前回のエントリにも書いたように、オーマイニュース(以下OMN)では、“読者向け”メールマガジン「オーマイメール」の配信を4月10日から開始します。現在、OMNはオープニングキャンペーンを行うなどして登録者を募集している最中で、登録画面には次のような一文があります。(引用部分はイタリック体で表示、フォント変更・太字は筆者)
購読はもちろん無料。規約に同意いただいた上で気軽にご登録ください。
オーマイメールに限らず、どこのサイトでも見かけるごくありきたりな文章です。たかがメルマガ、実際には規約を読まずに登録を行う人もいることでしょう。ですが、登録した以上は規約に同意したものとみなされます。そこで、オーマイメールの利用規約が実際にどのようになっているか、条文を抜粋しながら疑問点を挙げていきます。
市民記者は登録できるの?
登録画面のメールアドレス記入欄の下には市民記者登録で使用しているメールアドレスは、ご利用できません。という注意書きがあります。この文章を見る限りでは、市民記者であってもOMNに登録していないアドレスを使えば登録可能なように思えます。ところが、利用規約の中には次の条文があります。
第3条(サービス内容等)
2.本会員登録後、市民記者登録した場合、本サービスは市民記者用メールマガジンに移行します。
第9条(退会)
(略)
本会員は市民記者登録を完了した時点で退会とする。
メルマガ会員がOMNの市民記者になると、メルマガの方は自動的に退会になるようです。この事から考えると、メルマガ会員と市民記者登録は重複して行えないようにも思えます。ただし、規約の中には市民記者がメルマガ登録を行った場合を想定した条文がありません。さて、正解はどちらなのでしょう?【註】
どうして退会する人には冷たいの?
退会について書かれているのは利用規約第9条ですが、条文の中でここだけ語尾が違います。他の場所ではです・ます体なのに、ここでは ~する。 となっています。慌てて作成したのでここだけ文体が変わってしまっただけなのかもしれませんが、辞めていく人などどうでもいいと考えているような誤解を招かないとも限りません。実際のところはどうなのでしょう?
どこまで網をかけているの?
利用規約に禁止事項を定めるのは当たり前のことです。ですが、禁止行為の範囲が広すぎるのではないかという疑問があります。
第5条(禁止事項)
本会員は、本サービスを利用するにあたり、次の行為を行わないものとします。1.本サービスで提供される情報、著作物等をネットワークの内外問わず、自らの個人利用目的以外に利用したり、複製、販売、再提供する行為、その他第三者の著作権を侵害する行為。
まずはこちらですが、ネットワークの外というのがよくわかりません。例えば、メルマガをプリントアウトして配布というのがアウトというのは理解できます。では、メルマガの内容について知人と話す場合はどうでしょう。これはメルマガで提供された情報をネットワークの外で自らの個人利用目的以外に利用したことにならないでしょうか?
「あなたは○月×日にメルマガの情報を他人に漏らしたので退会とします」
まさかこんな共謀罪も顔負けの事態が実際に起こるとは考えにくいものがありますが、条文を見る限り可能性はゼロではありません。このようにどこまでも拡大解釈が可能な条文が何故必要なのか、理解に苦しみます。
3.その他国内外のネットワークの規則に反する行為や法令に違反し、または違反する恐れのある行為。
こちらも相当に範囲を広く取っています。まず、国外のネットワークの規則とはどういったものを想定しているのでしょうか?OMNとして想定している規則があるはずだとは思いますが、具体的に定義されていないのでどうとでも解釈は可能です。そもそも、世界中のネットワークの規則を知っている人など、OMNにはまずいないでしょう。
また、この書き方では“国内外の”という言葉が、“法令”にまでかかっているとの解釈も可能です。OMNの市民記者規約では、第20条に本規約および市民記者登録に関する準拠法は、日本法とします。との文言がありますが、こちらの利用規約にそのような条文はありません。他国の法令に違反する恐れがある行為を禁止されたら、逆に何が許されるのかとツッコミたくなります。
気がつかない方が悪いの?
禁止事項については多分に揚げ足取りの感もありますが、揚げ足を取るからにはそれだけの理由があります。次の条文を見て下さい。
第8条(規約の変更)
当社は本会員の承諾を得ることなく本規約を変更することがあります。なお、本会員が引き続き本サービスの提供を受けることによって、当該会員はかかる規約の変更を承諾したものとみなします。
市民記者規約では、規約を変更する際には市民記者に通知する旨明記されていますが、利用規約にはそのような文言はありません。「アナウンスはしないから各自規約を確認しなさい」と言っているのも同然です。ある日突然規約が変わり、それを運営側のOMNだけが知っている可能性すらあるのですが、OMNの理屈ではメルマガ会員全てがそれを承諾している事になります。
ルールを変える際にはアナウンスを行う
当たり前の事だと思うのですが、オーマイメールはそれすらやりたくないようです。
事実かどうかはどうでもいいの?
第6条(資格の喪失)
前条の禁止行為または以下に該当すると当社が判断した場合、当社は本サービスの提供を停止することができます。
1.登録時の記載事項に虚偽の内容があった場合。
2.本サービスに対する妨害行為があった場合。
3.その他、本規約に違反した場合。
とどめはこれです。登録時の記載事項が真実であろうと、妨害行為を行っていなかろうと、OMNが「これは虚偽記載に違いない」「これは妨害行為だ」と判断したらメルマガの配信をストップすると言っているのです。特に第2項の妨害行為というのは漠然としていて何を指すのかよくわかりません。前述の禁止事項同様、ガイドラインが示されていない以上は、どこまでも拡大解釈が可能な文言です。
「利用してみておかしいと思ったら退会すればいい」そういう意見もあるでしょう。しかし、自分が何も知らないうちに9条がなくなり、代わりにこんな条文が追加されている可能性もないとはいえません。
第XX条(退会の自由の制限)
いかなる事情があろうと、退会は一切認めないものとします。
OMNが「そんな事はありえない」というのなら、自社の市民記者規約を参考にして利用規約を改定すればいいのですが、はたしてどうなりますか。仮に改定があったとしてもアナウンスはないかも知れませんが、今後の成り行きに注目し、何か変化があればまた拙ブログで取り上げていくつもりです。
違和感の原因はコピペにあり?
オーマイメールの利用規約に疑問を持ち「よっしゃネタにしてやるぜ」と意気込んで、ここまで一気に書いてから、他のメルマガの利用規約をざっと見てみました。そうすると、規約の変更について第8条とよく似た方式を採用しているサイトや、禁止事項について第5条の文言が丸ごと含まれているサイトがある事がわかりました。
そこで、もう少し細かく調べてみたところ、オーマイメールの利用規約には、グリコメールマガジンとカブクンメルマガのそれと一致あるいは酷似している箇所がかなりある事に気がつきました。下の対応表をご覧下さい。
オーマイメール利用規約 |
一致あるいは酷似した条文 |
第3条(2項を除く) |
グリコ第4条 |
第5条 |
グリコ第11条 |
第6条 |
カブクン第6条 |
第7条 |
カブクン第8条 |
第8条 |
カブクン第9条 |
利用規約の文面は著作物とは認められないという見方がありますし、コピペそのものが悪い事ではないのでしょう。ですが、これだけ他サイト一致あるいは酷似している条文が多いと、OMNサイドではどれだけ内容を理解しているのかと不安を覚えます。
実際に、規約の変更について、オーマイメール同様にアナウンスを行わないとみられるカブクンでは、前文で「利用の都度規約を参照するよう」注意を促していますが、オーマイメールの前文にはそういった記述はありません。うっかり前文のコピペを忘れたのか、何らかの意図を持って行った事かはわかりませんが、どちらにせよもやもやしたものは残ります。
まあ、規約の文言がどうであれ、トラブルやアクシデントが起きなければ規約の出番は殆どないでしょう。そうある事がOMNにとってもユーザーにとっても望ましいのは間違いありません。その為にも、OMNにはしっかりした運営を望みたいところです。
また、今一度利用規約を読み直し、わかりにくいと感じた点があれば、OMN本紙にあるようなFAQを設置する事も必要でしょう。運営側がわかりにくいと感じる点は、ユーザーも同じように感じているはずです。そこをわかりにくいままにしないのが、利用者の立場に立った運営ではないかと思います。
【関連リンク】
Webサイトの利用規約の作り方 - 利用規約に著作権はあるのか?
Webサイトの利用規約の作り方 - 誰が作ってるの?
【註】
当エントリ執筆中に、登録画面が修正されました。市民記者は登録不要との一文が追加されていますので既に正解が出てしまいましたが、規約には市民記者の登録を禁じる条文がない為、元の文章には特に手を加えずにエントリをアップいたします。