国際交流のススメ

舞台芸術・海外公演に関する情報をニューヨークから発信します。

FringeNYC フェスティバルって (1)

2009年08月29日 | 海外公演

from The Adventures of Alvin Sputnik: Deep Sea Explorer, by Tim Watts


昨日、演劇フェスティバル「Fringe NY」で上演中だったオーストラリアから参加のワンマン・パフォーマンス
“The Adventures of Alvin Sputnik: Deep Sea Explorer”を見てきました。

日本語に訳すと、「アルビン・スプートニクの冒険:深海の探索」とでも言うのでしょうか。ティム・ワッツさんという白人男性による一人芝居で、会場はHERE Arts Centerに2つある劇場の小さい方、Dorothy B. Williams Theater。


これがもう、本当に良く出来た良い話で、エンディングではちょっぴり涙ぐんでしまうほど!ストーリーは・・・

「地球温暖化で海面が異常に上昇し、人類は絶滅の危機に瀕している。生き残った人類はそれぞれが孤島のように残された高層ビルの残骸などで暮らすのみ。西オーストラリアに暮すスプートニク夫妻も残骸の中で二人っきりの生活を送っていたが、妻が病気になり、やがて死んでしまう。すると妻の身体から輝く魂がふわふわと抜け出し浮遊しはじめる。夫のアルビンは必死でその輝く玉を彼女の身体に戻そうとするが、彼女の魂は窓を飛び出し海中へ。アルビンも追いかけて海中に飛び込むが、光の玉は深海へと沈んで行く。

一人ぼっちになったアルビンは小さなボートで旅に出るが、やがて残された人類の多くが住む残骸へと辿り着く。そこでは人類の存亡をかけた壮大なプロジェクトが進行していた。深海の底にある海底火山。その山中に空洞があり乾いた地表が残されているという。その空洞を岩盤から引き離し、海上に浮かび上がらせようというのだ。これまで何人もが挑戦し失敗している。一人ぼっちになったアルビンは海底への冒険を決意する。

特製ウェットスーツに身を包み、海中深く飛び込むアルビン。やがて光の届かない海中には人類が残したかつての生活の残骸が死体とともに残されている。そこでアルビンは海底に住む生物を遭遇。仲良くなるが、仲間がいることを知り、仲間の中に友人を戻し、さらなる海底の旅を続ける・・・(続く)





All Photos are from The Adventures of Alvin Sputnik: Deep Sea Explorer, by Tim Watts. Photos by Michelle Robin Anderson
(http://www.weepingspoon.com/AlvinSputnik/Welcome.html)

HERE Arts Center:http://www.here.org/see/now/


アメリカの劇場って

2009年08月27日 | アメリカ劇場事情
アメリカの劇場は大きく2種類に別けることができます。1つは営利を目的とする劇場で代表的なのがブロードウェー・ミュージカルに代表されるような商業舞台を行う劇場。もう1つは、リンカーンセンターやブルックリン・アカデミー・オブ・ミュージック(BAM)に代表されるような非営利の劇場です。

商業舞台では、営利を目的としていますから、基本的にはチケット販売を始めとする事業収益でもって制作費を捻出しています。ですから、たとえ制作費に10億円かけようとも、初期投資が回収される見込みがなく、ラニングコストによって、むしろ損益が増大するようなら、開演後間もなくであったとしても打ち切りなんてことが起こります。逆に利潤が発生している限り、公演は継続されます。マジソン・スクエア・ガーデンやラジオ・シティ・ミュージック・ホールのように、開催される公演に関係なく名前が知れ渡っている劇場(会場?)もありますが、多くの場合、劇場名はそれほど問題とされません。例えば、「ライオンキング」の劇場にも名前がありますが、誰も気にしません。あくまで「ライオンキング」が開催されている劇場、としか意識されないのです。つまり商業劇場はあくまで器であって、劇場にキャラクターがある訳ではないようです。

一方、非営利の劇場は、むしろ劇場の存在のほうが意識されることが多いようです。例えば「リンカーンセンターのサマーフェスは何をやっているの?」とか、「BAMに行けば面白い公演が見れるんじゃないか?」あるいは「前衛的な作品を見たければキッチンやPS122に行けばいい。」などです。つまり、非営利の劇場には、上演される演目に特徴や傾向があるように見受けられます。そういった劇場の多くにプログラミング・ディレクターと呼ばれるポジションの人たちがいて、彼らがシーズンごとにそれぞれの劇場のラインナップを決めていることも、そういった特色付けに寄与していると言えます。

多くの非営利劇場において、チケットや物販からの収益が収入全体に占める割合はさほど大きくありません。リンカーンセンターの場合、2008年度のチケット収益が全収入に占める割合は12%、2007年度で14%に過ぎません。一方、寄付金による収益は2008年度で20%、2007年度で19%もあります。これ以外の助成金などの収入がどの程度あったかははっきりしていませんが、寄付金と助成金などの合計は毎年、30%程度になると思われます。(リンカーンセンター・アニュアル・リポートから)

寄付や助成金は、事業体の活動に対して行われるものであって、より多くの寄付金や助成金を集めるには、その活動や存在が社会的に有益であると判断されることが重要であるとも言えます。ですから、非営利の劇場にとってどういう活動を行うか、ひいては劇場にどうゆう個性や特徴を持たせるかが非常に重要であり、プログラミング・ディレクターの手腕も試されるところしょう。

アメリカの劇場ユニオンって(2)

2009年08月25日 | アメリカ劇場事情
今回は“ユニオン”ルールの中でも、一般的なものや、日本では馴染みのないものを紹介したいと思います。

Wash Hands Rule:
これは、「休憩の開始時刻の5分前には作業を終了してください」というルールです。例えばお昼休憩が1:00pmからだったとしたら、12:55pmには、すべての作業を止めなくてはなりません。1:00pmから1時間休憩を取ると言っておきながら、1:00pmに作業を止めたのでは、実際には1:00pmから休憩を取ることができないかもしれないからです。照明はデータを記録するかもしれないし、舞台スタッフは備品を片付ける時間が必要かもしれません。Wash Handsとは手を洗うことですが、実際に手を洗うかどうかはさておき、「決められた時間から休憩を取るためには、少し前に作業を終わらないと無理」と言う考え方から出たルールです。退館時間が10:00pmなら9:45pmには作業を終了して、10:00pmには劇場の外にいるようにする、というのと同じです。

このルールを厳格に言ってくる劇場は多くありませんが、名前が面白いので書きました。ただ、このルールを言われなくても、例えば作業を止めてから、実際に休憩に入れるまでに時間がかかった場合、実際に休憩に入った時間から1時間とする、ということは多くあります。1:00pmに作業を止めたけど、劇場スタッフが休憩に出られたのが1:05pmからであったなら、休憩は1:05pmから1時間とすることが多いですね。

休憩と労働時間:
アメリカの劇場では、最初に劇場に入った時間から4時間以内に1時間の食事休憩、次の5時間以内に2回目の食事休憩を1時間とるのが一般的です。あと、2時間に1回、15分のコーヒー休憩を取ります。これはユニオン小屋でなくても大体同じです。融通のきく劇場では、多少のズレや延長は大目に見てくれることもありますが、厳しい劇場では、食事休憩が短くなったり、時間通りに取れなくなると、meal penalty(ミールペナルティ)といって通常の時給の1.5倍から2倍、請求されることがあります。あるいは全く変更に応じてくれない場合もあります。

休憩は英語でbreak(ブレイク)と言います。コーヒー休憩はcoffee break、食事休憩はmeal break(ミールブレイク)、あるいは lunch break(ランチブレイク) dinner break(ディナーブレイク)と言います。

こういったルールは、やはり労使関係の歴史の中から生まれてきたルールだと思います。安全に、そして過度な労働を避けるための当然の権利とも言えます。日本では、休憩が無かったり、あっても短かったりすることが多いですが、本来、休憩時間などは守られて当然の労働条件だと思います。

ただ、アメリカの劇場でも、作業が明らかに押している場合、きちんと対応すれば融通をきかせて貰えることも多くあります。(聞いてもらえないこともありますが・・・)例えばスタッフの休憩をずらして順番に取ることで作業を止めない、などです。「作業が押しているんだから当然だろ」「金さえ払えば働くのだな」的な考えでアメリカ人スタッフに接するのは最悪です。アメリカ人スタッフは「そちらのスケジューリングが甘いから押しているんだろ」ぐらいに思っている場合もあります。双方が納得する形で解決策を見つけ出す努力をすることが重要です。

アメリカの劇場ユニオンって

2009年08月25日 | アメリカ劇場事情
よく「アメリカの劇場って技術スタッフが“ユニオン”メンバーで、仕事がやりにくいのではないか?」と聞かれます。答えはYesでもありNoでもあります。“ユニオン”には、確かに日本には無いようなルールもありますし、またその運用が厳格だったりすることもあります。

ただ、それを“面倒で融通のきかない規則”とだけ捉えてしまうと、アメリカの劇場は非常に働き難い場所となってしまいます。確かに規則ではあるのですが、これは“働き方のスタンス”の問題であり、むしろ“ライフスタイルの違い”と理解した方がいいでしょう。

例えば、日本人は靴を脱ぐ習慣がありますが、アメリカにはありません。アメリカ人にとって靴を脱いだり履いたりを繰り返すことがどれ程、苦痛で面倒なことか、日本人にはなかなか分からないですよね。また畳に土足で上がると日本人は非常に居心地が悪くなりますが、アメリカ人には当然、そういう感覚は理解できません。

つまり面倒で融通がきかないように思える“ユニオン”ルールも、彼らの歴史や習慣、積み重ねの中から生まれて来たものであり、それなりの合理性や理由があるということです。

アメリカのすべての劇場がユニオンスタッフしか働けない訳ではありません。規模の大きな劇場や、商業劇場はまず間違いなくユニオン小屋(ユニオンスタッフしか働けない劇場を僕はそう読んでいます)ですが、中小規模の劇場ではそうでないところも多くあります。ユニオン小屋かそうでないかは、劇場に聞かないと分かりません。

またユニオン小屋が一律で規則が厳しい訳でもありません。ユニオン小屋でも比較的、融通のきく劇場もありますし、ユニオン小屋でなくても色々煩い劇場もあります。こういうのは、やり取りの中で徐々に見えてきます。

それと、ユニオン小屋ではなくても、多くの場合、ユニオンルールに準じた形でのルールが存在しています。劇場スタッフの多くは、そういう働き方が通常となっているため、厳格ではなくても、ユニオンルールを一般的なルールとして理解していることが多いです。

はじめまして。

2009年08月24日 | はじめまして。
今日からブログ・スタートです。

1996年にコロンビア大学大学院の芸術経営プログラムに来たのをきっかけに、ニューヨークに住み始め、現在はニューヨークにある非営利の芸術交流団体で舞台公演の仕事をしています。主に日本からの舞台公演をニューヨークで紹介する仕事ですが、ツアーを組んでアメリカの他の都市で公演したり、時には別の国々に行くこともあります。

そんな毎日の中で考えたこと、面白かったこと、それから、腹の立ったことを、アメリカの劇場のシステムや働く人たち、日本の舞台作品の海外公演事情、国際交流、日々の出来事など絡めて紹介して行きたいと思います。

これから海外での活動を考えている人の役に立てれば嬉しいですが、そうでない人も面白く読んでもらえれば幸いです。

よろしくお願いします。