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2023年6月の課題本『そして夜は甦る』

2023-06-28 17:36:29 | ・例会レポ

【欠席をされた推薦者より】
● 推薦した理由
大好きな原尞が今年5月4日に急逝し、もう彼の新作が読めなくなってしまったので、ぜひとも会員の皆さんに、現代日本にはこんなハードボイルド作家がいたということを知ってもらおうと思い、デビュー作の『そして夜は甦る』を推薦しました。
寡作で有名な原尞は本書に連なる〈沢崎シリーズ〉5作(あと短編集1冊)を残してこの世に別れを告げました。遺作となった『それまでの明日』の続編、『それからの昨日』を執筆していたそうです。 (文末に続く)

●6/22(木)の参加メンバー
講師の他7名(男性3名、女性4名(1名新入会)を集め始まりました。

●参加者の感想
著者の作品に向かう姿勢は真摯であり、緊張感があり、構成が整い、端正な文章、会話文も整っている、と良い評価ながら “ダメだし”も多くありました。

登場人物が多すぎる。ここまでの人数が必要?クライマックスにちかづくにつれ誰が誰だかわからなくなり、謎解きに至らない
布石も多すぎ、読者側では回収できない
固有名詞に実名と仮名にしているのは意味があるのか?
固有名詞によって当時の風俗が鮮やかになるが、古臭いようにも感じる(オンタイムで読んでいたら違和感がないのかも)
ハードボイルドのあざとさがある
傍点をつけている箇所が気になるが何故なのか理解できない
銃撃は偽装できるのか?
引用されている比喩が響いてこず、格好よいとも感じられない
女性の扱い、描き方が雑
「~ですわ」や「~なのよ」といった話し方を80年代後半の、しかも“バリキャリ”の女性が使う言葉だろうか?という違和感
人物像が名緒子や頼子のキャリアが描かれていない、人間像も掘り下げられていない
名緒子が直樹との子供をプロポーズを受けてから中絶して結婚したという不思議

等々、もやもやとした空気を一掃したのは、某会員の「ハードボイルドは、様式美が整っていればよい」という一言でした。因みに彼女は、原尞のファンで、全作品(?)を読破。『沢崎イベント』に行って沢崎の名刺をもらったとか。

●講師のまとめ
ハードボイルド小説の評価は、1)小道具の美学と2)構成の成功性にある
1) 小道具の美学
人物像を作り上げるのに本人に属するもので表現。車、ファッション、音楽が沢崎のイメージを作り上げている
2) 構成の成功性
しかけ、布石をちらすことにより読者を試行錯誤させ、物語に引き込むことができればエピソードが功を奏していることになる。この作品は、一人称の独白を用い決めセリフがあり、読みやすい。ただ、独白場面を多用すると作家は、描きすぎてしまうことになる。
謎解きとの両立は難しい
原氏は、この作品がハヤカワポケットミステリ(ポケミス)から刊行されたことを念頭に字数を考え
制作した。

ハードボイルドは、初めの場面から入り込めないようならダメ!読んで気になることがあるなら読まない方がよい。

88/89年頃は、ハードボイルドが忘却の彼方となり、時代すぎると古さが出てしまい読まれなくなる。恐怖感=自分の中にある敵にいかに打ち勝つかということが今後のハードボイルドの課題といえるだろう。

●推薦した理由(続き)
どうですか、皆さん、面白かったですか?推薦本を読んで興味を持たれた方がいれば、読み比べてもらいたい作家と作品があります。藤田宜永の『喝采』とその続編『タフガイ』、こちらは〈浜崎シリーズ〉と呼ばれています。ともに新宿に事務所を構える個人営業の私立探偵を主人公にし、チャンドラーへのリスペクトにあふれた作品になっていますが、〈沢崎シリーズ〉が1980年代末から2010年代までを舞台にしているのに対し、〈浜崎シリーズ〉は1970年代前期を舞台にしています。主人公二人の名字の最初の文字が「沢」と「浜」と、ともに水に関係する文字なのも偶然でしょうか。
藤田も2020年1月に病死し、シリーズはこの2作だけ。こうやって愛する作家さんが去っていき、もう二度と新作が読めないという悲しい体験を今まで何度したことか、そしてこれから何度することになるのでしょうか。
 
●推薦者の追記
ハードボイルドはぼくにとっては「最も遠い銀河」(白川通)であるとともに、「ないものねだりの子守唄」(中原理恵)。原田芳雄や藤竜也になれないぼくは、小倉一郎や森本レオの路線で、「卑しき街を行く孤高の騎士」(フィリップ・マーロー)の物語の後を追っていくのみです。


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