小説 ONE-COIN

たった一度、過去へ電話をかけることが出来たなら、あなたは、誰にかけますか?

十一月の出来事 3

2005年05月11日 | FILM 十十一十二月
みえないもの【十一の三】→→→ 連なる山の中を一本の有料道路が引かれそこを延々まっすぐに突っ走ると眼下に広がるのは、散りばめられた灯りと、無数の光が集合する街が一際煌びやかに見える。そのほぼ中心には、ビルや住宅などの光とは比べ物にならない程の多色のネオンや真直ぐと空へと伸びるライトが、ぐるぐると旋回しどこよりも光を放ち続けている。中には、器用に動き回っているものもあり、きっと何かのアトラクションだろう。次第に車は、その光の中へ飲み込まれていき闇は、随分と高いところに離れていってしまったように思えた。
 車を止め外へでると、目の前に無数の柱が器用に組まれ首が痛くなりそうなほど高い所からジェットコースターが振動と悲鳴をあげ風の如く走り抜けていく。しばらく、その姿を目上げていたが、乗っているわけでもないのに、なぜか立ちくらみがした。優希は、ちらちらとコースターをみながら、首に暖かそうなマフラーをし、こまめに防寒対策をとり、目を輝かせている。
 吐く息が、白く色を付けている。風も冷たく耳が少しだけ痛みを感じる。まだ十一月の下旬だというのに、ここは一足早く冬に包まれているように思える。でも、真冬になれば辺り一面は、数十センチの雪に覆われてしまうのだろうから、地元の人たちは、私が感じているほど冬とは思っていないのかもしれない。
 ジェットコースターの下を潜るように入場する。周りは、色鮮やかな電球で飾られていて、正面の入場口には、団体客が写真を取る為の記念撮影用に並べられた長いすが並び、誰かを待っているのかぐったりとしていくつものビニール袋を抱えた客が端に座っている。私達は、その反対側のチケット販売口へ向かい引換券を差し出しチケットを受け取り腕に付ける。
 入口を抜け、どちらかというと地味な通路を歩く、両サイドには壁があり連なる蛍光灯と遊園地やアトラクションを告知するポスターがびっしりと貼られている。音楽も何も流れてなく足音と話し声だけが聞こえ、帰るものは、この歩道で現実の世界に戻され、行くものは、現実の世界からどこかの世界に迷いこんでしまったのではないかと思わせる。何人かの帰り客とすれ違ったが、誰も私達の方を振り向かずにひたすら出口へ向かっていた。
 両側の壁が途切れ木々に覆われた歩道へと変わり道の先からは、真っ白な光とアトラクションの音とざわめきと篭ったBGMが聞こえ始め、心臓が、そのリズムを楽しむように早く刻んでいく。三人は、正面広場に足を踏み入れた途端ぱたりと止まり、びっくりするほど高い木を見上げていた。

「デカクナイ?」

 なぜ、こんなにデカイ木がここにあるのだろうと考えながらも、括りつけられた飾りをみてクリスマスのイベントなのだろうと納得した。あまりにも大きすぎてどのくらいの高さなのか検討が付かない。とにかく、小さいビルよりも高い。

「もみの木?星あるし」

 優希の言葉に、一番上の部分を見ると黄色の星型の電飾が煌々と光を放っている。飛行機が着陸出来るのではないだろうか。

「こんなのどこに生えてるんだろう」

 下の方は、ラジオ体操第一で行われる手を左右にブラブラとするみたいに、風が吹くとゆっさゆっさと様々な形の装飾品と共に揺れている。作られた小さな丘に埋められている根はしっかりと大きな幹と葉と装飾品を支えているようだ。しかしながら、こんなに大きなもみの木が日本のどこからか運んできたものなら、なんというか、そのままにしてあげればよかったのにとふと思う。こんなうるさい所に埋め立てられ、訳のわからないものを付けられ、オチオチ光合成もしていられないのではないだろうか。これでは、ほくろの上に生えてしまった毛のようではないか。

「・・・キック、生えるって、たとえがおかしいよ。へんなこと想像しちゃったじゃん」
「はい?ただの素朴な疑問を勝手に想像するのが悪い」
「ところで、何を想像していたのさあ」

 優希が私の顔を覗きこんでいるが、なんだかほくろの上に生えた毛を想像したと言うのが無償に恥ずかしく言葉に詰まると、顔が赤くなっていくのが自分でわかり視線を逸らし、前へ進み、再び首が痛くなるほど、もみの木を見上げる。後ろで優希とキックが、赤くなっているよとあれこれ言いながらちゃかしている。もみの木の下から照らしているライトの横にスピーカーが付いていて、そこから真っ赤な鼻のトナカイが流れ始める。
 私の今の顔は、暗い夜道で隠すことは出来るが、ぴかぴかに照らす事は出来ない。したがって、役にたたないだろう。風に吹かれた金色の鈴が、カサカサと揺れている。
 ツリーの向こう側には、真っ白なスケートリンクに煌々と照明が当てられ白く輝いている。

 アトラクションの配置が印刷された看板の前で何に乗るのか検討する。後ろでは、色とりどりのコーヒーカップがぐるぐると回っている。

「夜も更けてきたしお化け屋敷にいこ」

 私は、お化け屋敷が大好きで、とくにここのは面白いと評判をよく耳にしており、一番に提案してみる。ただ、二人は、こういったもの全般が大嫌いである。後ろのコーヒーカップが回転を弛め音楽が止まりブザーが響く。楽しんだ乗客が次々に狭い出口の階段を降りていく。
 私の正面にいたキックが、私を通り越した視線を後ろに送っている。私は、その視線に体をいれ遮るとお化け屋敷へ行こうと再び訴えるが、キックの耳には届いても認識もしないまま抜けていっているようで、仕方なく優希の方へ向き、怖くないから行こうと誘う。
 後ろではコーヒーカップの従業員が、客を呼び込んでいるが、なかなか乗り手が見つからないらしく周りにいる人たちに声を掛け始める。いよいよ焦り始めた私は、優希の腕に自分の手を絡ませ黒くぼんやりと浮かび上がるお化け屋敷の方へ踏み出す。

「そこのお姉さん達、乗っていかない?」

 従業員が柵越しに笑みを浮かべている。

「はーい」

 頭を振り抵抗を試みたが、どこから出してんだと確かめたくなりそうな可愛い声を両脇の二人が上げてしまい、掴んだ腕はあっというまに掴み返され、もう一方の腕にもキックの腕が絡んでいた。

「いやだあ」

 声を上げても聞き入れられずに、二人は、悪魔のような薄ら笑いを浮かべ、そのまま前へ強引に進み、体は、そのまま背を向けたままずるずると引き摺られていく。コーヒーカップへと上がる階段すら、前向きにしてもらえず、三段ある階段で三段ともかかとをぶつけ緑のコーヒーカップに座らせられる。この寒さにも関わらず、額からは冷や汗が噴出し、従業員がそれぞれのカップを回り鍵を閉めていく。
 私は、往生際が悪くこの場に及んでカップの淵に足をかけ乗り越えようとしたが、キックに引き戻され押し潰される。

「無理無理、回るの駄目なの、知ってるでしょ」
「大丈夫だよ、ほら、あんな小さな子だって乗ってるんだよ」

 焦りが滲み出た声とは対照的な優希の声がひどく冷たく感じられる。ブーと始まりを知らせるブザーが鳴ると、ゆっくりカップが動き始める。取り押さえられた体が、ようやく自由になり、優希が示した子供をみると、その子は、騒ぎ捲くる私を見ていたらしく視線が合い、満面の笑みでピースサインを出し、真ん中に取り付けられているハンドルを自慢げにぐるぐると回し始める。

「ほら、のりも回した方がいいよ、自分でやれば楽しめるって」

 キックが、銀色のハンドルを指差している。確かに、何かに没頭していた方がいいかもしれない。私は、両足をしっかりと床につけ両腕をトラック運転手のようにがっしりハンドルを握り思いっきり力を込めた。
 騙されたと思ったときには、見るものすべてはアインシュタインの相対性理論の中に溶け込んだようで、ブレーキなんてものは、もちろん付いていなくて、ハンドルを握ったまま振り落とされないようにカップの側面にへばりついているしかなく、両手をあげ、髪を降り乱しながら優希とキックはケタケタと笑い続けている。幼い時に読んだ童話を思い出していた。ちび黒サンボの周りを猛スピードで回り続けるトラが溶けてバターになってしまうというやつだ。軽快な音楽の中飛び込んでくる周りの景色は、先ほどの女の子もニコニコと笑っていて、苦しそうにしている人や、泣いている人はいない、なぜ、みんな笑っているのだろう。ぐらぐらと他人の笑顔が伸びたり縮んだりする中、本当にバターになるかも、もしくは、バターを吐き出すかもしれないとぼんやり考えていた。

 大人一人なら十分乗れる小銭をいれてぐらぐらと揺らして楽しむ遊具の一つ、路線バスの中に押し込められいる。体を斜めにし側面に体を倒し足はハンドルの方へ投げ出している。このバスは、止まっているけれど、私の頭の中はいまだにぐるぐると景色が回っている。バスの中で微動だにしない私を通りすがりの人が横目で見ていくが、そんな事は気にしていられず、窓から入る夜風に辺りながら体力の回復を待っているのだが、どうしてこんなところに運ばれたのかが、バツゲームに近いこの状況に納得できずにいる。
コーヒーカップに乗っていて終了を知らせるブザーがなんとなく聞こえ速度が徐々に緩んでいったのだが、私が目にするものは余計に加速し、目にするものは変形を繰り返していた。もちろん、立てるはずもなく、行きも帰りも優希とキックに抱えられその場を後にし、なぜか、ここへ押し込められる結果になった。
 抵抗をする余裕もなく押し込められて何分が経っただろうか。もう十二時を過ぎただろうか。遠くから伝わるジェットコースターが走る抜ける音や、アトラクションのモーター音がいつのまにか聞こえなくなっていた。
 目を開けてバスの小窓から外を覗く。騒音が出るアトラクションは十二時までの運行と決められていて、私の体調の回復を待っていたのでは、乗れないアトラクションが出ることが明らかになり、二人は、私を置き去りにし駆け出していった。
 体調も回復してきたし早く戻ってこないかなあと考えられるようになり、一時の感情とは裏腹に、ここは多少の風避けにもなり、予想以上に居心地が良い事に気づく。恥ずかしいとか気にせずに、二人が来るまでここにいようと決める。

「出発進行!!」

 車体ががくんと揺れ、スキップしたくなるような音楽と共にバスのスピーカーから運転手の声があがり、ゴトゴトと揺れ始める。バスの前と横に二人が笑いながら立っている。

「リハビリだよリハビリ」

 キックが、運転席に手を伸ばし色々なボタンを押しその度にクラクションやらバス停を知らせる声やらが鳴る。

「何個乗った?」

 揺れる車内から、二人に話し掛けると、カタカナの名前をズラズラと並べ始め、あれはすごかったとか、これはいまいちで私でも乗れるなど言い始め、いつの間にか、バスは停車していた。体は、調子を取り戻し立ち上がると屋根がないバスから体半分が飛び出て、体重を移動させるとぐらっと傾く。

「よーし!!お化け屋敷に、はいるぞおおお!!」

 大きく息を吸い込み、言葉と共に吐き出す。気持ちを入れ替え不思議な国のアリスで出てくるような小さな出入口を潜り、地面に立つ。重力のある地球にしっかりと足をつけている実感を再び取り戻す。顔を顰める二人の横にたち今度こそ二人の腕を取り、闇の道へと向かう。


thank you
つづく・・・

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