野々野足軽はきらめく風についていく。どのくらいたっただろうか? ふと、風の子にこんなことを言われた。
『なんか君遅いね』
って。それには流石に「ガーン」って感じでショックを受けた野々野足軽だ。なにせ、なにせそんなのは知ってる。野々野足軽だってこれには満足なんてしてない。だって野々野足軽が想像してた『空を飛ぶ』という行為は、漫画とかで見てたギュイイイン――って奴である。ああいう感じ。もっとすいすい、それこそ鳥とか……いや鳥よりもさらに正確に飛べる、それこそ蜂? とかか? それかトンボとかでもいい。ああいう虫って空中で止まることもできるし、急旋回とかも自由自在で、さらには速い。
実際これまで野々野足軽が見てきた漫画のキャラはそんな昆虫を参考にしてたのかは正直わかんない。でも考えてみると、まさに自由自在に空を飛ぶって行いは、鳥よりもそっち系なんだと思ってる。
だって鳥は空中で止まる事は基本出来ないだろう。旋回するのだって、やっぱり大回りしてるように見えるし……そうなると理想はやっぱり虫のように飛ぶこと……
(そういうとなんか格好悪いんだが)
鳥のように飛ぶ!! というのと、虫のように飛ぶ!! ってどう考えても前者の方が格好いい。きっと百人中九十人くらいは同じ感想になるんじゃないか? と野々野足軽は思ってる。
野々野足軽は体を浮かす事が、力の原点だった。ある日、何の前触れもなく野々野足軽の体が浮いた。それによって世界は変わったんだ。だから野々野足軽の飛ぶという行為は、浮くことになってる。つまりは今も浮いてるのだ。飛んでるんじゃない。
ただ最初は直上に浮くことしかできなかったが、色々とやるうちに全方位に体を自由に移動させることが出来るようになった。そうなると『飛ぶ』といってもいいかな? とか野々野足軽は思ってたけど、どうやら風の子に言われて自覚した。
いや、わかってたけど、他人に指摘されることで「あ、やっぱりこれ違うんだ」って受け入れることが出来た――と言った方が正しい。そうこれは「浮いてる」んであって、「飛んでる」んではない。
それがずっと歯がゆかった。だからこそ、心の叫びが野々野足軽から出てきた。
「ならどうやったら飛べるのか教えろよおおおおおおお!!」
――ってね。大丈夫、ここは空だから、周囲には誰もいない。