「まちなさい小頭! どこに行こうとしてるの!?」
「だって……」
「だめよ。今は外に出ちゃだめ。危ないの!」
そんな風に一つの民家で親子のやり取りがあった。それをやってるのは野々野小頭……足軽の妹である。そして二人の兄弟の母親が彼女を止めてる。
それはそうだろう。いまやテレビのニュースもそうだし、ネット上のニュースもその話題でもちきりである。しかもそれが自分たちが住んでる街で起きてるのだ。
外出を許すわけがない。これがまだ日本の中でも遠く離れた場所なら、関係ない……とか思えるだろう。九州の人が北海道で起こった事件を他人事だと思うように。遠く離れてたら、自分のことに思える人のほうが少ない。
自分には関係ない……そう思うのが普通だろう。けど今回はそんな遠くじゃない。むしろ目と鼻の先である。なんなら、玄関を一歩出るとすでにおかしくなった人が居てもおかしくなんてない。
そんなのは野々野小頭だって分かってる。母親の心配してくれる気持ちだってありがたいって思ってる。でも見てしまったんだ。友達があの場にいるところを。
(あのバカ!)
とか思った。実際この事件が草陰草案の耳に届いたら彼女はすぐに現場に行こうとするだろうということは簡単に想像がついた。だってじっと知てられないやつだ。それを小頭は知ってる。
別に救助活動とかを率先してやったりするやつか? というとそうじゃない。募金とかにもけちくさいやつだ。流石に今のようになってからはコンビニのレジにある募金箱に財布の中身を全部ぶちまける……とかそんな事をするようになった。
あれはあれでなかなかに嫌味だと思う野々野小頭である。だってアレは別に草陰草案は本当に募金のお金を待ち望んでる貧しい人たちを思ってるわけじゃないのだ。
自分は財布の中身を全部あげるくらいに慈悲深いですよ――という草陰草案の聖女アピールなのだ。前の草陰草案を知ってる野々野小頭からすれば「はあ!?」である。
あんた前は10円だって入れたくなさそうだったじゃん……である。けど今や有り余る程に金を得てる草陰草案である。しかも殆どは電子決済だし、むしろ財布の金は見せびらかすために常に数万を入れてるくらいである。
だから草陰草案にとってはそんな金を募金しても痛くも痒くもない。そんな計算に満ちた聖女(笑い)の草陰草案だが、そのムーブには余念がない。
きっと褒められたり、崇められたりすることに一種の快感を覚えてるのだろうと野々野小頭は思ってる。だからこんな自体はむしろあの草陰草案は――
「きたああああああああ!!」
――とか思って飛び出していくと思ってたんだ。そしてそれはその通りになってた。