ニュージーランド・ラグビー:オフ・ザ・ピッチ

ラグビー王国からのそのまんまレポート。子どもラグビーからオールブラックスまで、見たこと感じたことをお送りしています。

魂のセブンス

2006-04-03 | セブンス
今年の「香港セブンス」のカップ戦の決勝は、イングランド対フィジーでした。
ニュージーランドでは国営の地上波が、毎年「香港セブンス」をライブ中継しています。NZは準決勝でフィジーに敗れ、その時のフィジーを観て、並々ならぬ意気込みを感じ、
「もしかしたら、フィジーが勝つかも。」
と思っていました。先月終わったばかりの英連邦のオリンピック「コモンウェルス・ゲーム」では、フィジーはイングランドに敗れ、NZはそのイングランドを制して連続優勝していました。

手に汗握る20分。
試合は前半、フィジーにイエローカードが出たこともあり、イングランド優勢でしたが、後半の終了間際、フィジーは24:19と新星ウィリアム・ライダーのトライで逆転するものの、ゴールキックを外します。しかし、勢いに乗った彼らには鬼気迫るものがあり、
「もうワントライ!」
と誰もが思い、彼らもそう思っていたことでしょう。

その矢先、事件が起きました。
フィジー選手の一人が肘から手首にかけての腕を折ってしまったのです。全身の体重をかけた腕がぐにゃりとなるのがテレビに映るほどの大骨折です!セブンスの精神であり、フィジーのキャプテンでもプレーヤーでもある、今年38歳のセルヴィの苦渋に歪む顔が、大写しになりました。

イングランドは動揺するフィジーの不意をつきトライ。ゴールキックも決めて26:24と逆転。優勝を決めました。その瞬間、
“England, you got everything!”(イングランド、あなたたちは何でも持ってるじゃない!)
という言葉が、思わず口をついて出そうでした。肩を落とすフィジーの選手たち。こちらまで涙ぐみそうでした。

去年の「香港セブンス」はIRB主催の4年に一度のワールドカップでした。優勝したのはフィジー。試合後のセルヴィのインタビューは今でも忘れられません。

「フィジーのみんな、どこにいるんだい?優勝したよ。これはキミたちのためだよ。ボクらにはなにもない。経済支援も、なにもかも。みんな海外へ出て散り散りだけど、がんばっているキミたちのためにこれを贈るよ。」
(セルヴィ。ウェリントン・セブンスにて→)

本国ではテレビどころか、ラジオの前でみんなが優勝の吉報とセルヴィのメッセージに涙していたことでしょう。彼は以前、あるインタビューで、「香港セブンス」がフィジー人にとってどれだけ特別なものか、ラグビーの海外試合と言えば今でも香港であること、ラガーにとってセブンス選手に選ばれて香港に行くことがどんなに栄誉あることかを、とくとくと語っていました。
「15人制よりセブンス、しかも香港なんだ。」
と言う言葉は真実でしょう。

オールブラックスで活躍するような超一流選手を数え切れないほど輩出していながら、フィジーの15人制は資金不足で常に青息吐息なのです。お金がないため海外でのテストマッチ(国対校試合)にも行かれないほどで、昨年のNZでのテストマッチもNZ側がかなりの資金援助をしていました。

そんな彼らの夢、「香港セブンス」。
そこで目の前にした優勝を逃してしまったのです。

しかもフィジーは今年に入って早々、政情不安に見舞われ、
「すわ?クーデターか?」
という一触即発な状態でした。ほとんどのセブンス選手が軍人なので、彼らの身分は常に軍の意向を反映し、非常に政治的、かつ不安定なものなのです。そんな中で、すべてを黙らせるためには勝ち続けるしかないのです。

しかし、負けてしまいました。すべてを持っているイングランドに。

でも、みんなはあなたたちを忘れないよ。
魂のセブンスを見せてくれる、白いウォリアーズを。


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