ぴーちくぱーちく

活字ジャンキーぴーの365日読書デイズ。

桜庭一樹短編集

2013-10-02 20:46:08 | 
桜庭一樹氏です

このたびはとんだことで/青年のための推理クラブ/モコ&猫/五月雨/冬の牡丹/赤い犬花

全体的に漂う昭和レトロな空気。
登場人物や設定に何の共通点のない短編集でしたが、
敢えて見つけるのなら、それかな。

「このたびはとんだことで」は正妻と愛人の攻防。
タイトルの間延びした空気とは裏腹に、なかなか熾烈。
でも滑稽。そしてぞわりとした一筋の恐怖が走る。

「青年のための推理クラブ」は「青年のための読書クラブ」のパイロット版にあたる。
こういう作品は女性作家ならでは。
誰がどれか、把握しきれないまま読んでしまった。
池袋にこういうカフェあったよなあ(全寮制の男子校という設定だったか)などと、
別のことを考えながら読んでいたせいかもしれない。
あ、そのカフェは行ったことないです。念のため。

「モコ&猫」はよくある大学生の男女の話ではあるけれど、
モコ(女性)の個性的な見た目より、猫(男性)の見た目は平凡なのに、
中身がドン引きっていうことばかり、印象に残ってしまった。
モコは猫のこと、どう思っていたのだろう。

「五月雨」はあるホテルに滞在中の若手の作家と、彼を追う女の話。
ベタ なラノベっぽいですが、好きなんですよね。
文体も美しいです。

「冬の牡丹」は酔いつぶれた三十路のO L牡丹が隣に住む慎に助けられる。
女性が一人で生きていくのって、難しいのか。
なんだかorzとなってしまいそうです。

「赤い犬花」は親の都合で田舎へ連れて来られた太一と、田舎の子ユキノの話。
ぞなもしと語尾につくのは、愛媛県ですか。
それで太一が着てるのが赤シャツなのかと思ってみたり。
でもまあ、坊っちゃんは関係ないか。
一番驚いたのがユキノの正体ではなく、漢字で書くとこの字なのかということ。
弟は普通なのに。

Teen Age

2013-09-08 16:31:54 | 
神さまのタクシー(角田光代)/狐フェスティバル(瀬尾まいこ)/春休みの乱(藤野千夜)/イモリのしっぽ(椰月美智子)/ハバナとピアノ、光の尾(野中ともそ)/Inside (島本理生)/一実ちゃんのこと(川上弘美)

ティーンエイジ小説アンソロジー

…という言葉からは、高校生ぐらいの少年少女のボーイミーツガールみたいな感じを、
真っ先に思い描いてみた。
実際蓋を開けてみれば中学生の少女もいるし、キューバの少年も出てくる。
なかなか多種多様だ。

それでも女流作家さんばかりのせいか、少女が主人公の作品が多い中、
キューバを舞台にした、「ハバナとピアノ、光の尾」は異彩を放っていた。
エリアンというキューバ人の少年が、タエコと出会う。
彼女の見た目はトーキョーではありふれた「ギャル」。
ハバナ訛りのスペイン語を話し、あるピアノ弾きを探しているのだという。
おそらく彼女が愛した男、ラサロ。
ほどなく彼は見つかるのだが…

葉巻と洋酒の香りが漂ってきそう、と書くとまるでハードボイルドだけど、
キューバならではの強い日差しに、埃っぽい乾いた空気も混ざってくる。
ジャンル分けは難しいけど、ちょっと不思議な幻想的な話だった。
日本とは時間の流れ方がまるで違うことも、異国の雰囲気がページから伝わってくる。
優しさと哀しみに包まれつつ、余韻を残したラストが好きだな。
しかしギャルって、いつの時代だ。

きみはポラリス

2013-08-23 14:56:06 | 
三浦しをん氏です

永遠に完成しない二通の手紙/裏切らないこと/私たちがしたこと/夜にあふれるもの/
骨片/ペーパークラフト/森を歩く/優雅な生活/春太の毎日/冬の一等星/永遠につづく手紙の最初の一文

依頼者から提示されたテーマを「お題」、作者が自分で設定したテーマを「自分お題」という、二つのテーマに沿って書かれた恋愛短編集。

順にお題「ラブレター」/自分お題「禁忌」/自分お題「王道」/自分お題「信仰」/お題「あのころの宝物」/自分お題「三角関係」/お題「結婚して私は貧乏になった」/自分お題「共同作業」/お題「最後の恋」/自分お題「年齢差」/自分お題「初恋」となる

二つ目に「禁忌」というお題はあるけれど、全体的に「禁忌」「タブー」という言葉が浮かび上がってくる。
何しろ秘めた思いは同性に対してのもの。そんな作品から始まる。
ちょっとBL風味な人物設定で、女性作家しか書かないだろうなと思うけれど、
逆にこのテの話を書かせたらさすがに巧いな、とも思います。
なんと言うか色々鉄板な感じです。
ちなみに最終話とリンクしています。

「結婚貧乏」というアンソロジーがあるそうですが、色んなテーマがあるものですね。
この「森を歩く」というタイトルには、ある意味がありまして、
うはねは捨松に対して怒ったけど、結構ロマンチックだと思うのですがね。
使い方によるのかしら。
この作品は全体的に明るめですが、何がタブーって、
捨松の仕事が法律に引っ掛かりそうなところでしょうか。
でもこの二人、いいパートナーだと思います。



いつか、君へ Girls

2013-08-22 12:35:07 | 
てっぺん信号(三浦しをん)/きよしこの夜(島本理生)/カウンター・テコンダー(関口尚)/宗像くんと万年筆事件(中田永一)/薄荷(橋本紡)/ねむり姫の星(今野緒雪)

「少女たち」が抱える気持ちを綴ったアンソロジー

「てっぺん信号」はコンプレックスを抱えた江美利が主人公。
憧れの先輩に対する行動が涙ぐましい無駄思考で、ちょっと不憫。
この年代ならではの悩みだな。
思ったほど自分に響かなかったのが、色んな意味でショック。

「きよしこの夜」は華やかだった姉が自殺したことを引きずる望の話。
告白してきた武田くんと、てっきり付き合うのだとばかり思っていた。
望の中では最大の問題が解決したから、それでいいのか!?
武田モゲロ

「カウンター・テコンダー」は、ある理由からファイトスタイルを変えたいという、
道場の後輩の弥生を教えることになった諏訪(男性)の話。
主人公が男性という段階で、この企画にはそぐわないと思うのだけど。
確かに物語のメインは弥生ですが、彼女は少女っていう年代でもないし。
えっと、寒川モゲロ

「宗像くんと万年筆事件」は濡れ衣を着せられ不登校になった真琴が、
クラスでも浮いた存在の宗像くんに救われる、謎解き風の話。
担任の先生が絶望的にダメダメ。
うまくクラスをまとめていかないと、次は夏川さんが孤立しそう。

「薄荷」は中学時代の同級生ナラオカジに再会した有希の話。
世界の果てを見ようとする彼を眩しく思い、
彼氏との関係をどこか客観的に見ている。
同じ女子高生なのに「てっぺん~」の江美利との差がありすぎて、
再び彼女を不憫に思う。

「ねむり姫の星」はSFファンタジー。不時着した星を探索していた少年が、
宇宙船の中でコールドスリープ状態の少女と出会う話。
これも主人公が少年になるんだけど、少女視点でも語られているので、
違和感はなかったですね。
童話モチーフは好みです。
少年の名前にちょっと笑ってしまいました。でも彼は間違いなく「王子」です。

いちばん長い夜に

2013-08-19 09:02:11 | 
乃南アサ氏です

犬も歩けば/銀杏日和/その日にかぎって/いちばん長い夜/その扉を開けて/こころの振り子

芭子と綾香は刑務所で知り合い、現在は過去を隠しながらひっそり暮らしている。
仕事も起動に乗り、わずかながら生活に余裕も出てきたある日、
綾香の息子の消息を調べる為、芭子はこっそり仙台の街を訪れていた。

東京の下町ならではのある意味面倒臭い密接な関係は、最近ではとても珍しい。
平成に入って四半世紀を迎えたというのに、漂う空気は昭和のそれだ。
「ボクの町」に登場した高木巡査も、このシリーズではちょこちょこ登場し、
彼の成長と相変わらずなところの両方を感じ取れる。
これまでも小さな事件はあるものの、全体的にはゆったりとした流れに包まれていた。

ところが芭子が仙台を訪れた辺りで話が大きく変わる。
作品の空気も芭子と綾香の運命も、何もかもだ。
予想していなかった展開に、戸惑いはあった。
この題材を、この作品で取り上げたのはなぜ?
必要はあるのか!?
半ば怒りにも似た感情は、綾香の選択によって行き場のない気持ちが、
すとんと落ち着くべき場所に落ちた。

ただ芭子が東京へ戻るくだりが長すぎた。
やけにリアルで変に思い入れが強い描写に、違和感を覚えた。
その理由はあとがきを読めば、なるほどなという思う一方で、
やっぱりなという気持ちになった。

この題材を扱うにはページが足りないように思う。
その為にこれまで作品を支えてきた「ボタンじいさん」に触れることなく終わってしまったのが、とても残念だ。
南くんにしても葛藤はあっただろうに、どうもあっさり決心した印象で、
物足りなさを感じてしまう。

作品の後半の主人公はまるで綾香だ。
それぐらい丁寧に書かれていた。
もっとページがあれば芭子の行動にも、説得力が生まれたはず。
とてももったいない。


カード・ウォッチャー

2013-08-16 15:44:06 | 
石持浅海氏です

サービス残業中に起きた下村の軽い怪我をきっかけに、
臨検が入ることになってしまった。
総務の小野は対応に苦慮するが、倉庫で見つかったのは…

労働条件が悪い会社がある。
ならば公的機関などの第三者が入って是正されれば良い。
…とは簡単にいかないのが、日本的な体質なんですよね。
何らかのペナルティを課せられることを恐れた社員は、
自分たちを苦しめる会社側を守ろうとする。
たとえ嘘をついてでも。
おかしな話だと思う。
ここまで極端な展開はないと思うけれど、
多かれ少なかれどこの会社でもあることかもしれない。

ただこの作品はそういう社会的なものとはちょっと違う。
予想の斜め上をいく。
ラストまで読んでみたものの、どうにもモヤッと感が残る。
お気楽主婦の会話で終わってしまったせいなのか、会社を去った人物を思えば、
彼女が間違ったことは言っていないにせよ、腹立たしい。
もちろん小さな悪意というか、目論んだことに対しての手段は、
誉められたものではないけれど。
不幸な出来事はあったけど、しあわせになった人がいるなら、
相殺デースみたいな。
そのあっけらかんとした締めに苦笑いです。

仇敵

2013-08-15 18:00:03 | 
池井戸潤氏です

庶務行員/貸さぬ親切/仇敵/漏洩/密計/逆転/裏金/キャッシュ・スパイラル

濡れ衣を着せられてメガバンクのエリート銀行員から、
地方銀行の庶務行員になった恋窪だったが、
かつてのライバルからの電話が再び彼を「仇敵」へ立ち向かわせる。

実はできる男の主人公に、主人公を慕う若手。
粘着質な小物上司。そしてラスボス感たっぷりの黒幕。
分かりやすい人物設定と金融に関する豊富な知識で、
読み手をすんなり世界に引き込むのはさすがです。

連作短編集になっておりますが、長編で一気に読ませてしまってもよかったかな。
最初は見落としそうな些細なことに気付いた恋窪が、
名探偵のように謎をといてみせる話が続きます。
やがて彼の過去に絡んだ話になってくると、
正直なところ短編としては終わり方が微妙です。
前半の雰囲気と後半が変わりすぎという感じもします。
小物上司がもう少し絡んでくるのもありかも。
もし映像化されたら、「半沢」における小木曽のように濃いキャラになりそう。

お金が絡むと望む望まないに拘わらず、昔の友人さえ利用してしまう。
悲しくて辛いですね。
でも人を救うのもお金でもある。
最終話はさりげなくその両面を見せてくれたように思う。


不思議の扉 午後の教室

2013-08-13 11:16:39 | 
インコ先生(湊かなえ)/三時間目のまどか(古橋秀之)/迷走恋の裏路地(森見登美彦)/S理論(有川浩)/お召し(小松左京)/テロルの創世(平山夢明)/ポップ・アート(ジョー・ヒル)/保吉の手帳から(芥川龍之介)

学校をテーマにした少し不思議な短編小説アンソロジー

「三時間のまどか」は高校生の少年が、三時間目の授業中にだけ窓ガラスに映る少女に恋をする、ちょっとロマンチックなお話。
でも展開が読めてしまうので、読み終えての驚きは全くない。
期待を裏切らない安心路線です。
このテのネタでとことん切なくもっていくのは乙一なんでしょうね。

「迷走恋の裏路地」は「夜は短し歩けよ乙女」のサイドストーリー。
クラブの後輩の女の子に絶賛片想い中の先輩の話。
純粋なんだかヨコシマなんだか。
でも涙ぐましい先輩の努力が面白可笑しい。
続けて何冊も森見作品を読むと私は胸焼けがしますが、
たまに無性に読みたくなるのも森見作品なのです。

「S理論」は有川作品=自衛隊もしくはラブコメという先入観を壊される作品。
長編に見られるあの勢いある文体とは、一線を画した短編ならではの味わいがある。
…でもいつもの方が好きかも。

「テロルの創世」は近未来SF。苛酷な運命を背負わされた少年の孤独な戦いの話。
残酷なというか、若干グロい描写があってびっくり。
内容は全然違いますが、脳内イメージは「進撃の巨人」でした。


私と踊って

2013-08-09 12:40:56 | 
恩田陸氏です

心変わり/骰子の七の目/ 忠告/弁明/少女界曼荼羅/協力/思い違い/台北小夜曲/理由/火星の運河/死者の季節/劇場を出て/二人でお茶を/聖なる氾濫/海の泡より生まれて/茜さす/私と踊って/東京の日記/交信

短編の映画を見ているような感覚で読んでいた。
もしくはMVのようなイメージ映像のような、或いは夢の中のような。
ただしちゃんとストーリーはある。当然だけど(笑)
色に例えるのなら、原色ではなくてセピア色。
抽象画のように柔らかで優しい感じ。でもパステルではなくて暗めのトーン。
現実世界とは少しだけずれたもう一つの世界の話が多いせいか、
全体的にそういうイメージとなった。
この世界観はとっても好みで嬉しい。

「忠告」と「弁明」が対になっていたり、作品によって字体を変えたり、
仕掛けも楽しめました。
「聖なる氾濫」から「茜さす」は一つのシリーズになっていて、
特殊能力を持つ人物が出てくる。続きが気になる空気がプンプン漂ってきて、
短編で終わらせるのは、何だかもったいない気もする。
だけど長編になったらなったで、広げた風呂敷畳んで下さいお願いだから、
といつもの落とし穴が待っているのでしょう。
そういう意味ではいい所で幕を引いているのかな。


桜ほうさら

2013-08-03 15:18:04 | 
宮部みゆき氏です

無実の罪で自刃した父の汚名をそそぐべく、江戸留守居役の坂崎の密命を受け、
古橋笙之介は江戸に移り、写本の仕事をしながら暮らしていた。

綺麗な言葉ですね。「桜ほうさら」って。
これは元々「ささらほうさら」というお国言葉からきていて、
あれこれ色んなことがあって大変だ。大騒ぎだ。という意味だそうだ。
なので、これは造語になる。
読み終えてみると、実にぴったりの言葉だなぁと思わざるをえない。
これしかないのだ。
なかなかの厚みだったけど、ちっとも気にならないのは、
言葉の選び方が抜群で、頭に入りやすかったせいだ。
こっちが物語の世界に溶け込んでしまえば、読むスピードは自然と上がる。
そうやって毎度、気がつけば読みきってしまうのだ。

優しいけれど、ちょっと頼りない印象だった笙之介。
それが様々な人と出会い、生きざまや過去に触れて随分変わった。
自分が何をすべきか、一本の道筋が見えたようだ。

真実を知ることが正義ではない。
嘘は必ずしも悪とは限らない。
ただ嘘をつくのであれば、自分も傷つく覚悟が必要だ。

それにしてもあの暗号はどうやって解くのだろう。
作品中では結局明かされないままだった。
ミステリではないから、重要ではないのだけれど、やっぱり気になる。
結構宮部さんの時代物はシリーズ化されることが多いけど、
さすがにもうないかな。あったら嬉しいのに。