国際交流のススメ

舞台芸術・海外公演に関する情報をニューヨークから発信します。

June Havoc Theaterって

2009年08月31日 | NYの小劇場



今日はNYでレンタル可能な小劇場を紹介したいと思います。

その第1回目はJune Havoc Theaterです。マンハッタンの34丁目から57丁目の間、6アベニューから西側をシアター街(Theater District)と呼びますが、ブロードウェー・ミュージカルを上演するような大劇場以外にもJune Havoc Theaterのような小規模の劇場が多数存在しています。その殆どの劇場で客席数は99席以下に抑えられています。実はこの99席以下というのにはスペースの問題以外に大きな理由があります。

テクニカルスタッフにユニオンがあるように、役者にもActors Equity と呼ばれるユニオンがあります。Actors Equityでは、客席数と役者へのギャランティに一定のルールを定めています。例えば99席以下の劇場での公演はShowcaseと呼ばれるカテゴリーに入るのですが、このカテゴリーの場合、謝礼の最低保証が交通費程度で最も安く、これを超えますと、その最低額が何倍かに跳ね上がります。

またNYは土地が非常に狭いですから、元はオフィス・ビルだった建物の一室を改装して劇場としているところも多く、どうしても天井高も低くくなりがちです。また機材はどこも(日本に比べると)古くて、台数も少なく、メンテナンスの状態も良くありません。ただ、99席以下の場合、1週間のレンタルで$2000ぐらいからありますし、高い劇場でも$4500程度で借りられます。また床や壁も塗装できる劇場が殆どですから、そういった自由度も高くなります。

June Havoc Theaterは1週間$4200程度(2009年8月現在)から借りられますが、レジデント・カンパニーと呼ばれる劇場付の劇団が存在しており、スケジュールの中心は、そのレジデント・カンパニーの公演にあてがわれます。また同じスペースにDorothy Strelsin Theatreと呼ばれる56席の小さなブラックボックスタイプの劇場もあります。




以下、June Havoc Theaterの諸条件です。

・ 間口が20尺半(6m15) x 奥行きが17尺(5.1m)
・ プロセニアムの高さが約12尺半(3.8m)
・ 床面は厚ベニヤ貼りで舞台高が1尺(30cm)
・ 照明バトンまでの高さが約13尺半(5.25m)
・ バトンはだいたい1.2m-1.5m間隔
・ 4-6人用楽屋が2部屋
・ 2.4kディマーが48個
・ 照明機材はエリが38台、パーライト12台、パーネル14台、ミニストリップ3台
・ 音響機材は 2 CD playback. Stage: 4 Meyer UPM-1P, 1 Meyer UPM-1P subwoofer; House: 4 Turbo Sound TCS-30,. 2 QCS PLX-1104 amplifiers. Mixing board: Mackie 1604.





FringeNYC フェスティバルって (5)

2009年08月30日 | 海外公演

from Website of Kaimaku Pennant race: http://www.kaimakup.com/


FringeNYCに今年日本から唯一参加していたのが劇団開幕ペナントレース。タイトルは“Romeo & Toilet”

タイトルが示す通りB級です。もし私が東京に住んでいたら、あの分厚いチラシの束からこの劇団をセレクトすることはなかったでしょうし、恐らく観劇の機会はなかったでしょう。(失礼で、すみません!)

しかしこれもNY住む、ある種の面白さとも言えます。実は歌舞伎や能なんかも、NYに来て初めて見た、という日本人が結構います。西欧文化の中で暮らして、日本の特異性に気付くこともあります。歌舞伎や能は伝統芸能ですから、当然、西欧とはかなり異質な様式美を備えています。しかし、これだけ西欧化した現代日本で作られる現代演劇も実はかなり異質な部分を含んでいます。

例えば演技でも、小劇場によく行く人はすでに感じていないかもしれませんが、日本の小劇場演劇での演技というものはかなり異質です。アメリカのそれとは当然かなり違っています。なおのこと、笑いに対するセンスも違って当然です。

恐らく開幕ペナントレースを見たアメリカ人は、ほとんど良く理解できないまま、変な物を見せられたなあ・・・と感じているでしょう。とにかく煩い、しつこい、馬鹿馬鹿しい。ストーリーもへったくれもなく、英語もめちゃくちゃヘタクソ。下ネタ部分はストレートなためか、かなり受けていましたが、とにかくああいうある種暴力的な笑いというのは、アメリカではあまり見られないもので、その異質ぶりは伝わったと思います。

しかしまあ、僕の観察した感じでは、かなり好意的に受入れられていたように思いますし、潔いまでの直球勝負ぶりが、個人的には好感を持ちました。なにより地球の反対側のニューヨークまで来て、アメリカ人に自分たちの舞台を見せてやろうという意気込みを感じました。


彼らのニューヨーク公演の様子がホームページから見れるようです。
http://www.kaimakup.com/


FringeNYC フェスティバルって (4)

2009年08月30日 | 海外公演

from FringeNYC web: http://www.fringenyc.org/


FringeNYCへの参加はそれほど難しくありません。日本からの参加の場合はInernational Applicationという申請書を提出します。つまり外国枠ですね。FringeNYCでは海外からのカンパニーに対して、比較的大きな劇場や条件の良い時間帯を割り振ってくれる傾向にあります。また参加は難しくないとは言え、一応の審査があります。これは提出する申請書や資料から判断されるのですが、ここでも外国枠はそれなりの配慮があるようです。

おっと、ここで前提となる大事なことが。FringeNYCは場所や一定の宣伝を提供してくれますが、上演料や移動・輸送費、人件費など、一切の経費を負担してくれません。また上演時間や場所はFringeNYCに決定権があります。ただし、フェスティバルは16日間もありますから、滞在費を節約するために、出演時期をフェスティバルの前半か後半かの希望を提出することは可能です。

期間中、劇場の移動はなく、同じ劇場での上演になりますが、時間は午後2時から真夜中まで、平日も終末も含めて5回の上演が組まれます。ですので、仕込み、ばらしの時間は毎回直前の30分のみです。前の組のばらしの時にこちらの仕込みをし、公演後すぐにばらします。

さらに細かくは、

• 劇場にはテクニカル・スーパーバイザーがいますが、音響・照明卓の操作はカンパニー側が人員を提供しなくてはなりません。舞台監督も同様です。どうしても現地で必要な場合はフェスティバルが1公演あたり$25で提供してくれます。
• また出演者以外に1名、受付要員も提供しなくてはなりません。これもいなければ1公演あたり$25で提供可。
• 参加カンパニーは労災や観客、その他設備のための保険を所持しなくてはなりませんが、フェスティバルでは1カンパニーあたり$185で加入できる保険を提供しています。
• チケット代は$15が基本です。また1枚($15)につき$8.75をカンパニーが受け取ることができます。
• 申請参加料は1カンパニーあたり$550。ただし、これは参加が決まってからの支払い。
• 申請書は通常12月1日から2月中旬までに提出。しかし海外枠は1月中旬まで。
• 結果は3月頭に郵送にて連絡があります。
• 入国、そして上演に必要なビザはFringeNYCが代表で米国移民局に申請してくれます。ただし必要な書類を1月中旬の決められた時期までに提出し、費用を支払う必要があります。費用は移民局への申請費用が現在$320、役者組合からの同意書の入手費用が$250、その他郵送費が$20といったところです。

上記内容はFringeNYCのWebから入手したものです。内容はその都度更新されますし、変更されるかもしれません。確実な情報が必要な方は以下のウェブサイトを訪問し情報を入手してください。(上記情報はあくまで筆者の善意からの情報提供ですので、実際の作業は各人で責任を持って行ってください。)

http://www.fringenyc.org/About/pdf/application2009intl.pdf
あるいは
http://www.fringenyc.org/About/application.asp
を参照してください。


FringeNYC フェスティバル って (3)

2009年08月30日 | 海外公演

from FringeNYC web: http://www.fringenyc.org/


ニューヨーク・インターナショナル・フリンジ・フェスティバル(通称FringeNYC)は北米最大のマルチ・アートフェスティバル。200を超えるカンパニー・グループが世界中から参加、現在20の劇場で16日間に渡って、のべ1300以上の公演を毎年開催しています。参加しているボランティアは1500人、アーティストは4500人で、観客動員は75,000人に登ります。(FringeNYCのウェブサイトからの情報)

開催時期は通常、8月中旬から8月末で、2009年度は8月14日から30日の17日間、午後2時から真夜中のスケジュールで開催されました。

FringeNYCは1997年、The Present Companyという、オフ・オフ・ブロードウェーのグループによって創められました。ことの起こりは、なぜ舞台芸術の都・ニューヨークに、エディンバラ・フェスティバル・フリンジのようなフリンジ・フェスティバルがないのか、という簡単な疑問からでした。そしてフリンジ・フェスティバルを企画し、コミュニティの人たちに意見を聞くタウンミーティングを開催したところ、地域住民350人が参加、コミュニティにとって必要な事業であると実感したと創設者たちは語っています。

辞書でFringeという言葉を引きますと“周辺”あるいは“2次的なもの”といった言葉が並びます。エディンバラ・フリンジ・フェスティバルの場合も、エディンバラ・国際フェスティバルを核とし、その周辺で開催される10ほどあるフェスティバルの1つであって、国際フェスに比べて小規模な作品を紹介する、というのが元来の意味合いでした。

そのため、フリンジと言うと、ラインナップも新進の気風に富んだ作品が多かったり、また実験的、前衛的な作品が多くなる傾向にあります。劇場サイズも小規模なものが多く、新進のアーティストや劇団にとっても、参加しやすいという傾向があります。

FringeNYCは単体のイベントですが、内容はまさにフリンジ的フェスティバルと言えます。開催される劇場はどれも小規模のものが多く、NYでも実験的で新進の気風に富んだビレッジやソーホー周辺が中心です。 (続く)

FringeNYC フェスティバルって (2)

2009年08月29日 | 海外公演

Photos by Michelle Robin Anderson

やがて、アルビンは漆黒の海底で、かつて見たことのある光の玉に遭遇する。それは亡くした妻の魂であった。魂が鯨に飲み込まれると、鯨の瞳にはかつての妻の姿が。海底深く鯨となった妻と楽しいひと時を過ごすアルビン。鯨の身体を離れた妻の魂はさらにアルビンを海底深くに導いていく。その時、アルビンは横たわる死体のその向こうに海底火山を発見する。同時に残された酸素があとわずかであることにも気付く。

妻の魂は浮遊を続ける。しかしアルビンは妻への思いを断ち切るかのように火山へと向かう。アルビンは岩盤の上にすっくと立つと、特性ウェットスーツの足の部分から伸びる爪で空洞の岩盤をしっかと掴み、地底から切り離す。そして岩盤の頂上に立つと海上へと浮上を始める。凄まじい勢いで海上へと浮上していくが、酸素の残量が底を着く。

海上へと浮上したときには、アルビンはウェットスーツの中で既に死んでいた。

するとアルビンの身体から光る玉が遊離し浮遊しはじめる。その光る玉は海中深く沈んで行き、そこでもうひとつの光る玉と合流する。やがて、二つの光る玉は一つとなり、その中にアルビンと妻の姿が見える・・・・」

号泣。

このお話を50分で、しかも一人で演じています。彼が使うのは、自作のアニメーションのキャラクター、パペット、そしてミニチュアのセットなどです。本人も所々で登場しますし、ウクレレで自作自演の音楽も挿入されます。

アニメーションが投影されるスクリーンは円形の紗幕でできていて、映像だけでなく、背後でパペットが映像とシンクロして演じたりも。またアニメーションでは、その場で即興でイラストを書き加えたり、メッセージを手書きしたり。観客の想像力を引き出しながら、物語へと引き込んで行きます。

面白いのは、どれも非常に簡易なセットで、しかも安価な素材を使いながら、きちんと世界観を観客に伝えられている点です。主人公がウェットスーツを着たときのパペットも非常に簡単で、ソフトボール大の白い玉がヘルメットを装着した主人公の頭で、顔の部分に小さなLED照明が仕込まれています。身体は手術用の薄いゴム手袋をした本人の手だけです。右手で頭を持って、左手で身体を演じます。でも、これが・・・・見ているうちに可愛らしい生物に見えてくるから不思議ですよね。台詞は英語ですが、ほとんどのシーンはヘルメットを装着している海中シーンなので、言葉の台詞はありません。その代わり動物のような鳴き声を発します。そのせいもあって、どんどん手と白い玉が、何かのクリーチャーに見えてきます。

客席も噂を聞きつけた観客で超満員。私もなんとかチケットを確保して見ることができましたが、本当に素晴らしい舞台でした。日本でもこういう小さな秀作が、こういうカジュアルな演劇フェスティバルで、もっともっと見られるようになるといいのですけどねえ、と思いました。

ちなみにチケットは15ドル。つまり1400円程度ということですね。




All Photos are from The Adventures of Alvin Sputnik: Deep Sea Explorer, by Tim Watts. Photos by Michelle Robin Anderson
(http://www.weepingspoon.com/AlvinSputnik/Welcome.html)