おへそのひみつ 

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動機<横山秀夫>

2005年07月23日 | 
「半落ち」の前に発表された短編作品。第53回日本推理作家協会賞短編部門賞受賞。「動機」「逆転の夏」「ネタ元」「密室の人」の4作品から成る。


「動機」・・・・警務課調査企画官、貝瀬が警察手帳の大量盗難事件に挑む。 
自らが起案した警察手帳の一括保管。テスト導入のさなかにそれは突然消え失せた。犯人は内部の人間なのか?またその目的は?事件概要をマスコミに公表をするまでのタイムリミットはたった2日しかなかった。


「逆転の夏」・・・・・元殺人犯の山本は出所後、遺体搬送会社の運転手として社会に復帰することになった。ある日、見知らぬ男から電話が入り「殺人依頼」を懇願される。名前も名乗らぬその男はなぜか山本の過去をすべて知っていた。


「ネタ元」・・・・・地方新聞社の記者、真知子は最近起きた「主婦殺害事件」の特ダネを追っていた。わずかな情報の中から他社を出し抜き記事を書かねばならない。そんな時、ライバル誌から引き抜きの話を持ちかけられる。真知子自身が必要なのか、或いは彼女だけが持つネタ元が必要なのか・・・。


「密室の人」・・・・・裁判官である安斎は、審判中に居眠りをし、あろうことか寝言で妻の名を呼んでしまった。思わず犯した過失への焦燥、周囲から追い詰められた時、ふとした疑念が頭をよぎる。


作品的にはタイトルにもなった「動機」が一番好き。警察内部の盗難事件という設定で、犯人もそれを追う方も同じ組織の人間である点が興味深い。閉鎖的空間内での事件ということもあり、解決には困難を極めるが、どこにでもある組織の派閥争いや人間関係を通して徐々に解決の糸口が見え始める。殺人事件のような派手さはないが「半落ち」同様、犯人の「動機」は何なのか・・・最後まで惹きつけられた。

 


平壌の水槽 北朝鮮 地獄の強制収容所 <姜 哲煥>

2005年07月23日 | 
姜哲煥(カン・チョルファン)氏がホワイトハウスに招かれ、ブッシュ大統領と面会した事はまだ記憶に新しい。

彼は、祖父が突然連行されたことによって、9歳の時に櫂徳(ヨドク)政治犯収容所に収監され、10年もの長い歳月を経て奇跡的に出所した。たった9歳の子供が(妹は7歳)劣悪な環境で精神的にも肉体的にも苦しめられた10年という日々は壮絶としか言いようがない。
過酷な労働、不潔極まりない環境、耐え難い飢え、人を人とも思わぬ非道な扱い・・・
それはこの世の生き地獄でしかなかった。

彼が収容所で叩き込まれた教訓は
「人は限りなく残虐になれる存在であり、人の尊厳は収容所で跡形もなく消え去る(本文より抜粋)という事だった。

虫やネズミ、蛇を捕らえ食らう。飢えた大人達が小さな子供の食料をも奪い取る。極限の中では、人間はもはや人間ではなく獣と化す。
姜氏は山で野兎を捕獲した時、病に倒れていた祖母に持ち帰ろうと思いつつ、その場で頭から貪り食ってしまったというが、それほどまでの飢えを想像する事は難しい。

保衛員による虐待や暴行は日常的に行われており、それは子供であっても例外ではなかった。また、おぞましいまでの公開処刑、理不尽な虐殺さえも目の当たりにする。時には死体の運搬や埋没作業までさせられたという。病死、自殺、虐殺等によって出た夥しいほどの死体は、収容所一帯に埋められ続けた。

収容所と言えばアウシュビッツを思い出すが、ここでは同胞が同胞を虐殺している。そしてその地獄は今もなお存在し続けていて、収容所の外の世界にまで広がっている。

92年に彼は脱北に成功し、韓国に逃れる事が出来たが、残された家族の消息はわからないらしい。彼と共に幼い頃から収容所生活を強いられた妹さんの行方がとても気になる。