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雨季合宿課題本 トーマス・マン『魔の山』

2014-04-29 23:13:37 | ・例会レポ

トーマス・マン 『魔の山』
新潮文庫 1969年 / 岩波文庫 1988年

第一次大戦前、ハンブルク生れの青年ハンス・カストルプはスイス高原ダヴォスのサナトリウムで療養生活を送る。無垢な青年が、ロシア婦人ショーシャを愛し、理性と道徳に絶対の信頼を置く民主主義者セテムブリーニ、独裁によって神の国をうち樹てようとする虚無主義者ナフタ等と知り合い自己を形成してゆく過程を描き、“人間"と“人生"の真相を追究したドイツ教養小説の大作。

=例会レポ=

二十世紀を代表する長編小説であるからには一度読んでおきたいと思っていました。
読書巧者のおも本の皆様も同じだったのでしょうか。
思いがけなく課題本に選ばれ、選ばれし者の恍惚と不安を噛みしめつつ読み進めようとしたものの・・・進まない!
魔の山の頂は私を嘲弄するかのごとくに聳え立っているのでした。
以下に記すのは、気高い志に燃えて魔の山に挑んだ人々の感想です。

力を尽くしたが一合目で遭難、五合目で遭難、
という悲しいお知らせもありましたが、
下山途中で遭難しそうだけどもう少し頑張るという力強い宣言や、
買ったからには読む!忘年会までには、という決意も示されました。

登頂に成功した人々は
*入会して初めて本を読むのが辛いと思った。
*読んでいるうちにほかの事を連想してしまいなかなか進まない。
*登場人物も把握できず、盛り上がりに欠ける。
*肝心なところが直接語られていない。
*キリスト教の素養がないと難しい。
*書きたいものをただ書いただけのよう。
*ストーリーとしての魅力がない。
*ただ知識をひけらかしているだけ。
*プルーストと比べて展開が中途半端で物足りない。
*主人公が魅力的でない。
*どの登場人物にも共感できない。
*翻訳が古い。
*読むためには若さのエネルギーがないと辛い。
と苦労を語りました。

一方で、
*サナトリウムでのおいしそうな食事やワイン、毛布の包み方や、こっくりさん等の描写が印象に残った。
*サナトリウムという小さな世界にも階級がある。
*長い一日を俯瞰して見せている。
*医学の進歩を実感した。
*ヨーロッパ的なものへの関心を向けようと思った。
*思想が先行しているのは、サナトリウムにいて現実社会での活動の機会を奪われているから。彼らの悲しい思いが伝わる。
*最後が怖い。ハンスだけでなく人々のすべてを吹き飛ばすのが戦争だ。
*最後の「菩提樹」を歌うシーンに感動した。終りが素晴らしい。
*古い翻訳なのに最後まで読ませる、言葉の力はすごい。
と貴重な経験を伝えてくれました。

さらに、大学時代からの経験で全部読まなくてもいいとわかった、という瞠目すべき感想も。

講師からは、
トーマス・マンは第一次世界大戦後のドイツを背負っていた。
国家としての中心がなく、英仏への劣等感が根強くあった当時のドイツに於いて、ドイツ固有の文化とは何だったのかを考えるためにこの作品を書いたのであり、感動よりは教養を重視したのである。
教養小説の奥深さ、面白さを味わってほしい。
単純な青年ハンスが七年のサナトリウム生活ののちに迷い込んだのが戦場であった、そここそが「魔の山」。
『トニオ・クレーゲル』『ヴェニスに死す』もぜひ読もう。というお話を頂きました。

第一次世界大戦は初めて軍用機が登場し、戦場での大量死を引き起こしました。
『チボー家の人々』も第一次大戦が重要なテーマであり、
トーマス・マンをはじめとするヨーロッパ知識人にとっての大きな意識の転換期でもあったに違いありません。

第七章でのナフタとセテムブリーニの決闘において、
ナフタの一発の銃弾が意外な悲劇となります。
私はそこにサラエヴォでのオーストリア皇太子暗殺の銃弾を連想しました。
銃声は魔の山のハンスの封印を解き、銃声は第一次世界大戦を引き起こす。
ナフタ=旧・セテムブリーニ=新というヨーロッパの知の共存が無効になったともいえるのではないか、と思いました。

つまり、第七章だけ読めばいい、ということには・・・なりませんね、やっぱり。 


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