ぴーちくぱーちく

活字ジャンキーぴーの365日読書デイズ。

かもめ食堂

2008-12-31 16:24:40 | 
群ようこ氏です

ヘルシンキの街角で「かもめ食堂」を営むサチエ
しかし客は日本オタクのトンミ青年ただ一人


元々は映画の「かもめ食堂」を見たいと思っていたのですが、
こちらは今に至るまで見そびれております。
主役のサチエは小林聡美さん。
食パンのCMでもお見かけしますが、
淡々としながらも芯の強さを感じさせるサチエはこの方をおいて他にないでしょう。
俄然見たくなってきました。

見たい見たいという割にはどんな内容なのか、事前情報は全く仕入れておりません(笑)
お陰でまっさらな状態で読む事ができました。
真面目だからこその面白さがありますね。
サチエ、ミドリ、マサコ、それぞれがフィンランドを選んだ理由も独特で、
普通ではちょっとありえない展開もあるのですが、まあそれはそれ。
そんな些細なことは許されてしまう世界が出来上がっています。
ほのぼのと優しい空気に包まれて、なんだかほっとする一冊でした。

作者は違いますが、「食堂かたつむり」よりは「かもめ食堂」の方が好みです。
おにぎりも美味しそうですが、シナモンロールも食欲を刺激して困ります(苦笑)

ジーン・ワルツ

2008-12-19 23:38:55 | 
海堂尊氏です。

産婦人科医の理恵は帝華大学で教鞭を執りつつ、
閉院予定になっているマリアクリニックで、5人の妊婦の担当をしていた。
一方理恵の先輩である清川は、理恵が代理母出産に関わっているのではと疑いの目を向けていた。

妊娠→出産に至るまで。
自分に経験がないものでただ漠然と、それこそ自然の摂理に任せていれば大丈夫なんだと思っていたのですが、
無事に出産する確立の低さに驚き、女性として無知であった自分に恥じ、複雑な思いで読みました。
どんなに望んでも先天的、あるいは後天的な理由から子供を産めない女性はいます。
その一方で望まないのに妊娠してしまう女性もいます。
少子化問題が取りざたされて随分たつのに、相変わらずたらい回しにされ命を落とす妊婦さん。
このバランスの悪さはいったい何故なんでしょうね。

理恵の行ったこと、彼女が目指すもの、それら全てが正しいかどうかはわかりません。
一方から見れば正しく、もう一方から見れば誤っているように捉えることができます。
ただ現状に甘んじるのではなく、突き破る強さでもって、
一つの答えを提示しているような気がしました。

ちなみに理恵は東城大学出身なので、やはりこの作品も一連のワールドの中にあります。
清川先生もどうやら他の作品に絡んでいるようですね。
次は「ひかりの剣」を読んだらいいのかしら?



螺鈿迷宮

2008-12-15 22:59:11 | 
海堂尊氏です。

東城大の医学生天馬は幼馴染みで新聞記者の葉子から、
何かと黒い噂の絶えない碧翠院桜宮病院へ侵入できないかという依頼を受ける。
終末医療の最先端である桜宮病院では、不自然な死が相次いでいるのだった。

バチスタスキャンダルから一年半後という設定です。
田口センセは名前だけの登場で直接は絡んできません。
留年を繰り返し雀荘に入り浸るダメ医大生天馬の目を通して、
今回もまた様々な医療問題を浮き彫りにさせつつ、
これまでのシリーズでも謎に包まれていた桜宮病院の実体を明らかにしていきます。
どちらかというと「悪」という位置づけだと思っていたのですが、
安易にそうとも言えないのだというのが難しいところです。
光を当てれば必ず闇はできる。
だから光だけを集めることはできない。
巌雄院長の言葉は確かに正しいのだけれど、
白鳥や天馬はそれぞれの立場で、それぞれの答えを出していくのだと思います。

ラスト、北へ向かったある登場人物がいます。
これは次の作品への何らかの布石なのでしょうか。

東京島

2008-12-14 00:08:32 | 
桐野夏生氏です。

太平洋の小さな無人島に漂着した31人の男と1人の女。
待てど暮らせど助けの船は来ず、
いつしか彼らはこの島を「トウキョウ島」と呼ぶようになった。

清子は無人島でたった一人の女。
だから46歳という決して若くはない年齢でも、無人島で暮らしているのに太っていても、
男たちは時には命がけで彼女を求めるのです。
しかし清子の価値は年月とともに微妙な変化をみせ、
「ホンコン」と呼ばれる中国人グループと脱出を試みたことで決定的となります。
島の女王のように君臨していた清子は失墜したのです。
次にリーダーの地位に就く者もいますが、またひょんなことから入れ替わり…
と表が裏となり裏が表となるような変化です。

微妙なバランスで変化する流れの中、清子は逞しく生き抜きます。
人間の浅ましさや意地汚さを存分にみせてくれる彼女ですが、
それだけ彼女が一番生きることに対して貪欲だったのかもしれません。

無人島というモチーフから想像できるのは、まずはサバイバルなのですが、
この島は食べ物にはさほど不自由しませんので、
貝殻でアクセサリーを作る若者がいたりと、のんびりしてます。
一方ホンコンはサバイバル能力に長けていたり、国民性が如実に現れています。
ここは無人島といえども小さな社会です。

それにしてもこの小さな社会の進化と、清子のその後には驚かされました。




火村英生に捧げる犯罪

2008-12-06 16:48:59 | 
有栖川有栖氏です。

長い影/鸚鵡返し/あるいは四風荘殺人事件/殺意と善意の顛末/偽りのペア/火村英生に捧げる犯罪/殺風景な部屋/雷雨の庭で

今回は(も?)作家編アリスの短編&掌編集。
表題作「~に捧げる犯罪」は華々しい割に、犯人とトリックが「え…!?」と小物な感じなのです。
折角のタイトルなのになんか犯人がグダグダなんですよ。
でもこれ(読者の期待をいい意味で裏切る)が狙いなのかなと思ってみたり。
そもそもわたしはてっきり長編なんだと思ってました。
火村准教授VS(例えば)姿の見えない大いなる敵(しかも偏執狂←勝手なイメージ)
…という構図を思い描きながら手にとったもので、
その段階からわたしは作者の思うツボというか、掌の上に乗っていたのでしょう。
そもそも長編かと思いきや短編集だったという、最初の一歩からしてやられているのですから。
まぁ完全にわたしの独り相撲ですけど。

トリックとしては「あるいは~」が目をひきました。
実に荒唐無稽で(笑)
ここまでくると清々しい。

田村はまだか

2008-12-05 23:46:08 | 
朝倉かすみ氏です

ススキノの小さなバーで男女5人は、
小学校の同窓会に参加できなかった一人の男を待っていた。
彼の名は「田村」。彼らは田村を待ちながら、思い出を語る。
「田村はまだか」と言いながら。

貧しい家庭に育ち、小学生にして既に孤高であった田村。
友人が語る様々なエピソードが印象をより鮮明に刻み付けていき、
あっという間にその場に存在していない田村が一番存在感があるという結果になります。

バーのマスターである花輪の視点で、まずは客の5人の男女が語られます。
永田は常連だから除外ですが、他は名前を知らないので花輪は彼らにこっそり渾名をつけます。
見た目のイメージや、飲んでいるお酒の銘柄(いいちこやエビス)そのままなのですが、
読み手にしても登場人物の書き分けといいますか色分けができているので、
すんなり入りやすいです。

そして語り手は順に変わっていきます。
それぞれ40歳という年齢の苦みや哀しさなども織り交ぜつつも、
締めの言葉のように「田村はまだか」の言葉が繰り返されます。
いったい彼はいつやって来るのだろう。
最後まで来ないのだろうか?
わたしも彼らと同じく「田村はまだか」という気持ちになっていました。


戸村飯店青春100連発

2008-12-02 12:44:38 | 
瀬尾まいこ氏です。

大阪の中華料理屋を舞台に下町ならではの人情味溢れた物語。
ヘイスケとコウスケは見た目も性格も正反対の兄弟で、仲は良くない。
でもコウスケが想いを寄せる岡野はヘイスケのことが好きで…

感想を書かないまま図書館へ返却してしまった「Re:born」というアンソロジーに収録されていた作品。
1章(コウスケ視点)が収録されていました。
弟→兄→弟…という具合に章ごとにそれぞれの視点で話は進みます。
一見対称的な二人ですが、血の繋がりを確かに感じさせます。
やっぱり兄弟なんです、この二人。
でも兄弟という身近な存在故に反発します。
端から見れば答えは一つだけど、本人には近すぎて見えないものなんですね。
だから遠回りしたりもする。
大阪の実家を取り巻く全てが嫌で東京へ行ったヘイスケが、
結局カフェで調理をしていたり、
否定してきた大阪的要素が東京で好意的に受け入れられたり。

アンソロジーのコウスケ視点の話のみだったら、ヘイスケってかなりイヤな奴なんですが、
東京へ行ってからの彼の話を読めば随分印象が変わりました。
全部読んで良かったです。

それにしてもタイトルの付け方が素晴らしすぎる…

本からはじまる物語

2008-12-01 00:49:52 | 
本と本屋をモチーフにしたアンソロジー

飛び出す、絵本(恩田陸)/十一月の約束(本多孝好)/招き猫異譚(今江祥智)/白ヒゲの紳士(二階堂黎人)/本屋の魔法使い(阿刀田高)/サラマンダー(いしいしんじ)/世界の片隅で(柴崎友香)/読書家ロップ(朱川湊人)/バックヤード(篠田節子)/閻魔堂の虹(山本一力)/気が向いたらおいでね(大道珠貴)/さよならのかわりに(市川拓司)/メッセージ(山崎洋子)/迷宮書房(有栖川有栖)/本棚にならぶ(梨木香歩)/23時のブックストア(石田衣良)/生きてきた証に(内海隆一郎)/The Book Day(三崎亜記)

短編というよりは「ショート・ショート」ぐらいの長さで、すらすらと読みやすいですね。
有名どころの作家さんの名前も連ねてありますので、
お好きな作家さんの作品から読むのも一つのテかと思われます。

1冊の中に18も作品があれば、印象に残るものとそうでないものとの差ははっきりでます。
これは好みの問題でしょう。
わたしはというと、一番最後だからということではなく『The Book Day」が印象的でした。
いつも不思議な雰囲気の作風を自然に描いていらっしゃるのですが、
今回もまた現実ではありえない設定でした。
でもね、冬の夕暮れのような美しさと物悲しさとが織り交ぜながらも、
最後に残るのは柔らかな温かさなんですよ。

冒頭の『飛び出す、絵本』も良かったですね。
こちらも本がまるで生き物のような捉え方をされていて、
よりファンタジー色が濃い作品になっています。
この2作は世界観は異なるのですが、
本との出会いと別れという見事に「始まり」と「終わり」になっています。
ですので、この2作が読めただけでも儲け物といいますか、
「いい本に出会えたな」という気持ちにさせてくれました。