ぴーちくぱーちく

活字ジャンキーぴーの365日読書デイズ。

蜻蛉始末(かげろうしまつ)

2006-10-30 21:01:58 | 
北森鴻氏です。

幕末から明治にかけて、乱世を生きた二人の男の物語。

藤田傳三郎というのは現在の藤田観光の創始者で、実在の人物です。
他にも吉田松陰や、久坂玄瑞、井上馨…日本史の教科書でお馴染みの人たちが出てきます。
幕末から近代にかけてというのは、実はあまり印象がなく、
大河ドラマなんかで知識を得たクチです。
ちなみにわたしの中の幕末の認識は「龍馬におまかせ」だったりします←大阪弁の龍馬なんてありえなさすぎ。でもくだらなくて面白かった!そして明治初期は「飛ぶが如く」です。

話がそれました。
藤田の人物像を追うのではなく、彼と対照的な宇三郎を則することで
たとえフィクションだとわかっていつつも、
歴史の裏側を覗けた感じがします。
どちらかと言えば、この話の主人公は宇三郎です。
生きるためには平気で嘘はつく、時には人を殺めても心を痛めない男が、
所帯を持ち、子供を授かったことで変わっていくことで
読み始めの頃の良くない印象は見事に払拭されました。
それだけにその後の悲劇が辛くて胸が痛みます。

非常に読み応えのある歴史小説でした。


共犯マジック

2006-10-29 11:23:04 | 
北森鴻氏です。

不幸ばかりを予言した「フォーチュンブック」に関わった男女7人の運命。

占いの結果に悲観して自殺する若者が増え、書店が発売を自粛する事態に発展する。
それほど「当たる」恐ろしい本ということだ。
言葉には力がある。
運命を変えてしまうほどの力がある。
この本にも負の力があったのかもしれないが、
「フォーチュンブック」の恐ろしさは、占った本人のみを不幸にするのではなく、
買おうとして買えなかった人までも不幸にしてしまうのだ。
まるでちょっとしたオカルトホラーともとれる印象を受けるが、
この作品の凄さはやはり脈絡のなかったそれぞれの事件が、
昭和の事件史に登場するほどの大事件に結びついてくるところにある。
全くの予想外。
逆に言えば「フォーチュンブック」がなければ、
ただのご都合主義に終わってしまう。
危ない橋を何の気なしに、ひょいっと渡ってしまったかのようだ。

ただ、内容が壮大な割には短い話だった。
もう少し掘り下げてじっくり読みたい気もしたのが、やや残念。

孔雀狂想曲

2006-10-28 22:07:41 | 
北森鴻氏です。

ベトナム ジッポー・1967/ジャンクカメラ・キッズ/古九谷焼幻化/孔雀狂想曲/キリコ・キリコ/幻・風景/根付け供養/人形転生

下北沢の骨董店「雅蘭堂」店主越名が、骨董にまつわる事件の謎を解き明かす。

旗師・冬狐堂シリーズの陶子とも面識のある越名ですが、
今回の短編集では彼女は姿を見せていません。

万引き未遂の女子高生に結局「押し掛けアルバイト」として、
店に通ってこられることになっても断り切れないくて、
なんていうような押しの弱さもありますが、
そこは彼の優しさとも言えるでしょう。
同じ骨董を扱う冬狐堂シリーズとはまたひと味違って、
シリアスな場面もどこか柔らかな空気に変えてしまう、
越名という男はとても魅力のある人物です。

「美」を見極めるということは、物事の本質を見抜く技量が欠かせません。
ということは越名が「探偵役」に落ち着くのも、ごく自然な成り行きでしょう。

顔のない男

2006-10-26 15:31:21 | 
北森鴻氏です。

一人の男が遺体で発見された。
身元はすぐにわかり事件はすぐに解決するかに思われたが、
被害者の空木は周囲と接触をもたない「顔のない男」だった。
被害者が遺したノートをもとに
ベテランの原口とまだ駆け出しの又吉、両刑事が事件の謎に迫る。

一見別の事件のように見えて、実はそれぞれが一つの細い糸で繋がっている。
しかもおそろしく複雑に絡み合っている。
これを頭の中で解きほぐすのは、かなり厄介な仕事でした。
ページ数が多い訳ではないのに、なんだろうこの疲労感は。

読み進めていけば、途中で空木の正体はわかると思います。
でも問題はそれだけではないんですよ。
多少無理を感じる設定があり、そこがひっかかりましたが
又吉刑事と同様、わたしは最後の最後になるまで
何が起こったのかわかりませんでした(苦笑)

冒険の国

2006-10-22 21:54:35 | 
桐野夏生氏です。

地元の会社に務め、地味に暮らす独身OLの美浜は、
かつての恋人英二が20歳の時に自殺をしてから、
心の痛みを抱えて生きてきた。しかし彼の兄恵一と再会し…

タイトルだけを見ればジュブナイルとも思えるけれど、
それはあの「OUT」の作者ですから。
すばる文学賞の最終候補作品だったものを、
加筆修正したものであると、最後に知りました。

嫌なリアリティ溢れる人物の描写などは、既にこの頃から卓越しています。
「OUT」に繋がる作品群の原型ともいえるでしょう。
しかしそこは処女作。ご本人も後書きで述べておられますが、
中途半端な感は否めないかと。

現実って実際のところ、理路整然とした答えなど見つかるわけでもない。
本当に嫌になるほど「現実」が描かれていて、
何の救いもなく、暗い読後感が漂います。


べっぴんぢごく

2006-10-19 21:36:27 | 
岩井志麻子氏です。

母を殺されたった一人になった乞食のシヲは、
村一番の分限者の竹井家の養女なり、やがて子供を産む。
明治から昭和に至る、別嬪と醜女が繰り返し生まれる女系家族の歴史。

実は別嬪だったとわかってから、
変わったのは周囲だけでシヲ自身は、
諦めるでもなく奢るわけでもなく、現実を受け入れるのみ。
その娘のふみ枝は才媛ではあるけれど、母に似ず、
「牛蛙」と呼ばれるほどの醜女。
正反対の二人が相容れるわけもなく、血が繋がっていながら
誰よりも遠く冷たい関係のまま。
その娘の小夜子は、
自分が美しいと自覚して男を惑わせる媚態を、
生まれもって身につけた妖艶な美少女。

…と、この後も竹井の家には交互に別嬪と醜女が生まれます。
意外と登場人物が多くて、頭の中を整理しつつ読んでいました。

小夜子にピアノを教えていた男は、「黒焦げ美人」事件の犯人でもあります。
また黒焦げ美人?と思ったら
これって本当に起こった事件だったそうです。
ちなみに以前に読んだ「黒焦げ美人」は被害者の妹の視点(だったと思います)。

やっぱり、ベトナムや韓国の愛人の話よりこの系統の話の方が好きです。



凶笑面 蓮丈那智フィールドファイル1

2006-10-16 22:12:22 | 
北森鴻氏です。

鬼封会(きふうえ)/凶笑面(きょうしょうめん)/不帰屋(かえらずのや)/双死神(そうししん)/邪宗仏(じゃしゅうぶつ)/

「異端の民俗学者」蓮丈那智とその助手内藤三國は、
フィールドワークと称した民俗調査に出るがその先々で事件に巻き込まれる。

那智先生のシリーズは以前に読んだアンソロジーが初めてで、
民俗学というわかるようでわからない分野
(少なくともわたしは民俗学…柳田国男しかキーワードが出てきません)
とミステリというのが意外な取り合わせで、
非常に印象的だったのを覚えています。
本格ミステリではお馴染みの「見立て殺人」もあれば
「雪の密室」もあります。

ちなみに「双死神」は「狐闇」ともリンクしています。
単独だと「税所コレクション」の件がわかりにくいかも。
という訳でお勧めは旗師・冬狐堂シリーズからですね(笑)

支那そば館の謎 裏京都ミステリー

2006-10-14 14:10:41 | 
北森鴻氏です。

不動明王の憂鬱/異教徒の晩餐/鮎踊る夜に/不如意の人/支那そば館の謎/居酒屋十兵衛

有馬次郎は、かつて怪盗と呼ばれたほどの窃盗犯だったが、
今は京都嵐山の奥深くにある大悲閣の寺男である。
自称「みやこ新聞のエース」折原けいやご住職と共に、
奇妙な事件の謎に迫る。

支那そば…ということは中華そばにまつわる話であり、
ラーメン屋の店主が主人公なのだろうと思っていました。
でも「館」ってなんだろう?
支那そばにこだわってこだわった「館」で繰り広げられる連続殺人か!?
…んな訳ない(苦笑)

冬狐堂シリーズなどに比べると随分と軽いタッチのミステリーです。
作中、「水森堅」という作家が出てくるのですが、
「鼻の下伸ばして春ムンムン」という凄いタイトルで大日本バカミス作家協会賞受賞されてます。
これはもちろん作者が日本推理作家協会賞を受賞した「花の下にして春死なむ」を
もじったものなのですが、あの名作をよくぞここまで…くだらないタイトルに(笑)
そんなことができるのもご本人ならでは。

短編ですので急ぎすぎる結末になるのは否めないのですが、
気軽に楽に読めるミステリーとしては、良いのではないかと思います。

緋友禅

2006-10-12 16:10:06 | 
北森鴻氏「旗師・冬狐堂」シリーズです。

陶鬼/「永久笑み」の少女/緋友禅/奇縁円空

「狐罠」「狐闇」に続く第三弾。長編だった二作と違って、
今回は短編集となっております。
陶子はなぜだかいつも事件に巻き込まれてしまう
友人の硝子いわく「トラブルメーカー」なわけですが、
今回も遺体の第一発見者となってしまったり、
被害者が遺した手帳に陶子の名前があったり。
別に古物商の世界が血なまぐさいわけでは決してないのに(笑)

「美」というある意味では曖昧なものを、
「お金」に換算するということは血なまぐさくはならなくとも、
関わる人間によっては生臭くなるのは必至。
魑魅魍魎が跋扈する世界で、自分のスタンスを崩さない陶子の生き方は、
いつも凛としている強い女性ですが、
完璧ではないところが民俗学者の那智先生のシリーズより
好感が持てる一因です。

桜宵

2006-10-11 23:27:59 | 
北森鴻氏「香菜里屋」シリーズです。

十五周年/桜宵/犬のお告げ/旅人の真実/約束

わたしは読む順番を間違えてしまいましたが、
このシリーズの最初は
「花の下にて春死なむ」で今回の「桜宵」が第二弾になります。
そして「蛍坂」へと続きます。
でもまぁ、そんなに支障はありませんでしたけど。

これまでに何作か、北森氏の作品は読んできました。
骨董や料理を扱った作品は色々ありましたが、
時々「猫」も出てきます。
あぁ、この方は猫好きなんだなと思う箇所が幾つかありまして。
逆に「犬のお告げ」ではまさしく「犬」が出てきますが、
見事に愛情が感じられません(苦笑)
でもそれは犬好きのわたしから見れば、の話。
そして本編には何ら関係もありません。

「十五周年」で故郷へ戻る為に東京を離れることになった日浦が、
他の作品でまた登場するのですが、
香菜里屋を愛してやまない常連達と同様、主役になったり、
脇役になったり、読み進めるごとに緩やかな時の流れを感じさせます。
連作短編ならではの楽しみがありますね。

そして今回も料理とお酒の描写に酔いしれるのでありました。