小説 ONE-COIN

たった一度、過去へ電話をかけることが出来たなら、あなたは、誰にかけますか?

十二月の出来事 4

2005年05月28日 | FILM 十十一十二月
曇りのち雨【十二の四】→→→数秒の間が待ち遠しくいったい何が起こったのかと、心臓の運動が激しくなる。どうしたのか、問いかけてみたが返事はなく、聞こえるの雑踏の音のみ。もう一度問いかけようと言葉を吐き出そうとしたとき、優希がようやく口を開いた。

「歩道橋の上にキックがいる」

 電車がホームに滑り込んだらしく時間がないのか早口で告げる。駅のホームを思い浮かべる。あそこから見える歩道橋は一つしかない。ならそこにキックがいるというのか。

「え・・・何してるの?キック」

 キックは、駅へ駆けつけようとしたが、間に合わないと思い、ホームが見える歩道橋から見送ろうとでもしているのだろうか。それとも、優希に聞かされる前に、優希が帰る事を知っていてこっそりと見送りに来たのか。青春ドラマのように、何かを叫んだりするだろうか。キックなら人目を気にせずにやりかねない。それにしても、なぜキックは、歩道橋にいるのだろうと、つかの間に巡らせてみたが検討をつけることが出来ない。

「背筋をピンと伸ばして、バタバタ腕を振ってる」

 目の辺りにしている優希もキックが何を考えているのか判らない様子で実況をする。

「腕・・・。それって、手旗信号?」

 バタバタと腕を振っている言う優希の声に、頭の中である光景が思い描かれる。先月、橋の上で配達カーをみつけたときのキックの姿。あのときと同じメッセージを送り続けているのか。いくらなんでも、そんな馬鹿なことはないだろう。けれど、中村が言うとおり私達は、その部類に入るらしいので、一概にないとは言い切れない。あれから一ヶ月も経っているのだから、もう少しマシな一つや二つのメッセージは憶えているだろう。

「なんで?なんでキックは、手旗信号をやっているの?あれ、私に送っているのかな?」

 優希は、キックの手旗信号を初めてみたせいで、自らに送られていることを上手く飲み込めないようだ。私はそんな優希に、それは間違いなく優希に送られているメッセージだと言う。

「歩道橋の上、人だかりが出来始めてる。携帯で写真取られているっぽいよ。それにしても、理解不能・・・熱いメッセージが伝わってこないけれど、必死感は伝わる、でも、なぜに手旗信号?」

 そりゃーそうだろう。手旗信号を目の前で見た事がある人なんて多くないはずで、ましてや駅へ続く歩道橋の上で真剣に誰かにメッセージを送ろうって人間は、万に一人ぐらいではないだろうか。歩く人も、危険を感じなければ足を停めるだろうし、何かの撮影かと勘違いしている人がいれば、携帯で写真をとる人だっているかもしれない。優希は、おそらく熱いメッセージを送られているはずなのだが、本人は、時間が経つほど冷静さを取り戻していき、呆れた声に変わっていく。今まで培われた対処方法だ。
メッセージを言葉に変換出来れば、熱く込上げる何かがあるだろうけれど、優希は、それを読み取るすべを知らない。

「たぶん、いざって時が来たんだよ」

 優希の問いに、答えになっていないだろうが、これしか思い浮かばなかった。キックが手旗信号でメッセージを送るのは、いざという時なのだ、今回はそれに当てはまるのだろう、もちろんキックにとってはだが。優希が、どこまでキックの思いや行動を理解したのかはわからない、いや、一割も理解していないだろう、私だって判らないのだから。けれど、優希は、それを楽しむように嬉しそうな声で、そうだねといい、その向こうから列車のドアが閉まるときに鳴る空気圧の音が聞こえると電話は切れ、ツーツーと電子音が鳴り続けた。
 キックが、優希に何を伝えようとしたのかは、おおい気になるがこれから先、自ら聞くことはないだろう。それは、私に送られたものではなく優希へのもので、私が知る必要なんて微塵もないのだ。

 一筋の太陽光も通さない曇った空の向こうで、再び罅割れた光が走り遅れて鈍い音が空気を振動させていく。少し近くなっているかもしれない。それが合図だったのか、ぽつぽつと芝生が音をあげ透明の欠片が弾け、服に当たった粒は生地の色をかえ滲ませる。大粒の雨が落ち、風に色濃く雨の匂いが混じると数秒後には激しく落ち始め、辺り一面一斉に色を変え、青いベンチも紺色に変わり流れる雨が滴り落ちる。飛沫を高く上げるほどの激しい雨が降り、歩道を歩く人々は、駆け出していく。
 肌に当たる雨は、冷たくて痛いのか大粒で痛いのかは判断できず、されど、凍るような冷たさは変わらず、なら避けるように屋根のある場所へ駆け出せばよいのだが、そんな気持ちは微塵もなく、私にはその中で立っていることしか出来なかった。服は、乾いているところがないほど濡れていて雑巾のように絞れば足元に大きな水溜りが出来るほど雨を吸い込んでいる、大粒の雨は、頭からシャワーを浴び続けているのと変わらず、成すすべをなくし、忘年会の時のガラスに触れた冷たさを思い起こしていく。数時間の間に起きた出来事を考えれば、これくらいの冷却をした方がよいのかもしれない。

 持ったままになっていた紙飛行機がぐっしょりと濡れている。もう、飛ばないだろう。この紙をどうするべきか。広げて鶴にでもするべきか、いや、そんなものをあの嘘つきに作ってあげる筋合いなどない。でも、捨てるのも心が引ける。座り込み体を丸め、上半身で僅かな雨避けを作り、膝の上で折り紙を折り始める。強くひっぱると切れてしまい、ぐったりとうな垂れたものしか出来なかったが、とがって飛び出た両端を組む。
 折られた紙の端を両手でそっと持ち、駅があるだろう方向へ向け目の前に翳し、ある瞬間を待つ。
 グレーの空が光った瞬間、紙を開くように真ん中を前へ押し出すと、組んだ紙が解け開かれた。ゴロゴロと空気を振動し音が続く。

 ファインダーの中に見たのは、キックの手旗信号と、最後にそうだねと言ったときにしただろう優希の笑顔だった。

「くわあ、さむ!!」

 ぶるっと全身が震え鳥肌が模様のように浮き立ち、髪から滴り落ちる雨が、頬を伝うと冷たく傷みさえ感じる。体は見る見るうちに体温を奪われその証拠に、白い湯気が上がっている。ようやく屋根のある場所へ向かおうと溜まった雨を踏み潰すように振り向くと、雨が踊るように弾かれる赤い傘を差し白いタオルを抱えた中村が滝のように降りしきる雨の中にたっていた。傘に弾かれる白い飛沫が、バチバチと音をあげ飛び散っている。中村の足元は濡れている。
 また、馬鹿と言われるに違いない。そういえば、キックはどうしただろうか。街を包み込んだ大雨にずぶ濡れになっているのではないかとふと頭を掠めた。
 大きなくしゃみが一つ二つと続き、キックの事も吹き飛んでしまった。服から雫がどさっと音を上げ落ちる。光のないグレーの雲が唸る空に、今まで一番大きな閃光が描かれた。薄暗い世界が本当にフラッシュでもたかれたように光が放たれ影が浮き上がったかと思うと、空が割れ地球まで割れてしまいそうな馬鹿でかい音が轟いた。病棟のガラスが、ギシギシと振動している。肩を竦め頭を抱えようとしたとき、視界に入ったのはくるっと踵を返し傘から落ちる雨を振りまきながらひき帰す中村の背中だった。

「せめて、タオルだけでも渡してくれればいいのに・・・」

 中村よ、おまえはそういうやつだったのか。びくびくしながら、出来るだけ低い姿勢でぬかるんだ芝生の上を足早に中村の背中を追う。一人分突き出した屋根ではこの豪雨を遮る事は出来ず、中村は傘を差したままで私を待っている。花壇を飛び越えそのまま屋根の下に入り込む。僅かに乾いている足元コンクリは、私から落ちる雫ですぐに水溜りを作った。風向きが変わるたびに雨が顔まで吹きかける。中村は、持っていたタオルを渡し、受け取った私はとりあえず頭から顔にかけて拭く。

「ところで、明日の温泉どうする?」

 白い息を吐く中村。予想もしていなかった言葉に私は拭く手を止めボサボサの髪の間から顔を出す。

「へ?」

 気の抜けすぎたまぬけな声が漏れたのは、明日の温泉の事を忘れていたのもあったが、それだけではなかった。なぜ、中村が温泉の話を知っているのか、優希が言ったとしても、この言い方だとどうも不自然である。そんな疑問が中村が答えを出す。

「三人で行くはずだったのに」

 私のまぬけ顔を確認しても関係ないとでも言うように中村は、残念そうな顔をしている。どうなっているのだろうと、考えてみる。もちろん、二人分の予約しか取っていなかったことを優希は知っているわけで、それを優希は三人で温泉に行こうと誘っているということは、覆る事のない確信的な犯行だ。中村は、まだ気づいていないが優希に騙されていたのだ。明日温泉に浸かりながら、のんびりと手の込んだ裏切り話のタネにしてやろう。

「もちろん行くさ、おもいっきり浸かってやる」

 手に持ったままだった濡れた折り紙を見た中村が、それは何かと聞き、私はだらりとうな垂れるカメラを模った折り紙を見せる。無理矢理、折り紙の端を接合し中村に向けシャッターを切って見せようとしたとき、再び空を引き裂くような稲妻が走りフラッシュがたかれ、窓が軋み空気が振動し腹を突き上げるような低い音が轟に響き渡る。二人は、肩を竦め短く声を上げた。

 キックは、雷に打たれていなければよいなとふと思う。優希が乗った電車は停まって立ち往生しているかもしれない。明日は晴れればよいなと唸る空を見上げてから、中村が差す傘の淵からポトポトと落ちる雫が私の右足を濡らし続けている事に気づいた。


thank you
終わり・・・


 エピローグ

 初夏な日。遠くの山を覆い被すような入道雲が空へと発達を続けて、中央高速道路のサービスエリアから見渡す景色は、まさに夏を現し高い山々と共に絵葉書に納まりそうな絶景だった。
 その景色に目を奪われた人は、車からカメラを取り出しその景色をカメラに納めている。もちろん、携帯を翳しシャッターを切る人もいる。私も、その人たちの仲間入りをしたいのは山々だったのだけれど、生憎カメラも持ってなければ、携帯にもカメラが付いてない。したがって、絶景を前に店で買った高原ソフトクリームを舐めながら、歩道に刺さる車止めの円柱に腰掛け眺めている。老若男女、その景色に何かしら心を惹かれているらしくそれぞれ、満足しながら立ち代り入れ替わりやってくる。カメラに納めていく人は、あの景色をこれから先どうしようとしているのだろうか。この景色をバックに誰かを撮るなら、それはその人の為でもあり分かれないでもないが、景色だけを収めていく人は携帯の壁紙にしてみたり、大きく引き伸ばして部屋に飾ってみたり、そんな感じだろうか。もしくは、撮ることに満足していて、あとは多少の話の種にしてしまうという具合だろうか。どちらにしても、カメラに収めるのも、私が濃厚なソフトクリームを舐めながらジワジワと記憶に焼付けていくのも、さほど作業は違わないのではないだろうか。

 けれど今はそうかもしれないが、これから十年、二十年、三十年先、私はこの景色を思い出せるだろうか、そう考えると自信がない。ところがカメラに収めた人は、この写真さえ保管することが出来れば、三十年後にひょっこりと箪笥の引き出しから出てきて、手に取り、この景色はきれいだななんていいながら、これはどこで撮ったのだろうかなんて考えて、もしかするとシャッターを切ったときを思い出すことが出来るかもしれない。となれば、それは確率の問題だ。私が、この景色を何かの拍子で思い出す確率と、この写真をみて記憶の引き出しが開き思い出す確率は、それほど変わらないはずなのだ。   

 それならば、何十年先、今広がる景色を収めた写真が手元にあろうが、今広がる景色を思い出すことができなければ、なんら意味が無いのではないか。それは、私が、思い出せないのと同じ事なのだ。順調に舐め続けたソフトクリームは、コーンの中に納まりつつある。これからは、様子見で、コーンと共に食べていくことにする。

 試しに一年前の夏は何をしていたか、思い出してみる。

 酷い揺れの中、突き進んだゴルフを思い出す。今のところ、記憶は鮮明で、私の中にあるカメラが、数え切れないほどのシャッターを切り続け、その音は鼓動ともに胸に響き、フィルムに焼き付いていたようだ。連想する様に去年の暮れを思い出す。中村へ向けた雨に濡れた折り紙のカメラ。シャッターを切ったとき、とんでもない閃光のフラッシュがたかれ、私の中の記憶というフィルムに焼きついた。

 いつかは、写真のように色あせていくだろう。写真を手にしても思い出せないなら、ないほうがマシではないだろうか。
 ソフトクリームより白い入道雲は、最高頂まで伸びてしまい行き場を失い、今度は斜めに傾きはじめ、随分とかっこ悪い形になり始めている。
 目の前を高そうな一眼レフカメラを提げた人が、残念そうに戻っていく。コーンの中のクリームは溶けてしまい液体のようになっている。溢れ出ないようにコーンをざくざくと齧っていく。
 カメラを否定していながらも、本当は少しだけ後悔している。実は、私達はここ数年の間、たった一度もカメラを持たなかった。山ほどいろんなことがあったというに、たった一枚すら納める事がなく、一枚くらいあっても良かったのではないかと考える。なぜ、シャッターを切らなかったのだろう。
たぶん、それは、三人とも、うっかり忘れていたからに違いない。それ以外の理由は思いつかない。カラーコーンを縮小した程度のコーンになり、最後は一口で口の中へ放り込んだ。コーンが崩れ中から、冷たくて甘いクリームが広がり口から飛び出さないように注意をした。

 中央道をおり、一般道をひた走り、高い建物がなくなり、一番高いものといえば、火の用心とかかれる鉄骨で組上げられた矢倉のようなものだった。地図を確認するために、路肩に車を停めても誰の迷惑にならない程の交通量で、のんびり地図を広げる。目印なんてものは、ほとんどなく、見渡す限り青々とした田んぼが広がる。なんとなく、そんな景色に魅せられ、冷房を切り窓を開ける。夏の暑さは変わりなかったけれど、田んぼを駆け抜ける風が水と稲の匂いを載せながら車内を通り過ぎていく。細かく書かれた地図も目印がなければその精密さは発揮することがなく、単純な地図と変わりない。交差点の数とそこから三本目の道を左と覚え、誰もこない車道へウインカーも出さずに走る出す。
 心地よい風が頬にあたり、ドアに腕を乗せ気持ちよく走り続ける。左へ曲がり、あとはずっと直進のはずで、相変わらず田んぼに挟まれた道をゆっくりと進む。田んぼの真ん中に数本の高い木で囲まれた一軒家が見え始め、次第に近づいていく。表札を確認しようと探してみたけれど、見当たらずそのまま敷地に車で入っていく。中は、納屋があり、その前は砂利でひき詰められ広く車は一台も停められていない。適当な場所に車をとめ、庭の向こうにある平屋を見る。誰かいるだろうかと、窓を開けたまま外へ出た。

「あら、のりこさんかい?」

 振り向くと、手ぬぐいを被ったお祖母さんが、農作業姿でたっていて、両手には、鍬と大根を持っている。前に病院であったときとは、随分と印象が違う。あのときよりも、もっと田舎らしい温かみを増しているように思えた。この景色のせいだろうか。

 土間を上がり、家の中はひんやりとしていた。クーラーがはいっているわけでもなく、家の作りがそうさせているのだろう。お祖母さんに、先に上がって待っていてくださいと言われたままに上がっていた。とにかく、静かで今聞こえる音といえば、お祖母さんが外で使っているだろう水が流れる音と、私が歩く音だけだ。
 廊下から、開けっ放しの畳がひかれる居間に入ると、大きな仏壇が一番初めに目に飛び込んだ。いくつかの写真が並べられ、小さな器に入ったご飯が置かれ、仏壇の花には似合わないひまわりが飾られている。自然と足がそっちへ向き、埃ひとつない仏壇を前に座った。
 後ろを振り返る、静まり返っているだけでお祖母さんは家の中に入ってきていないようだ。体を戻し仏壇に置かれているマッチをとり、一本出し箱の側面にこするとシュッと音を上げながら炎が揺れ、蝋燭の芯に添える。燃え続け短くなったマッチを三回振り消し利用済みマッチ棒入れの小さな穴に落とす。線香を二本とりオレンジ色の光が灯り小さく落ち着くとゆらゆらと一本の白い煙が昇り、柔らかい灰の中に差し込んだ。
 チンと音を鳴らし反響する部屋の中で手を合わせる。
 廊下を伝わり土間の方から、引き戸が開けられる音がし、廊下の板が軋む音が近づく、やがて足音が消え背中に人の気配を感じる。合わせた手を外し、顔をあげ後ろを振りぬく。

「うわっ・・・その麦わら帽子」

 驚いて後ろに仰け反ってしまい正座をしていた足の一方が崩れお尻が畳に付くと体のバランスが崩れた。突然現れた優希になら、これほどまでに驚かないのだが、問題なのはその格好だ。麦藁帽子を被り顎の下に白い紐が垂れている。ここでは麦藁帽子が流行っているのか、それとも、開放感から、夏だからという理由で被っているのか、目の前にいる優希は、白い肌が少し焼けているように見える。

「あの手旗信号、麦わら送る、だったらしいよ」
 
 優希は、麦藁帽子に止まったままの視線に気づき、帽子の鍔を指で示しながら笑った。手旗信号、麦藁帽子、二つの単語が頭の中で結びつくと、大きく頷いて見せる。以前、ゴルフの洗車をしたときキックが被っていた麦藁帽子、なぜ、キックは優希に贈ろうと思ったのだろうか、そして、歩道橋の上で、なぜに、このメッセージを熱く送り続けていたのだろうか。半年以上経ち、メッセージは解読された今であるけれど、再び疑問が現れ結局補い続けているようだ。

「ちょっと、この葉書」

 優希は、居間の棚にたち、何かを持ち私に差し出す。それは葉書で、宛名に、優希の名前が書かれ、その横に小さく私の名前が書かれている。だからといって私の家に届く事も無く書かれている優希の現住所に届けられているわけだが。その理不尽な葉書を受け取りヒックリ返すとそれは写真だった。どうやら写真に住所と名前を書いて送ったらしい。そこに写っていたのは、白い歯をくっきりと見せた満面の笑みのキックと、なぜかその横で微笑む降谷。これはいったいどういった事で、何が起こってこの組み合わせが写真に納まったのだろうか。想像を絶する展開に言葉を失った。凍りついた私を見ている優希が、腹を抱えて馬鹿笑いを始める。

「どうなってんのよおおお」

 畳の上で、叫ぶ私をみた優希のお祖母ちゃんは驚いてお盆の上に乗せていた三角に切られたすいかを畳みの上に落とし、三角の先の部分が、ぱかりと割れた。

 二人の後ろに、幌がついたジープが写っている。これは、今のキックの愛車だ。それにしても、またひとつ疑問なのだが、このジープも見たからにおんぼろで、それどころか、今度はドアまで吹き飛びそうな車だった。


ー完ー

これにて、フィルムは完結になります。
お読み頂きました皆様方、ありがとうございました。
  

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