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活字ジャンキーぴーの365日読書デイズ。

八月の魔法使い

2010-09-28 17:12:11 | 
石持浅海氏です

印鑑を貰いにいった拓真が目にしたのは、「事故報告書」を提示されて顔色を変える総務部長の姿だった。
そして時を同じくしてプレゼンの資料の中に紛れ込んでいたのは、あってはならない「事故報告書」だった。
オペレーター役で会議室にいる恋人からの「SOS」の電話に、拓真は彼女を救おうとする。

会社が舞台なもので、しかもほぼ会議室と総務部だけで話が進んでいきますので、
前作のような国が絡んでの大きなテーマとはまるで違います。
が、この狭い世界ならではで展開される論理が見ものなんです。

問題の会議室には会社の経営陣が勢揃い。
お偉方が一同に会する席に平社員が乗り込んでいけるわけもなく、必然的に会議室の扉は閉ざされたまま。
総務部で立ちはだかるのは、かつて切れ者と噂されていた定年間際の係長。
それにしても割と普通のどこにでもいそうなサラリーマンの拓真が、こんなに頭が回るとは。
そんなに出来杉くんだとは思いませんでしたが(笑)
1つの仮説を立て、矛盾点が見つかれば下げて、また新たな仮説を立てる。
そこに「会社の倫理」を絡めて解決の路へ辿り着く。
この過程はなかなかの読み応えがありました。

この国。

2010-09-19 21:53:35 | 
石持浅海氏です

一党独裁国家である「この国」では処刑は公開制である。
今日は反政府組織のリーダーである菱田の処刑日だった。
治安警察の番匠少佐は菱田の仲間が彼を奪還するのではないかと警戒していた。

あくまでもどこか実在する国名を出さず、さりとて架空の国名も出さず、
最後まで「この国」は「この国」のまま話は終わる。
何しろ公開処刑にしろ、非公式とはいえ国営の売春宿があったり、なかなか際どい設定だ。
読み終えるとタイトルにもある「この国」という存在感が、不気味に増してくる。
経済は発展し、平和な世界に見える。
けれど小学校を卒業する段階で人生が決められてしまう窮屈な国でもある。
そんな訳でついつい反政府側に気持ちが加担しそうになりつつも、
番匠との頭脳戦はなかなか読み応えアリ。

ただ結局その後菱田自身は登場しないままだったのが、どうにも引っかかる。
お飾り的な存在だった訳でもあるまいに。

『撹乱者』の組織が政権奪取に成功したら、こんな世界が待っていたのだろうか。
もちろん別々の世界であることは承知の上だけど、
テロリストが奪った世界は、結局別のテロリストに狙われるだけなのかもしれない。

撹乱者

2010-09-16 22:27:20 | 
石持浅海氏です

普通の生活を送りながら、別の顔をもつ「久米」「宮古」「輪島」
彼らは政府転覆を目論むテロリストである。
彼らに下された指令は「組織が用意したレモンをスーパーのレモン売り場へ置いてくる」ことだった。

彼らは組織のトップが誰であるのかは知らない。
そして奇妙な指令がどんな効果をもたらすかも知らされない。
彼らと同じ組織に属しながらも、一緒に行動はしない「串本」が謎解き役になり、
実はこういう狙いだったのだと教えてくれる。
その一方で様々な指令を実行していくうちに、串本の「謎」の部分が存在感を示してくる。

テロという言葉からは、血なまぐささを連想するけれど、
この謎の組織は一見脈絡のない行動で国民を不安に陥れ、将来的には政権奪取を目論んでいる…という設定。
なんだか気の長い話だと思う。
実際にこんなテロ活動をしている組織はないと信じたい。
すぐには現れないにせよ、実際にこんなことが起こったら確かに、日常生活に支障を来すのだから。
なんともいや~な所を突いてきたなという戦法だ。

ラストに関しては、展開が急すぎるかなと思わないでもない。
そしてやっぱり彼らはテロリストなんだなと妙に納得させられた。



GOSICK3 青い薔薇の下で

2010-09-05 10:31:50 | 
桜庭一樹氏です

姉に頼まれて「青い薔薇」を買いに出た一弥は、奇妙な事件に巻き込まれてしまった。
しかし頼みの綱のヴィクトリカは風邪で寝込んでいる。

事件の謎解き自体には、自分の中ではそんなに重きをおいていなくて、
何よりもヴィクトリカ自身の謎に惹かれて、このシリーズを読んでいる気がする。
彼女の兄であるブロア警部がなぜあんな髪型をしているのか、
彼の部下がなぜいつも手を繋いでいるのか、その辺りの謎は明らかになります。

でも奇術師ブライアン・ロスコーが鍵を握っているはずなんだけど、
その辺りは依然として謎のまま。
しかもチェスドールとヴィクトリカに何か関係があるような…
いつも冒頭でビスクドールと例えられるヴィクトリカだけに、
何か因縁めいたものを感じてしまうのですが。

事件は無事に解決したのだけれど気になる点としては、
捕われた少女アナスタシアが無事に脱出できてしまう辺りが、ちょっとうまくいきすぎ。
こうしないと話が進まないのは、重々承知なんですがね。




薔薇を拒む

2010-09-01 20:46:12 | 
近藤史恵氏です

内気で口べたな博人は、施設の所長から3年間住み込みの仕事を紹介される。
同い年の樋野と共に働くことになったその場所とは、陸の孤島のような屋敷だったが、
生活に何ひとつ不自由はない。しかし二人が小夜に恋心を抱いたことがやがて悲劇を生む。

洋館で暮らす美しい少女。整った顔立ちの少年二人。何やら耽美な香りが漂ってきますね~~
「凍える島」と何となく似ている感じがするのは、
事件が終わった後に残るのがやるせない哀しみのせいでしょうか。
「凍える島」より主要人物が若いせいもあって、こちらの方がより漫画っぽい気もします。
携帯だとかデジカメだとか、現代には欠かせないアイテムが登場するのですが、
どことなく遠い昔に読んだ少女漫画の雰囲気を彷彿とさせます。

それにしても小夜は本当に樋野のことが好きだったんでしょうか。
演じることができる小夜が、今回だけ本気だったなんて信じられません。
現在もまだ演じているのだとしたら、こんなに怖いことはありません。
それでもなお博人が小夜を愛している、ということまで見抜いているのだとしたら、
こんなに残酷なことはありません。