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2023年9月の課題本『タタール人の砂漠』

2023-10-01 20:06:48 | ・例会レポ

万城目学さんのTwitter(現X)で、森見登美彦さんと「珍しく意見が合った」と推奨されていたのをきっかけに読んだ小説。山もなければ谷もないストーリーが、それゆえに深く胸に刺さり「これは皆に読んでもらわねばだわ!」とゆるぎない自信を持って課題本に推薦したのでしたが…あちゃー。
周囲から「読み進まない」との声が耳に届き、ナゼ?の思いを抱きながらしおしおと例会に参加。出席者めちゃ少ないし、と思ったけど!出席&完読された皆さまからは、いろいろな評価が寄せられました。

・タタール人のサインを見つけてもチャンスを生かせないドローゴの不器用な生き方に、会社員の自分を重ねて虚しさが募った。ドローゴが病に伏せる床で新生児と対面する場は「世代の交代」であって身につまされる。でも何も起こらない人生でもいいのでは。実績に執着しなくても、といろいろ考えさせられ、読めてよかった。

・ブラック企業を辞められない人の話のよう。やめられずにずるずるいってしまうのが悲しい。でも酷い目に合ったわけではないからいいのかな。「砂漠」という環境のどうしようもなさの描写が上手く、内容に沿っていた。

・途中までなかなか話が頭に入ってこなかったが、人生について考えさせられた。周りは何も変わらず、大きなことがこれから始まるという幻想にしがみついて生きている。規則に縛られた兵舎で「いつかは」という幻想を持つことがいいのかどうか。幻想は主観的なもの。客観的には「それでよかったのかな」と思う。ドローゴは凍死した仲間をうらやんでいるが、彼はプライドがあるゆえに死んだ。若い頃にもっといろんなことを経験しておいた方がいいのかな。

・自分の人生と重ね合わせて読まざるを得なかった。誰にも自分なりの「タタール人の砂漠」がある。40代で先が見え始め、60を過ぎて「自分の人生は何だったのか」と振り返り、答えが見つからないでいる。若い頃上司から「毎日闘っているか」と言われて闘いながら「いつか何か起こるんじゃないか」「もう起こらないんじゃないか」と。ドローゴの苦しみ悶える姿が自分に重なる。しかし冷静に死に立ち向かう姿は内なる敵に勝ったようにも見える。この本は翻訳も素晴らしく、楽しめた理由の一つでもある。もう一度読めば新たな発見がある気もする。

・面白くなくて読むのがつらかったが頑張って最後まで読んだ。解説を見て人生を描いた本なのか、その通りだと思った。20代から30代を砦で過ごすところは「人生ってこんなものかな」と思って読んだ。刺さるとまでは言わないが、そうなんだよねと思わせる。しかし何もないのが人生だと思えば楽しくないのは当たり前。読むのはつらかった。

・ドローゴは真面目で優等生。仕事で手柄を立てて英雄になりたかったが叶わなかった。一方、彼の兄は旅を続けるアウトロー的な生き方をしているが、虚しさはなかったのでは。ドローゴの生き方は理解しにくい。自分ならやりがいを求めて転職する。変化を嫌がり、拒めば成長できない。ドローゴはただ年を取るだけ。しかし胸を張って死を待つのは彼なりの最期だったと思う。物語の乾いた雰囲気は砂漠につながるイメージ。

私自身は、出席者の多くの方と同様に、「いつか何かを成し遂げたい、まだ終わらない」と思いつつ、一歩を踏み出せないまま漫然と過ごし、ただ歳月が流れたことに老いて愕然とする、という人生の無常が胸に刺さり、しかしそれを諦め自然に受け入れていくのも人生よという悟りも得た小説です。この本は万人の共感を得るはずだ!と確信して(Amazonレビューも大絶賛だし)、推したわけですが、今回わかったことは、これが「刺さる人」と「刺さらない人」の2種類いるということです。

なぜなら、我が講師は開口一番「そんな読み方もあるんだねー」。人生と重ね合わせるなんて1ミリも思いもしなかったと。しかし砦や砂漠にまつわるイメージは、「月の砂漠」や「アラビアのロレンス」、ディズニーの「砂漠は生きている」などなどに描かれる非現実的な空間として冒険心をそそられ、この本についてはその描写が素晴らしいというお褒めの言葉をいただきました。一例として文庫本85ページの「北の砂漠からは彼らの運命が、冒険が、誰にでも一度は訪れる奇跡の時がやって来るに違いない。」なども。

そんなわけでいい課題本だったかどうかわかりませんが、某氏からいただいた「読書会に入って本当によかったと初めて思えた本」のひと言で、すべて報われた気がした推薦者です。

余談ながら、戦場に赴く日を今か今かと待ちながら敗戦を迎え、「死ぬ大義」を失った三島由紀夫は、かつてNHKのインタビューで「こう言いながら自分は病気になって畳の上でみっともなく死ぬんだろう」的なことを語り、その4年後に自決しています。彼はドローゴとは違う人生を「成し遂げた」のだろうかと、ふと考えさせられました。

…未読の皆さま、レポを見て読んでみたくなったでしょ? ぜひぜひ!

(文責:ままりん)


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