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活字ジャンキーぴーの365日読書デイズ。

タルト・タタンの夢

2009-06-29 22:09:37 | 
近藤史恵氏です。

タルト・タタンの夢/ロニョン・ド・ヴォーの決意/ガレット・デ・ロワの秘密/オッソ・イラティをめぐる不和/理不尽な酔っ払い/ぬけがらのカスレ/割り切れないチョコレート

ビストロ「パ・マル」は小さなフレンチレストラン。
風変わりなシェフ三舟が、客たちが持ち込む日常の謎を解き明かす。

フレンチにはあまり馴染みはないのですが、「パ・マル」は気取った敷居の高そうなレストランとは違い、
暖かみのあるお店のようです。
三舟は寡黙なタイプで常連さんとおしゃべりに興じたりすることはありません。
でも結果的に謎を解くのは三舟です。
それは料理人ならではの視点ゆえ。

料理人が謎を解くスタイルといえば真っ先に「香菜里屋シリーズ」(北森鴻)を思い浮かべます。
お腹がすいているときに読んではいけない本、No.1でもありますが、
このタルト・タタン~も負けてはいませんね。
あまり良く知らない料理なのに、やっぱり美味しそう。
わたしの食い地がはっているからということを差し引いても、
フランス料理のこってりしつこいくどいイメージは飛んで消えて、
素材の良さを最大限にいかした優しい味に仕上がっているのが伝わってくるのです。
普段は多くを語らないシェフだけど、本当は優しい人なのです。
でもそれを面と向かって言うと、何故だか怒り出しそうだけど(笑)

最後の「割り切れないチョコレート」は一番好きだなぁ。
胸の奥がじんと痺れるような、哀しさと優しさとが入り交じった複雑な気持ちになります。
あぁ、わたしは家族ものには弱いのですよ。




ひかりの剣

2009-06-28 22:36:12 | 
海堂尊氏です

東城大の速水晃一、帝華大の清川吾郎。
対称的な二人が共に目指すのは、医学部剣道大会の優勝旗である医鷲旗。
はたしてどちらの手に。

これもまた一連のバチスタシリーズの環の中にあります。
時間軸は過去。ジェネラル・ルージュと異名をとった速水の大学時代です。
そして「ブラック・ペアン1988」とも重なります。
全てはここから始まった!という謳い文句でもつけられそうなほど、
これまでの様々な作品で登場した人物たちが、読者サービスかと言わんばかりに出てきました。
でもまあ過去の話だから当然といえば当然か。

相変わらず高階先生が腹黒タヌキで(笑)大活躍します。
さすがの速水も清川も彼には敵わないようです。
そうそう田口センセも出てきますよ。
彼がなぜ花形である外科ではなくて不定愁訴外来を担当するのか、
この時すでに方向性が見えていたようです。

でも今回はあくまでも剣道がメインなわけでして。
これはこれで楽しめたけれど、やっぱりちょっと物足りないような気もします。
わたしにとって失礼かもしれないけど、この作品は「おまけ」みたいなもの。
今後繰り広げられるであろうドラマに深みをもたせる役割はあっても、
単独の作品としては弱い。

この作品でわかったのは、清川には弟がいるってこと。
いつかまた別の作品で出会えるのかもしれない。

南方署強行犯係 黄泉路の犬

2009-06-26 19:05:17 | 
近藤史恵氏です。

刃物を突き付けて二万円を奪う事件が発生した。
現金だけではなく可愛がっていたチワワも奪われたと訴える被害者。
進展しないかと思われたこの事件、意外なところから糸口が見えてきた。

圭司が死にそうな子猫を拾って帰ってきたことで、ちょっとした騒動もありましたが、
「俺に母乳が出たら…」のくだりは、吹き出しそうになりました。

けれど第一章のタイトル「地獄」から始める、ペットを取り巻く現状には胸が痛みました。
犬好き、猫好きには余計に刺さるものがあります。
飼えなくなったからといって簡単に手放してしまう無責任な飼い主の話は、
まあよくある(よくあるというのも哀しい現実ですが)ことです。
捨てられて始末される運命にある動物たちに手を差し伸べようとした側にスポットを当てるのは、
なかなか珍しいのではないでしょうか。
心の病気の一つである「アニマル・ホーダー」という言葉も初めて知りました。

非難されるべきは安易にモノのようにペットを飼おうとする人たちなのですが…
今回もまた「罪を犯すのは勿論良くないこと」という大前提はあります。
でも気持ちでは割り切れないものが残ります。
犯人に対して同情するつもりはないのですが、本当にやり切れない。

南方署強行犯係 狼の寓話

2009-06-25 10:07:03 | 
近藤史恵氏です。

念願叶って刑事課に転属になったが、現場で失態を演じてしまい、
捜査班を移されることになった圭司。
コンビを組むことになった黒岩刑事はどうやらヒトクセありそうな感じで…

南方って阪急の『西中島南方駅』の南方だったんだね。
つまりは舞台が大阪です。
圭司が担当するはずだった殺人事件の被害者は心斎橋のホストでした。
次に黒岩と組んで担当することになったのは、夫が殺されて妻が行方不明になっているという事件。
明らか妻が怪しいだろうということで、すぐに解決するかと思いきや、なのです。
事件の解決、犯人逮捕が必ずしもめでたしめでたしにはならないんだよねぇ。
だから犯人当てミステリではなくて、小説版の刑事ドラマみたいな感じかな。
罪を犯すのはもちろんいけないことではあるんだけど、
それに至るまでの過程が痛々しいというか痛ましい。
短くて読みやすくてテンポも良くて、事件背景もきっちり書かれている。
でも冒頭のホスト殺しが何らかの形で絡んでくるのかと思ったんだけど。
それは穿ちすぎたみたい。

Rのつく月には気をつけよう

2009-06-24 23:36:40 | 
石持浅海氏です

Rのつく月には気をつけよう/夢のかけら 麺のかけら/火傷をしないように/のんびりと時間をかけて/身体によくても、ほどほどに/悪魔のキス/煙は美人の方へ

大学時代からの飲み友達、長江、熊井、そして夏美の3人は、
長江の家に集まっては美味い酒と肴を楽しんでいる。
そしていつからかマンネリ化を防ぐ為に、毎回誰かがゲストを連れてくるという趣向になっている。

日常の謎解きの連作ミステリになっております。
いいお酒と美味しい肴で会話を楽しむ。大人ならではの楽しみですね。

でも決して凝った料理が出てくるわけではないのです。
初っぱなは生牡蠣です。
牡蠣には白ワインという図式しか思い浮かびませんが、
アイラ島(スコットランド)のシングルモルトという意外な取り合わせでした。
う~ん、想像がつくようなつかないような。でも試してみたい!
一番お手軽なのは、ビールに砕いたチキンラーメンでしょうか。
あと個人的には豚の角煮に泡盛がベスト1でした。(どっちも大好き♪)
あ~でもチーズフォンデュに白ワインも捨て難い。
煎った銀杏に日本酒も良いですし。
いやいやスモークサーモンにシャンパンも…

…あ、いえ、肝心の中身ですよね。
酒と肴ばっかり語ってても仕方ありません。
ゲストが持ち込んだ謎は主に長江が解きます。
彼の思考回路は一体どうなってるんでしょうというくらい、
会話の中のちょっとした綻びを見つけて解き明かしてしまいます。
若干、無理があるかなと思わないでもないですが、いやお見事です。

そしてそんなこんなに気を取られていると、最後にびっくりしました。
で、慌てて読み返しました。
心地いいくらいに見事にしてやられました。
なので読後感はすっきり爽やか壮快です。

ゆっくりと好きなお酒を片手に読むとより楽しめそうですよ。





ホペイロの憂鬱

2009-06-23 17:31:18 | 
井上尚登氏です。

坂上の仕事はJFL所属サッカーチームのホペイロ(用具係)。
J2昇格を目指してシーズンは始まったばかりなのに、なぜだか奇妙な出来事が続く。

カンガルーの右足/ヤム芋ストライカー/迷惑フラッグ/忘れ物リング/盗まれポスター/行方不明ベア

例えばワールドカップになるとTVで試合の中継をちょっと見てみたりもしますが、
実はサッカーについてあまりよく知りません。
この「ホペイロ」という言葉についても、仕事内容についてもそうです。
選手のスパイクの汚れを落として手入れして管理して。
坂上の場合はこれに雑用がプラスされます。本当に大忙しだ。
どの仕事にもいえることだけど、
好きじゃなかったらできないよなぁと本編に関係ないところでしみじみ思う。

さて内容です。
日常の謎を結果的に解くハメになっちゃう坂上の奮闘記です。
どれも読みやすくて、サッカーにまつわる細かいルールなんて知らなくて問題ありません。
だって試合の場面があまりないから(笑)
選手じゃなくって裏方にスポットを当てるっていうのは面白い。

今回が『JFL篇』
次はおそらく『J2篇』でシリーズ第二弾となることでしょう。
でも坂上はきっと仕事と、オニアザミこと撫子さんに振り回されるんでしょうね。



吉野北高校図書委員会

2009-06-21 22:57:28 | 
山本渚氏です。

大事な友達である大地が、大事な後輩であるあゆみとつき合い始めた。
かずらの心は複雑に揺れる。
一方藤枝はそんなかずらの気持ちに気づき、苦悩する。

うわぁぁ…なんて甘酸っぱい。
互いを理解し合える理想的な二人の大地とかずらの間には、
普通だったら恋愛感情が発生しても全然おかしくないものを、
少なくとも大地にはなかったようだ。
他人の気持ちを思いやれる、あるいは解りすぎてしまうきらいがある大地なのに、
かずらが抱える微妙な感情には気づかなかった。
これって一番手に負えないんだ。
誰よりも解り合える相手だから、100%解ってくれると思うのなら、それは傲慢だ。

…なんて大地に対して腹をたててしまっているのですが、
かずさ、藤枝、そして短編であゆみ視点があるのに大地だけないせいでしょうか。

とりあえず少女漫画、しかも古き良き時代の少女漫画がお好きな方ならハマるかと。
大地とかずらの間に恋愛感情がないのでちょっと違うのですが、
200万乙女の聖書(バイブル)という謳い文句が懐かしい『星の瞳のシルエット』にどことなく似てます。

少女

2009-06-17 21:33:52 | 
湊かなえ氏です

高2の夏休み、敦子と由紀はそれぞれ老人ホーム、病院へボランティアへ行くことになった。
彼女たちの本当の目的は「人の死の瞬間」を目撃することだった。

人の目を気にしすぎる敦子と感情を表に出せない由紀。
彼女たち二人の交互の視点で話は進みます。
ですが性格の違うはずの二人の割には「色分け」が曖昧な気がしました。
「あれ、今どっちだっけ?」と確認することがしばしば。
病院の話だから由紀か…そんな感じです。

それでも張り巡らせた伏線が気持ちよく繋がっていき、綺麗にまとまっていくので、
スッキリと読む事ができました。
巧くソツなく、でも衝撃的な設定の割には小さくまとまった感じがします。
田舎町という設定だからということを考慮しても、あまりにもうまく繋がりすぎていますが、
そこは触れない方向で。(そんなことは百も承知ですよという作者の声が聞こえてきそうです)

それにしてもイマドキの子供って、そんなに「人の死」を軽く捉えているの?
『告白』を読んだ時も感じたことです。
そして教師。先生なのに…とがっかりさせられます。
このブラックさが持ち味なのでしょうね。

プリンセス・トヨトミ

2009-06-15 22:14:23 | 
万城目学氏です。

五月末日午後四時。大阪が停止した。
全ては、豊臣家の末裔を守るために…

『鹿男』の奈良、『ホルモー』の京都に続き、今回はいよいよ大阪。
今回はどんなお話なんだろうと期待は膨らみまくりです。
会計検査院(東京側)対大阪国の構図は、そのまま徳川対豊臣です。
総理大臣の名前が「真田」だったり、
ちょこっとだけしか出ない人物も豊臣方の武将の名前が使われていたりで、
こだわりが感じられました。
ちなみに監査官には「松平」もいます。完全に徳川ですね。

壮大で且ついい意味でばかばかしい設定だと思う。
それに大阪人の気質を巧く絡めてあって、もちろんこれはフィクションだとわかっていても、
妙に納得してしまう。

でも、でもなのです。
個人的には「プリンセス」にはもっと活躍してほしかった。
視点が東京組と大坂組とが交互に変わり、しかも時間軸も前後したりして、
感情移入するにはちょっと厳しい。
「父と子の絆」というメインテーマがあるというのに、せっかくの感動がぼやけてしまう。
感覚的には、歩幅の合わなかった走り幅跳びみたいな感じ。
一つ一つのエピソードはとても好きなんだけどな。
特にゲーンズブールが鳥居をとある場所へ迎えに行ったところなんてもうね、某新喜劇かと(笑)

さて次はいよいよ兵庫ですか!?


セカンド・ウィンド2

2009-06-12 22:31:23 | 
川西蘭氏です。

高校へ進学し自転車部へ入学した洋だが、ある出来事をきっかけにスランプに陥る。
そして親友の岳と幼馴染みの多恵がメールのやり取りをしていることを知り、複雑な想いに…

待ってましたの二巻です。
高校へ入学する前で終わっていたのですが、二巻はいきなり二年生になっててびっくり。
ルームメイトの翠(すい)とはいきなり仲良しという設定になってて、面食らいました。
どういう過程で仲良くなったのかというエピソードは省かれていたので、
若干唐突だなと感じたのですが、翠が留学のためにイギリスへ行ってしまった後、
登場した後藤との対比はわかりやすいほど極端でしたね。
病弱でエリートで鼻持ちならないイヤなヤツというイメージは、読んでいくうちにどんどん変わりました。

そして洋の仲間であり親友の岳。
彼は無邪気で明るい少年というイメージだったのですが、留学生からモンク(修行僧)と渾名を付けられるほど、
ストイックに食事制限をしたり、『洋ちゃん』ではなくいつしか『洋』と呼ぶようになっている。
中学生と高校生って体格も変われば、子供と大人ぐらいに考え方も変わってくる。
でもまだ完全に大人と呼べるほどでもない、中途半端な時期。だから、はざまでみんな足掻いている。
それぞれもがいて苦しんで、それぞれの答えを出す。
洋が今回経験した挫折は、きっとまだまだこれから続く彼の自転車競技人生において、きっと役立つはず。

それにしても続きはいつかなぁ…
両親についてもまだわからないことだらけだし、物語の序盤ってところよね。