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11月の課題本 吉村昭『星への旅』

2014-11-01 22:22:34 | ・例会レポ

吉村昭『星への旅』
新潮文庫 1974年

平穏な日々の内に次第に瀰漫する倦怠と無力感。そこから脱け出ようとしながら、ふと呟かれた死という言葉の奇妙な熱っぽさの中で、集団自殺を企てる少年たち。その無動機の遊戯性に裏づけられた死を、冷徹かつ即物的手法で、詩的美に昇華した太宰賞受賞の表題作。他に『鉄橋』『少女架刑』など、しなやかなロマンティシズムとそれを突き破る堅固な現実との出会いに結実した佳品全6編。 

=例会レポ=

推薦者が挙げた作品は、短篇小説としての「星への旅」。ただし、現在入手できるものは、同作品をはじめ全6作の短篇小説を収めた短篇集の『星への旅』。推薦者自身、「死」をテーマにしたこの短篇集を読んでみて、「星への旅」はもとより、収載作品のインパクトに圧倒されてしまいました。そこで、会員の皆さんには、「短篇小説の「星への旅」と、それ以外の収載作品」とに分けて感想や意見を伺いたいと例会に望みました。

先ずは、短篇小説「星への旅」について。一番多かった感想は、

・タイトルにだまされた。カバーイラストからも、ロマンチックな話だと思っていた。

でした。反社会的でアンモラルな作品なのでどんな感想が聞けるかと思っていましたが、「吉村昭愛」を公言する筋金入りのファンだけではなく、多くの会員から絶賛の声が挙がりました。

・古さを感じさせないし、読みやすい。暗い欲望を持ったひとくせふたくせある登場人物だけど読後感は悪くない。妙なさわやかさを感じた。
・冷たくてクリアーで即物的。しかし、美しい稀有な作品(ほかの収載作品も)。のちの記録文学にどう反映していくのか、読んでみたい。
・(全作品の)ベースにあるのは、肺結核で骨を削除したという著者の体験か?今年の課題本中のベストかも。
・意味なく自殺に憧れる登場人物は、作品が書かれた昭和という時代ならではのものか。細かい描写がうまい。高校生くらいで読んでいたら、また感想は違っていたかも。(←インターネットで誘い合う練炭自殺は今も行われている、こういう事件は繰り返されるのかとの複数感想あり)。
・映画を観ているようなラストシーン。ある目的のために若者が何かをするのが青春小説だと思っていたが、この作品では(自殺という)目的を果たしてしまった。
・状況描写は冷静で、一歩離れた心地よい距離感を感じた。だけど、内容には入っていけなかった。
・スタイル確立以前の試行錯誤時代の作品だろうが、その後のエッセンスが垣間見える。作者については、この作品だけで判断してほしくない。
・死に方がすごい。

こうした感想の対極に、生理的に受け入れられないとする意見や感想もありました。

・読んでいて胃が収縮するような不快感を持ち続けた。若い人が退屈しのぎで死ぬこと、絶望を越えたその先が見えないことには不満。生き抜こうというエネルギーが感じられない。
・グロテスクで、フェティッシュ。ほかの収載作品に比べて面白く読めなかった。
・登場人物の持つ死に対する思いには、いずれも感情移入できないし、共感できなかった。だけど、飛び降りた、その後まで描写しているところはすごいと思った。
・未来があるのに死んでいく、無動機な遊戯的な死はいただけない。

推薦者は、年齢的にも肉体的にも「死」にもっとも遠い若い人たちほど、純粋に「死」に憧れることができるのではと考えます。逆に、老いてしがらみや守るべきものが増えてしまった大人は、確実に近づいてくる「死」を忌避するようになっていくのでしょう。推薦者自身、高校生の頃は、自殺や病死など夭逝者をテーマにした作品を読み漁った時期があり、汚れきった大人たちには絶対理解できない形で死んでいくことに憧れていました。「あんたたちみたいに薄汚れた大人になんかなりたくないんだ!」。「良識ある」大人に、あいつら何を考えているんだ、と言わしめる事にこそ快感を感じていた時代です。どなたかの感想にあったように、そんな時代にこの短篇小説を読んでいたら、どう感じていたでしょうか? どんな影響を受けていたでしょうか?

次に、ほかの収載作品について。やはり多かったのは、「少女架刑」と「透明標本」についての絶賛の声でした。

・死者が語るという斬新さ。
・究極の傑作。肉体はなくなっても、骨さえ残っていれば、自分の主張は可能なのだ。
・描く対象の死者を完全に「モノ」として見ている。気取った文章で書かれた作品が多い中、ニュートラルな文章で読まされる。

その他の収載作品についても多くの熱い感想が寄せられましたが、長くなってしまうので、泣く泣く割愛させていただきます。

そうなんです、今回の例会には、見学者も含め、男性7名、女性19名の都合26名が参加してくれましたが、皆さんの熱い感想、意見が続き、近来まれに見る濃密な例会となりました。早い話、時間がなくなってしまったのです。

最後の会員発言が終った時点で、会場撤退期限の9時まで残り10分。ここから、のちに「奇跡の10分間」と呼ばれることになる(?)、怒涛の展開が始まります。それを仕切りきったのは、普段の言動からは想像もできない幹事Mさんでした。

「あの声で蜥蜴(トカゲ)食らうか時鳥(ホトトギス)」

一気に次回例会用の課題本の採決を行うと、残り時間で菊池先生の総論を求めます。無慈悲とすら思える決断力と血も涙もないような行動力。

菊池先生も限られたわずかな時間で、

・作家は、処女作に向かって成熟していく。この作品には、作者が戦時中の中学生の頃に体験した、死が日常にある風景と、戦後の高度経済成長期の集団自殺のニュース、この二つの要素がクロスしている。肺結核を患い、いそうろう生活をしていた作者は、常に「死」と向かい合っていた。時間がないのでこれ以上は話せないが、とにかく磯田光一の解説を理解できるまで読み込んで欲しい。

とまとめてくれました。少ない時間の中、うまくまとめていただきありがとうございました。


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