(なんでこいつ……)
そんなに余裕そうな顔が出来る? そんな事を思ってる桶狭間忠国である。どんどんと腕の力が強くなってる。それなのに……首を締められてる当の本人は笑ってる。そんなことがあるか? はっきり言って本当に不気味だ。今こそ、本当に桶狭間忠国は恐怖を感じてる。
眼の前の存在がただの人間ではない……その事を桶狭間忠国は分かってる。けど、それ以上はわからない。眼の前の存在が一体何なのか……は謎だ。美女になりすましてるから「サキュバス」とかそういう類ではないか? と疑ってはいる。けど確証はなんてものはない。
(いや、それよりも……力を緩めないと……)
桶狭間忠国の腕は血管が浮かぶ上がるほどだった。それだけの力で細いこの女性の首を締め付けてる。このままじゃ本当にヤバい……と桶狭間忠国は思ってる。流石に殺す……ほどに力が入る……なんて思えない。この体が勝手に動くいてるのは、この眼の前の女性のせい……と桶狭間忠国は思ってる。
だからこそ、流石に本当に自身を殺すなんてことはない……と思ってるわけだ。
(本当にそうか?)
それは常識的な考えであって、そして人間の考えだ。桶狭間忠国は分かってる。この眼の前の女性がただの人間ではない……と。それなのに、人間の考えで物事を考えていいのか? 人間だったら、自身を殺す……なんて事は普通はしない。けど彼女は人間じゃない。どういう風に人間じゃないのか? それは桶狭間忠国にだってわかってない。もしも体を乗っ取る系の存在だったなら……
(体を乗り換えればいいだけならば……)
この女性の体を簡単に手放すことが出来るかもしれない。この人自身が人間以外のナニカ……なのなら、そんな簡単に肉体を殺すような事はしないはずだ。けどもしも先の考えのとおりなら、案外簡単に死を選ぶかもしれない。
(くっ……)
なんとか体の制御を取り戻そうと意識を集中する。いや、もしかしたら抵抗はしてるのかもしれない。だからこそ、体の一部だけなのかもしれないと桶狭間忠国は考える。
本当なら完全に操られてもおかしくないのに、桶狭間忠国はちゃんと意識を保ってる。これ事態が桶狭間忠国は神の介入の為……と思ってるが、これ以上となると、自分の力でどうにかしないといけない……ということだろう。
「あぁ……魂がより深く沈んでいくのがわかる……」
そんな風に苦しそうに目の前の女性がいう。苦しいはずなのに、苦しげな声なのに、その表情は何故か恍惚としてる。言ってることは意味不明。けど予想は出来る。桶狭間忠国は「やっぱりこいつは憑依型……」――とか思った。そしてそんな事を思ってる桶狭間忠国にはその変化が顕著に見える。
眼の前の女性の頭から、二本の曲がった角が生えてくるそのさまが……