ぴーちくぱーちく

活字ジャンキーぴーの365日読書デイズ。

青いお皿の特別料理

2009-09-27 21:52:31 | 
川本三郎氏です

オムニバス形式の映画でも見ているような気分になった。
第一話で北海道へ旅行する予定だったある夫婦が急遽、東京のホテルに泊まることになる。
第二話では同じホテルに宿泊していた女性客が主人公となり…
という具合にどこかで必ずリンクしている。
ひとつひとつの話は非常に読みやすい。
登場人物も取り立てて特別なことはなくて、いわゆる普通の人々。
彼らのちょっとした喜びや小さな幸せを、一緒の視点で楽しめる。
例えばスクランブル交差点ですれ違う、名もなき人々も、
それぞれに喜怒哀楽があり、人生がある。
そんな当たり前のことを気づかせてくれる。

ゆったりとした気分で、好きな飲み物でも傍らにおいて、のんびり読みたい。
でもあっさり読んでしまったわたし。
せかせかと頁をめくるのは似合わない作品です。

強運の持ち主

2009-09-23 22:01:49 | 
瀬尾まいこ氏です

ニベア/ファミリーセンター/おしまい予言/強運の持ち主

会社を辞めた幸子は時給の高さに惹かれ、ルイーズ吉田という名前で占い師になった。
本を使うことをやめて直感で占うようになってから、
彼女の占いは当たると評判となり、そこそこ忙しい。

連作短編になってて、非常にすらーっと読めます。
ルイーズには通彦という恋人がいますが、なんと元はといえばお客さんの恋人だったという…
何故彼を選んだのかというと、占いによるととてつもない「強運の持ち主」だから。
これもすごい理由だなぁ。
で、通彦は幸子と呼ばずに、ちょっとした理由があってルイーズと呼ぶ。
そして彼の料理は非常に個性的だ。
こういう細かいコミカルな設定が、瀬尾作品の独特な空気を醸し出すんだろうか。
でも今回はちょっと薄い感じがする。
読みやすかったんだけどね。




水の迷宮

2009-09-22 22:21:33 | 
石持浅海氏です

水族館で働く片山が不慮の死を遂げて三年
ーーー彼の命日に届いたメールは、展示生物への攻撃を仄めかすものだった。
姿の見えない敵の狙いは?そして職員たちは水族館を守りきれるのか

まず片山が何故死んだのか。
そして誰が水族館に様々な仕掛けをしてメールを送っているのか。
そうこうするうちに殺人事件まで発生。
犯人は外部犯なのか、それとも職員の中にいるのか。

厚みの割にすんなり読みやすい展開でした。
次から次へと事件が起きるので、続きが気になるのです。
探偵役の深澤が非常に論理的に、冷静に解き明かしていきます。

でも…ね、残された証拠から筋道立てて考えるのは、真っ当なやり方ですよ。
外部だ内部だと揺れ動きながらも、答えに向かっていくのは非常にスマート。
ただ犯人側の視点に立てば、犯人が誰かなんてすぐにわかっちゃいます。
だから意地悪な見方をすれば、わざと複雑にしすぎるというか、
ミスリードへ導こうととする意図が透けてみえました。

最終的に問題は解決するのですが、この選択は正しいのか?
残されたスタッフみんな納得しているのか?
読み終えた後、考えこんでしまいました。

それにしても『水の迷宮』というタイトルに絡めたかったのか、
作中、登場人物の一人が呟くのですが、ちょっと不自然。

アイルランドの薔薇

2009-09-20 20:42:22 | 
石持浅海氏です

南北アイルランド統一を目指した、武装勢力NCFの副議長が殺害された。
政治的な理由により警察には通報せず、
現場の宿屋に泊まっていた客らで犯人を捜すことに。

舞台がアイルランドということで、登場人物が軒並み外国人です。当然ですが。
なんで名前がカタカナになると、頭に入っていかないんだろうなぁ。
そしてNCFのメンバーは偽名で宿泊しているので、名前が二つあり、
なおかつ他の宿泊者にしても愛称が混じり、更にややこしく。
元々殺し屋を使う予定だったので、宿泊者には殺し屋も混じっている。
犯人探しと殺し屋探しの両方楽しめる形になっている。
人数は限られているのに、見事にミスリードにひっかかってしまった。
わたしが単純だから、というのは差し引いても、うまくまとまっているミステリだと思う。

この話の探偵役は唯一の日本人であるフジなのだが、
彼は『月の扉』の座間味くんのようなタイプ。非常に冷静。
もしシリーズ化されてもいい探偵役になれるのに、これきりの登場らしい。
ちょっともったいない気もする。

桜姫

2009-09-15 21:19:12 | 
近藤史恵氏です

笙子の兄は大物歌舞伎役者の跡取りとして嘱望されていながら、幼くして不審な死を遂げており、
それ以降自らが兄を殺したのではないかという夢に苦しめられていた。
そんな笙子の前に、兄の親友だったという男が現れる。

毎回歌舞伎の演目と内容とを巧みにリンクさせているこのシリーズ。
姫君がならず者に恋をしてしまったが為に、身を崩していくという話。(桜姫東文章)
…というよりも子役の男の子の変死事件の方が印象が強いので、
もう一つの演目に気を取られていた。
たぶん今回がいつもに比べて恋愛色が強かったせいかもしれない。
苦手な分野なんで、よそに目をやっていたのかも。

それはさておき。
毎回真実を知ることの重さを痛感させられるのだけど、
今回はとてつもなく大きくて重い。
笙子が得た真実ももちろんだけど、もう一つの真実がまた辛い。
役者という特殊な人だけが背負う「業」のようなものなんだろうか。



凍える島

2009-09-14 22:21:11 | 
近藤史恵氏です

喫茶店を経営するあやめとなつこは、客とその友人ら合計8名である島へ旅行することになった。
彼らはそれぞれの思惑を隠しながらも、5日間のバカンスを楽しむはずだった。
しかしかつて新興宗教の聖地であったその場所で、一人、また一人仲間が殺されていく…

孤島、そして密室殺人を皮切りに起こる連続殺人事件。
設定そのものは古典的というか、王道パターン。
ここに歪な愛憎劇を持ち込むと、本格ミステリもまた色を変える。
連続殺人というキーワードは事前に得ていたので、
どちらかというと真っ先に標的にされるのは誰か?
という目線になっていた。そして見事に外れる。
犯人はわかっても理由も、トリックももちろんわからなくて、
最後まで読み終えても理由に関しては、納得はしていない。
一応筋は通ってるんだけど…
あやめと鳥呼の結びつきの強さをもう少し深く描かないと、
今ひとつ説得力にかける気がする。

登場人物に共感はできないけど、文体が華美じゃなく非常に美しいので、
作品としては好きです。

フリーター、家を買う

2009-09-13 23:26:47 | 
有川浩氏です

誠司は入社後三ヶ月であっさり仕事を辞めた後は、
アルバイトで小金を稼いではまた辞めてを繰り返していた。
しかし母親のココロの病気を切っ掛けに、彼の目標は再就職と貯金百万円となった。

だめでしょうそんな、何の気なしに読んだら、泣くってばこの展開は。
10ページ読むか読まないかのあたりで、鼻の奥がツンと傷んだ。
『ストーリーテラー』では泣かなかったから油断してた!!
序盤から中盤にかけて、家族は錆びた歯車のように嫌な音をたてて軋んでいる。
胸に鉛が流し込まれているような気がした。
涙腺というのは緩み出すと、そんなに泣けるような場面でなくとも、
目頭が熱くなってしまうものなのだと初めて知りましたよ。
すっごく何気ない場面でも心に響いてくるものなんですね。
それがこの方の筆力なんだろうか。

後半からは無事に仕事がきまった誠司の話がメインで、
気持ちよく読める。この辺も展開は読めちゃうんだけどね。
そばかす顔の面接の場面も、フラグは立ってましたし。
そして本編が終わればちょっとした(?)おまけのお話が待っています。
まるごと一冊有川浩ここにあり!って感じでしたね。

個人的には現場のおっさんたち、
なかでも『おっさんの中のおっさん』こと作業長が抜きん出ていい味を出してます。

…もともと有川ファンの夫のためにと思って買った一冊だったけど、
結果的にわたしが先に読むことになってしまった。
何やってんだか、わたし。



散りしかたみに

2009-09-12 22:08:23 | 
近藤史恵氏です

公演中に毎回同じ場面になると花びらが一枚だけ降ってくる。
誰が何のために?
瀬川小菊は師匠の菊花から、友人の探偵、今泉を連れてくるように申し付けられる。

実はまたしても順番を違えて読んでしまっていて、
先に『桜姫』から手をつけてしまっている。
しかし既にもう『二人道成寺』を読んでしまっているから、
もうどうしようもない話ではある。

それはさておき、やっぱり今泉がなぁ…
理由も言わずに手をひくと言われても、小菊が引き下がれるわけがない。
全てを見通していながら、あまりにも持ったいつけてやいませんかい?
事情は(もちろん)後で明らかにはなりますけどね。
わかるんだけど、気持ちがスッキリしませんよ。

降るはずのない桜の花びらが一枚だけひらひらと舞う。
それはとても美しい場面なのだけど、
美しい分だけ悲しみを誘います。

IN

2009-09-11 23:27:33 | 
桐野夏生氏です

互いに家庭を持ちながら担当編集者と不倫の末、小説家のタマキは阿部と別れた。
現在は緑川未来男の私小説『無垢人』に出てくる愛人「○子」を主人公に、
恋愛における抹殺をテーマに書こうと、○子のモデルを探すことに。

そもそもわたしがなぜこんなにも活字中毒になったかというと、
『OUT』を読んだからです。
久しぶりに長編小説だったのに、どんどん引き込まれてしまいました。
もの凄い力を持った小説だったと、今でも鮮烈に思い出せます。

そして今回のタイトル。OUTの対極にあるもの。
別に設定事体も関連性があるわけではないのです。
おおざっぱな括りでいうと、女性が主人公ということぐらいです。
OUTは社会や日常から逸脱していく話でした。
ではINは、何に、どこに入っていくのでしょうか。
まだそこまでは掴めませんでしたが、タマキのイメージはそのまま桐野氏に繋がります。
作中、ある人からタマキが未亡人を題材にした小説について、感想を言われる場面があります。
これってどう見ても「魂萌え!』ですよね。
どこまでが実体験なんだろうと思いつつも、今回の緑川の作品のように、
小説はあくまでも虚構であり、必ずしも全ての事実を書いているわけではないのです。
そこが狙いなんでしょうか。
ただタマキの小説に対する姿勢は、やっぱり桐野氏と重なって見えました。

OUTのような大きな事件はないけれど、わたしはINも好きです。

六月の昼と夜のあわいに

2009-09-09 23:19:01 | 
恩田陸氏です

恋はみずいろ/唐草模様/Y字路の事件/約束の地/酒肆ローラレイ/窯変・田久保順子/夜を遡る/翳りゆく部屋/コンパートメントにて/Interchenge

現代絵画と短歌と短編小説を融合させるとこんな一冊になりました。
一つ一つの作品の前には必ず絵と俳句や短歌がある。
あんまり直接絡んではこない…ように思う。
いやひょっとしたら大いに関係があるのかもしれない。
あまりにも茫洋とした雰囲気の上澄みすら、わたしは掴みそこねた感じ。
そんでもって勢い余ってずっこけた。
作品自体は面白い。決して嫌いではない。
いつの間にかトワイライトゾーンに入り込んじゃったみたいで。
気づけばそれはもう不思議な世界の真ん中に佇んでいる。
そして作品が変われば、また違う世界へ放り込まれ、
繰り返しているうちに一冊読み終えてしまった。
全体的にどことなく古い映画のような空気が漂っている。
日本映画もあればヨーロッパのモノクロ映画のようでもあり、
やっぱり一言で言い表すのは難しい。

たとえば後書きがあればもうちょっと理解できたのかもしれないなぁ。

個人的に好きなのは「Y磁路の事件」
亡くなったおじいちゃんというのは、琴線に触れるキーワードのうちの1つなのだ(笑)