ぴーちくぱーちく

活字ジャンキーぴーの365日読書デイズ。

妃は船を沈める

2008-10-31 00:57:08 | 
有栖川有栖氏です。

作家アリス編の中編2つに幕間を挿み、1つの長編としての仕上がりになっています。

「猿の左手」
願いを3つ叶えてくれるという猿の手。しかしそれには代償が伴う。
ジェイコブスの短編をモチーフにした作品となっており、
所謂ネタバレのため「あとがき」ではなく「はしがき」に注意書きがあります。
ちなみにわたしは小学校の頃に読みました。これは普通の(?)怪奇小説だと思っていたのですが、
なんと新解釈が!文章を読むということはこういうことなんだな。
表面だけを追っていてはダメだということですね。

「残酷な揺籠」
上記の作品に出てきた人物が再登場。
助教授ではなく、准教授と呼ばれることなった火村先生と対決です。
大掛かりなトリックではないのですが、
いつもながら非常に論理的に詰めていく過程がお見事です。
ラストも非常に叙情的。ある意味ドラマですね。
読み終えると、独立していたそれぞれの中編が幕間を挿んで見事に1つの長編になってました。
タイトルもこれ意外にピッタリはまるものはないでしょうね。
作品の雰囲気に見事に合っています。

本編とは全く関係のない、些細な疑問なのですが。
容疑者の一人が住んでいる自宅の最寄り駅はN駅じゃなくて、K駅なんじゃなかろうか。
彼女が住んでいるK市の町外れにあたる場所から徒歩10分だそうだ。
でもN駅はT市なんだよね。どう歩いても10分では辿り着けない。
K駅ならそれは可能だ。
なぜ引っかかるのかというと、地元なのであります(笑)
火村先生とアリスが落ち合った某銅像前は、わたしも利用しております。

きみが見つける物語 スクール編

2008-10-25 23:53:05 | 
タンポポのわたげみたいだね  豊島ミホ
心霊写真           はやみねかおる
三月の兎           加納朋子
このグラウンドで       あさのあつこ
大きな引出し         恩田 陸
空飛ぶ馬           北村 薫
沈黙             村上春樹

好きな作家さんが名を連ねていたので読んでみたら、
表紙に思いきり「十代のための新名作」と銘打ってありました…
シリーズものの一編も含まれますが、
単独でもそしてかつて十代だった人でも問題なく読めます。
気になったら読んでみてね~♪という出版社の目論みですね。
ですからわたしの好きな作家さんの作品は既に読んでおりました。
でもいいんです。「常野シリーズ」は恩田さんの作品の中でもかなり好きだから。
不思議な能力を持つ常野一族が色々登場しますが、
「大きな引出し」はあらゆる記憶を「しまう」少年の話。
いつ読んでも哀しさや優しさ、様々な感情が呼び起こされますね。

新鮮だったのは「沈黙」
たぶん、村上春樹氏を読んだのはこれが初めてかもしれません。
ボクシングをする者は喧嘩は御法度。
しかしその禁を一度だけ破った大沢さんの話。
人間の醜い部分がえぐり出された感じの内容で、
口の中に何やら苦いものが広がるようでした。
読み終えて「沈黙」というタイトルに、
また心に何かが沈んでいくような気がしました。



不連続の世界

2008-10-24 23:56:00 | 
恩田陸氏です。

木守男/悪魔を憐れむ歌/幻影キネマ/砂丘ピクニック/夜明けのガスパール

「月の裏側」に登場した音楽ディレクター塚崎多門を主人公にした連作短編集。
不思議でひやっとする怖さもあるトラベルミステリーです。

まず「月の裏側」がどういう話だったのか、思い出しながら読んでいました。
失踪する人が続き、ある日何事もなかったかのように失踪した人が戻ってくる。
…そんな内容だったかと思います。
でもまぁ今回の作品は、未読でも問題はないみたいです。
何しろ怪し気なわたしの記憶力でも、差し障りがなかったので(苦笑)

どの作品も「恩田陸」テイスト満載ですね。
「夜明けのガスパール」では友人4人で朝まで呑み明かす場面があります。
4人。そしてお酒。となるとあとは隠された真実が出てくるのがお約束♪
写真のくだりは乙一の作品でも似たようなモチーフがあったような気がします。
なので展開は読めてしまったのですが、多門のイメージと結びつきません。
「月の裏側」からブランクがあったとはいえ、
短編集の4作品でそれなりに思い出して作った多門という人物と、
真実を知ってしまった多門とがわたしの中で重なりませんでした。
どこか別人のようです。

「幻影キネマ」を読んでいると、学生時代に訪れた尾道へまた行きたくなりました。
もっと正確には尾道ラーメンの朱華園へ。



屍鬼

2008-10-23 18:51:00 | 
小野不由美氏です。

周囲から隔絶された外場村では、村人たちが次々に謎の死を遂げていた。
原因がわからないまま、死者は増え続ける。
伝染病か、それとも。

遂に読了しました。
上下巻。しかも二段組みで1000ページにも及ぶ超大作です。
登場人物が多く(100人以上)理解するまでに時間がかかってしまいました。
その為以前挫折した経験があるのですが、やはり読んでおくべき作品だと思い、再トライ。

一つ一つの点が結びつくまでもじっくり描かれていて、話の展開は実に緩やかです。
やけに葬式が続くという漠然とした感覚から村人がはっきりとした危機感を抱くまで、
緻密で丁寧な描写が続きます。
原因に気づく者、気づかずに犠牲になっていく者、気づくけれども犠牲になる者。
それぞれの立場で描かれますが、軸になるのは若御院こと僧侶の静信と幼馴染みで医師の尾崎です。
あちら側とこちら側という対立の構図がはっきりとしつつも、
二人の考え方は決定的に異なり徐々にずれが大きくなっていきます。
どちらが正しいのか問われると、自分が村人だったとしたらやはり尾崎を指示するでしょう。
あちら側に行ってしまった者を狩れるのかとなると、非常に難しいのですが。

この作品はホラーなのですが何が一番怖いかというと、やはり「人間」なのですね。
反逆にでた人間の方がまさしく鬼のようです。

訣別の森

2008-10-14 17:19:01 | 
末浦広海氏です。

ドクターヘリの機長である槙村は、
帰還する途中で墜落したヘリを発見し、怪我人を救出した。
重傷の女性パイロットは、槙村が自衛官時代の部下の武川だった。
しかし武川は病院から姿を消す。

江戸川乱歩賞受賞作ということで、読んでみました。
冒頭のドクターヘリの出動の場面からして、なかなかテンポの良い描写ですんなり入りこめました。
武川の登場と失踪の理由、槙村の過去、本編の合間に挟まれる若林の話。
これからどのように物語が展開され、どのように謎が明らかになり、
どのように関連性のないと思われるものたちが繋がっていくのか。
ここまで読んだのなら最後まで読まなくては、と思わせる展開です。
ドクターヘリ以外にも環境保護問題を取り上げていますし、
確かに面白い…のだけれど、動機に関しては若干首を傾げたくなりました。
なので、武川の失踪の理由がちょっと弱いかな。無理がある。
軒並み元自衛官たちの行動が短絡的すぎて、いただけません。

ところで槙村の愛犬カムイは北海道犬です。
(大ブレイク中の「お父さん」と同じ犬種です)
犬好きにはたまりません(笑)
どうやらモモの尻に敷かれることになりそうですね。

赤×ピンク

2008-10-10 22:37:38 | 
桜庭一樹氏です。

六本木の廃校になった小学校で毎夜行われる非合法のガールズファイト。
闘う理由をそれぞれ抱えて彼女達は今日も血を流す。

3人の少女が登場します。
少女というには19歳から21歳という年代なので、微妙かも。
まだ大人の女とは呼べなくて、すごく微妙な年代だ。

最初に登場するまゆは21歳。でも社長が作ったキャラは14歳。
躁鬱が激しくて、弱い。どこからどう見ても格闘技系ではないのに、
彼女の居場所は闘いの場である「檻」しかない。
読んでいて痛い。実際の闘いの場面ではなくて、檻に入っていない時の状態の方が痛々しい。
それでも彼女は突然檻から出て行く。鮮やかにというべきか、呆気なくというべきか。
まゆは弱いだけではなくて、強かな面も兼ね備えていたのかと軽く驚いた。
彼女のその後はミーコや皐月の話になっても、はっきりとわからないが、
はたして幸せになったのだろうか。そちらが気になってしまった。

でもまぁラノベだから、と侮って読んではいけない作品ではあると思う。

私の男

2008-10-09 22:47:02 | 
桜庭一樹氏です。

淳悟と花は暗くて黒い北の海から逃げてきた。
秘密を抱えたまま、互いに依存しあい絡まり合うように生きる二人。
彼らは「義父と娘」だった。

花の結婚から順に過去へさかのぼり、秘密のヴェールを一枚一枚剥がしていきます。
二人がなぜ北から逃げてきたのか。何が起こったのか。
この構成だと俄然気になっちゃうから、自然と物語に引き込まれていきますね。
罪の匂いがそこかしこからプンプンしますよ。
読む前からある程度の「情報」は事前に頭に入ってはいたものの、
わたしの予想など遙かに凌駕する作品でした。
好きか嫌いかというと、決して好きではないのですが、
でも引き込まれてしまう。読まずにはいられない。

二人の愛ははっきり言って歪んでいます。
世間一般的には間違った愛です。
しかし二人の間でだけ通じる価値観が存在していました。
他の誰かに理解されようなんて思っちゃいません。
その分だけ濃密に絡まりあっているようでした。

彼らは「腐野」(くさりの)という変わった名前ですが、
「鎖」で縛り合ってやがて「腐り」ゆくという二人の未来を暗示しているような気がします。



オレたち花のバブル組

2008-10-05 21:51:38 | 
池井戸潤氏です。

東京中央銀行営業第二部次長の半沢は、巨額損失を出した老舗ホテルの再建を押し付けられた。
しかも金融庁からの検査も入るという。相手はクセモノの黒崎だ。
一方同期の近藤は、資金繰りに苦しむタミヤ電気に出向していた。

タイトルの軽さから受けるイメージとは大きく異なり、しっかりとした金融業界の話でした。
とはいうものの、専門用語ズラリの堅苦しい感じもなく、非常に読みやすいです。
企業の腐敗(悪)に立ち向かうバブル入行組(善)という構図が単純なので、
感情移入もしやすいですし。
ちょっとほろ苦さもありますが、希望の残されたラストでした。

昨今、銀行の合併統合も珍しくなくなりましたが、
全てが東京中央銀行みたいな感じなのでしょうか。
やっぱりモデルになった実在する銀行があったりするのでしょうかね。
などと、またしても下世話なことを考えながら読んでいたわけです。
まあね、多かれ少なかれ派閥はあると思います。
だって元々はライバルだった銀行が、ある日を境に同じ行員として働くっていうの、
理解はできても気持ちが割り切れないっていうのがありそうなんですもん。