブロックで「人狩り」が行われる。

まだ矯正施設にはたどり着いておりません。
沙布を救うには脱出不可能といわれる矯正施設に侵入しなくてはならないのですが、
侵入するにも一苦労といったところですね。
西ブロック側とNo.6側の両サイドから描かれ、少しずつ謎を解く為の情報が垣間見えてきました。
寄生バチ。サンプル。キーワードが幾つか出てきます。
まだバラバラで一つの線にはなりませんが、
どうやら沙布は極秘裏に進められている計画に、欠かすことのできない役目を負わされているようです。
なんともおぞましい気配を感じます。
まさか沙布に女王バチになれとは言わないよね?

そして気になるのが紫苑の変化。
ただの天然ではないの?ネズミすら戸惑うような、紫苑の本性がチラリと見えました。
でもまだ紫苑自身も気づいていない…というより覚醒していない感じ。

3、4巻で潜入に向けての下準備を入念に描かれていましたから、いよいよ次で派手な展開になりそう。