昔は旧暦4月1日に冬春物から夏物へ、10月1日に夏物から秋冬物へと着る物を替えたそうだが、明治以降はその習慣はなくなったそうだ。現在は日を決めずに初夏に行うのを更衣と言っている。初夏になると天地自然のすべてが清清しく、今まで着ていた物が重く感じられる。爽快な夏物に着替えたくなるから、自然な習慣と言えるだろう。
更衣の文字は更衣(こうい)とも読めるが、そう読むと天皇の寝所に侍す女性を指すことになる。昔は天皇の着替えを手伝ったからであろう。女御(にょうご)に次ぐ位である。源氏物語の桐壺の更衣(光源氏の母)はよく知られている。
衣更て坐つて見てもひとりかな 小林一茶(こばやし・いっさ)
江戸時代の更衣は民間のしきたりとしてかなり重要な意味を持っていたと思われる。旧暦の4月1日には世間は一斉に夏物に着替えた。一茶もそれに従ったわけだが、衣を更えて坐ってみると、爽快で清新な気分になる。しかし、そんなことを話す相手もいない。よく似合うねと褒めてくれる人もいない。
言い知れない孤独感であろう。ただ、「ひとりかな」という詠嘆は悲観的ではないと思う。同情を求めてはいないのだ。独りであることを確認しているような表現だと思う。一茶の句にはときどき「ひとり」が現れるようだが、それは決して悲観的な孤独ではなさそうだ。孤独であることを当り前と捉えているようである。
年問へば片手出す子や更衣 一茶
更衣をしてもらってすっきりした表情の子に「いくつになったの?」と歳を尋ねると、その子は黙って片手を出したというのであるが、現在とまったく変わらない光景だ。
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