もとは入浴時や浴後に着る湯帷子(ゆかたびら)をさした。当時は蒸し風呂で混浴だったので着る物が必要だった。近世以後、浴槽に湯を入れて裸で入浴するようになった。入浴後に着る単衣(ひとえ)を浴衣として着るようになった。それがやがて外出用にも着られるようになったのである。現在は素材も柄も多種多様である。
浴衣着て少女の乳房高からず 高浜虚子(たかはま・きょし)
浴衣には色っぽいイメージがあるが、案外それを詠んだ句は少ないものだ。この句も色っぽいとは言わないが、まだ大人になりきっていない女の乳房を言って清潔感のある句となっている。もう少し高く見えると思ったが、意外に高くはないのだ。低いとは言わず「高からず」と言ったことで、少女の微妙な心の動きまで見えるようだ。
月影のふところにさす浴衣かな 田中王城(たなか・おうじょう)
月影は月光のこと。宿浴衣であろうか、浴衣をゆったり着て散歩に出たら、折からの月夜である。月光が胸元に差し込んできて、いかにもふところに月光を取り込んでいるようだというのだ。浴衣の持つ特性をよく捉えている。
借りて着る浴衣のなまじ似合ひけり 久保田万太郎(くぼた・まんたろう)
「俺は浴衣は似合わないんだよ」などと言いながら宿の浴衣を着てみたら、これが意外にも似合うのだ。「なまじ」の使い方に注意したい。中途半端にという意味が本来だが、ここでは意外にも似合うではないかというように、反語的に使われている。
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