ぴーちくぱーちく

活字ジャンキーぴーの365日読書デイズ。

賢者の贈り物

2009-10-29 22:27:54 | 
石持浅海氏です

金の携帯 銀の携帯/ガラスの靴/最も大きな掌/可食性手紙/賢者の贈り物/玉手箱/泡となって消える前に/経文を書く/最後のひと目盛り/木に登る

お伽噺や寓話をモチーフにした連作短編集…といっていいのでしょうか。
必ず「磯風さん」という黒髪美人が登場するんですが、ある時は携帯ショップの店員、
またある時は小学生の息子を持つシングルマザー、またある時は…とそれぞれ年齢も職業も異なっています。
一つひとつの話も日常の謎を解いていくものですが、やっぱり磯風嬢の正体が気になって、
それどころじゃない(笑)この作品の最大の謎です。

今回の作品は人が死んだり血が流れたりしないので、非常に優しい仕上がりになってます。
そんな回りくどいこと、普通はしませんよね~とか、
ちょっと無理な展開も無きにしもあらずですが、そこはご愛嬌かもしれません。

個人的には「泡となって消える前に」が意外性もありつつ、
心がほんのり温かくなるので、一番好きです。
これは人魚姫がモチーフになってまして、
作中の「人魚姫」の純粋な想いが、言葉にしなくても伝わってきました。


蜜蜂のデザート

2009-10-24 22:26:51 | 
拓未司氏です

「ビストロ・コウタ」シリーズ第二弾。
コースの料理に比べて印象が薄いデザートを改善するため、試行錯誤を繰り返す幸太。
そして一人の女性の人生を狂わせた、人気パティスリーで起きた食中毒事件が、
思わぬ波紋を呼ぶ。

前作『禁断のパンダ』のその後にあたります。
当時、妻の綾香のお腹にいた息子の陽太は三歳になってます。
今回はパティスリーが事件の舞台になってますので、
スイーツについて詳しい描写があります。割と専門的。
そのせいか、食欲をそそられるというより、レシピを読んでいるみたいです。
色んな比喩を駆使して描写してありましたが、
その割にはケーキの甘い香りが、どうも伝わってきません。
卵を使わない「フュチュール」は、料理に携わった方ならではの描写だったと思いますが。

主役は幸太なの?青山なの?だった前作に比べて、
展開はスムーズになったように思います。
でもミステリなのに犯人がすぐにわかっちゃうのってどうなんでしょ。
なんといいますか、「ここはミスリードに導こうとしてるな」っていうのが
ありありと透けて見えてしまうんです。
何でそうなっちゃうかというと、設定に無理があるようです。
あとタイトルの「蜜蜂」に絡めるのも、ちょっと苦しいかな。
そして最初の食中毒事件を引き起こした理由というのが、
説得力に欠けます。
特に「ヌーヴェル」で起きた事件は、幸太が謎を解き明かしていましたが、
犯人とされる人物の人となりがわかるだけに理解に苦しみます。

でも「食」がいかに大事かというのは、ストレートに伝わってきました。

新参者

2009-10-23 23:11:29 | 
東野圭吾氏です

昔ながらの情緒が残る町、日本橋。
一人暮らしの40代の女性が絞殺死体で発見された。
彼女の身に何が起きたのかーーー日本橋署に着任したばかりの加賀恭一郎が謎を解く。

一つひとつの話が短編仕立てになっていて、実は長編という仕掛け。
読みやすくて面白くて、時間があれば絶対一気に読んでたというぐらい、
相変わらず吸引力が凄い。
『卒業』の頃は20代だった加賀も、今や30代となりました。
様々な事件を経て何だか今回の加賀は雰囲気が違う。
何よりも聞き込みをする時の服装が非常にラフ。
スーツのイメージが強い彼が、シャツを羽織ったカジュアルスタイルになっていたり。
手みやげもって聞き込みするなんて、それがあの加賀恭一郎だなんて。
なんだろう、随分柔らかい雰囲気になっているような…
でも変化の理由は後で明らかにされますけどね。
彼の先を見通す目は健在のようですよ。

一見、事件とは何の関係もなさそうな捜査が、時には縺れた糸を解きほぐし、
犯人へも着実に歩み寄っていく。
推理小説とすると地味な事件だと思います。
その分だけ「人間」がより浮き彫りになっていたのではないでしょうか。
どの話にも心に滲みる温かなエピソードが添えられていて、
氏の懐の広さを改めて思い知らされた次第です。

ドラマですっかりお馴染みになったガリレオの湯川より、
初期作品からの加賀の方になんだか親しみを感じてしまいます。
いつか加賀視点での作品も読んでみたい。


刻まれない明日

2009-10-22 23:32:28 | 
三崎亜記氏です

3095人が忽然と町から消えてから10年がたった。
消失した人々の息づかいは消滅した図書館の貸し出し記録や、
ラジオ局に届くリクエストから確かに感じられていたが、徐々に薄れ始めていた。

これもまた何の予備知識もなく読み始めたのですが、
これは…ひょっとして『失われた町』の続編ではありませんか?
登場人物はリンクしていないし、直接的に繋がっているわけではないんですけど。
あとリンクといえば「七階撤去」の話題が、ごくさらりと出てきましたね。
『廃墟建築士』に収録されている『七階闘争』のエピソードです。
てことは、あの世界とこの失われた町の世界とは繋がっているわけだ。
一連の三崎ワールドということですね。

大切な人を失って心に深い傷を負った人々が、
10年の時を経てそれぞれの新しい一歩を踏み出すまでが描かれてます。
静かな哀しみに満ちた話は必ず最後に温かな希望と優しさに包まれていて、
長い夜が明けていく様を見ているようでした。

お馴染みとなったこの不思議な世界を受け入れるかどうかで、
作品の評価が変わりそうですね。
わたしはというと、好きな雰囲気なんだけどちょっと食傷気味です。
そろそろ違う三崎亜記が見たい。


君の望む死に方

2009-10-21 22:58:11 | 
石持浅海氏です

余命六ヶ月と診断された日向は、
部下の梶間に完全犯罪で自分を殺させようと画策する。
しかし日向の目論みは、一人の女性の出現によって微妙に狂っていく。

まず日向の秘書の小峰が警察へ通報するところから物語は始まる。
会社の保養所で死んでいる人がいるーーー

ここで話は遡りまして、
日向がどのようにして自らを殺してもらう舞台作りをするのか、
丁寧に描かれています。
ミステリにしてはかなり珍しい設定と展開ですね。
梶間に殺されたいと思う日向と、日向を殺したい梶間。
いわば相思相愛なわけです(笑)
まず最初に死ぬことは決定していて、後はそこに至るまでという形式なので、
答えはわかっているのに、予定通りに進まずやきもきします。

なぜならある人物の登場で、日向と梶間の思い通りに話は進まなくなります。
今まで読んだあらゆる探偵役の中、わたしは「彼女」の思考回路が最も理解不能です。
前作の印象が強すぎたせいですね。
今回はまともなことを言っているのですが、
どうしても神経がざわざわするような違和感を覚えるのです。
ていうか、恐い。

殺人に至るまでがちょっと長過ぎる気がして、少々だれていたのは事実。
でも最後で冷水を浴びせられたような気がしました。
まさかこんな結末を迎えようとは。
そして一番最初の頁をよく、読み返しました。
やられた!!
着眼点も面白くて、よくできた作品だとは思いますが、
あらゆるところが受けつけないのが玉にキズかもしれません。









耳をふさいで夜を走る

2009-10-18 22:47:04 | 
石持浅海氏です

三人の女性を殺すことを決めた並木。
完全犯罪を目指すため「中期計画」で企てていたが、
予期せぬ事態を迎え、一晩で三人を殺さなくてはならなくなってしまった。

並木と彼女らの関係。彼女らを殺さなくてはならない理由。
それらは話が進むにつれてだんだん見えてきます。
彼女らは冤罪事件で父親を喪っており、並木らは被害者をケアする団体に所属している。
ではなぜ「被害者」である彼女たちを殺さないといけないのか。
彼女たちが「覚醒」させるわけにはいかないから、「覚醒」する前に殺してしまえ。
というある意味、乱暴な論理なのです。

「覚醒」という言葉に、どことなくSF的な匂いを感じたのですが、
またまた予測しない方向へ…
殺人が一つのテーマですしもちろんその描写も多いせいか、
あらゆる頁から鉄錆臭さが漂ってくるようで、ちょっと胸焼け。
しかも珍しく性描写も多くて、またしても胸焼け。
何といいますか、もうお腹いっぱい。

ただラストに向かって、見事に伏線も回収されてありましたし、
この設定と並木の思考回路に拒否反応を示したとしても、
鮮やかに翻る展開にはやはり拍手を送りたくなりました。


顔のない敵

2009-10-13 19:17:50 | 
石持浅海氏です

地雷原突破/利口な地雷/顔のない敵/トラバサミ/銃声でなく、音楽を/未来へ踏み出す足/暗い箱の中で

地雷をテーマにした連作短編6編と、
ラストにそれとは全く関係ありませんが処女作が含まれております。
知らずに読んでいたので、何でいきなりエレベーターの中!?
しかも地雷とは全く関係のないシチュエーションで殺人事件!?
しばらく混乱しました(苦笑)
なぜこんなことになっているのかは、あとがきでわかります。
さすが最初の作品とあって、ちょっと無理があるかなと思う箇所もありますが、
すでにこの時から論理的なミステリに仕上がっておりました。

さて対人地雷とミステリがどう絡むのか、ここが見所です。
そして地雷除去に様々な形で関わる人々が登場し、
地雷が抱える問題をそれぞれの作品で提示しています。
日本でも地雷を製造していたなんて、恥ずかしながら知りませんでした。
攻撃ではなく防御という捉え方が他の外国とは違うのですが、
それでも地雷を国が持っていたことに変わりはありません。

作品中、殺人事件はいくつか起こります。
ただ法の下で裁かれないまま終わってしまう事件があることに、
若干ですが釈然としないものを感じます。
それもまた地雷問題を解決するには綺麗ごとではすまされない、
というメッセージなのでしょうか。




嘘つき。 やさしい嘘十話

2009-10-10 20:31:20 | 
「嘘」をテーマにしたアンソロジーです

おはよう 西加奈子/この世のすべての不幸から 豊島ミホ/フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン 竹内真/木漏れ陽酒 光原百合/ダイヤモンドリリー 佐藤真由美/あの空の向こうに 三崎亜記/やさしい本音 中島たい子/象の回廊 中上紀/きっとね。 井上荒野/やさしいうそ 華恵

嘘には色々ありますが、今回は騙して陥れる為の嘘ではなくて、
相手を思いやるが故の嘘です。
ですので読んだ後は割と心が温かくなる話が多いですね。
もしくは非常に切なくなるか。
身近で大切な人の為の嘘だから、相手は親子だったり恋人だったりします。

この10の作品で一番印象に残ったのは、
対象がそのどちらでもなかった「あの空の向こうに」でしょうかね。
元々好きな作家さんなので、幾つかこれまでに読みましたが、
今回も深い哀しみに満ちてました。
この嘘も優しさと呼んでいいのでしょうか…
他の作品はさくさく読んでは次へ、という軽快なテンポだったんですけど、
しばらく立ち止まってしまいました。
確かに希望はありませんが、悲しくて打ちのめされる訳ではないんです。
ただ絶望的な世の中にあってもまだ、人を思いやる心はあるのだと思うと、
何ともいえない気持ちになります。



yomyom vol.12

2009-10-05 17:03:34 | 
十二国記の新作が掲載という情報を得て、買ってしまいました。

タイトルは『落照の獄』
舞台は国政が傾きつつある『柳』です。
前作が『慶』ではあるものの、陽子がほんの少ししか登場せず消化不良だったので、
『雁』とか!『戴』とか!!続きが気になっていたのですが…
そうですか、柳ですか…
と正直、最初はがっかりしてしまいました。
ただ、たしかに柳自体がまだ謎に包まれていますから、十二国記ファンとすればそれもまた良し。
でも王を主人公に持ってこないところが、なんといいますか読者に厳しいです。

内容は、狩獺という人を死刑にするか否かで、
法に携わる司刑の瑛庚がどのように決断するかという話です。
王は元々死刑には反対していたのですから、
王がそのまま死刑にはしないと宣言すれば話は早かったのです。
しかし王は決断を瑛庚らに委ねます。
手に負えないからという訳ではなく、
どうやらこんな重要な懸案すら王は最早国政に興味を失っているようで、
この辺りからも柳の傾いて行く様が見てとれます。

読んでいて重苦しいテーマですし、救いがあるかというとそうではないですし、
でもこれもまた『十二国記』なのだと思い知らされたのでした。
そして王に何が起こったのかは依然として謎のまま。
これも何かの布石なのでしょう。

人柱はミイラと出会う

2009-10-04 23:54:12 | 
石持浅海氏です

人柱はミイラと出会う/黒衣は議場から消える/お歯黒は独身に似合わない/厄年は怪我に注意/鷹は大空に舞う/ミョウガは心に効くクスリ/参勤交代は知事の務め

一木家にホームステイするリリーは、日本で博士号を取るために勉強しつつ、
日本独自の奇妙な風習を体験する。
その一つが「人柱」だった。

連作短編ミステリになってました。
初っぱなで疑問に思いながらも、3つめ辺りでやっと気づいたんですが(←遅すぎ)
リリーじゃなくともびっくりする風習です。
だって現実の日本には言葉は実在すれども、風習としては実在しないのですから。
一種のパラレルワールドみたいなものですね。
実際に厄年で一年休める制度があるなら、利用してみたいような。
でも休みボケした自分が社会復帰できるか、甚だ疑問ではあります。

連作短編としてはラストもアメリカの風習に絡めてあって、
綺麗にまとまっていたのではないかと思います。
やっぱり長編より短編の方が長けている気がするなあ。
ま、好みの問題ですかね。