長年漫画編集者として勤めてきた塩沢。
しかし自分が編集長として立ち上げた漫画雑誌の売れ行きが悪く廃刊。
誰も責めないが、塩沢自身がケジメとして辞職を決意したのだ。
塩沢は静かで寡黙な男だ。物腰も柔らかく、言葉遣いも丁寧。
誰からも信頼される男だが、自分は自覚している。
自尊心の高さ。妥協しない姿勢。
そんな塩沢は、新たな生活を始めようとするも・・・
漫画から逃れることはできない。
後輩の編集者青木リリ子は、塩沢に言う。
「皆、噂していますよ!
「塩沢さんはきっと漫画に戻る」って」
それは塩沢自身も分かっているが、抗いたい気持ちもある。
辞職の挨拶回りの際に、昔なじみの漫画家達に会う機会がある。
塩沢さんじゃないと、との声も聞く(自尊心がくすぐられる)
そして、立花礼子という漫画家が急死する。
塩沢が初めて担当した漫画家が立花だった。
葬儀に訪れ、立花と会話する塩沢(この辺はまぁ自然の流れで)
どんなに人気があり、編集者へ我が儘放題の漫画家でも
創作の苦しみ、嘆き、焦りに苦しむ姿を見てきた。
漫画には表も裏もある。人間の欲望に呼応するような裏が。
でもそれが漫画なのだ。
そして、自分はその世界から逃れられない。
その世界にいたいのだ。どっぷりと。
塩沢はやっと自分の心に向き合う。
もう一度、漫画を作ろうと・・・・・・
*******************
松本大洋氏の『東京ヒゴロ』です。全3巻。
巷では、松本氏を「神」として崇めるように作品を愛でる・・・
みたいなファンがいると揶揄されますが・・・私もだ!!(笑笑笑)
もうね、言葉が出ないです。この作品を形容するような言葉が。
松本氏の作品は、私も初めはそうだったのですが・・・絵柄に癖があって。
そして絵柄を結構変える人なので(作品によって全然違う)
それを乗り越えると、もう台詞もそうですが、作品全体が
・・・漫画、侮っちゃイカン!みたいな気にさせる。
この読後感の満足度と達成感(?)と・・・自分を鼓舞できる感(?)って
なんか「読んで良かったわ」と心底思わせる。
そんなことを感じました。
この『東京ヒゴロ』は、主人公塩沢が、50代独身男性だし。無職だし。
って、どうなるの?ですよね。
現実をシビアに描き、同時にちょっと優しい。
絵柄もキツくて、内容もシビアでリアル。
その中で時々見える優しさが、小さくキラって輝いて。
それが、病みつきです(この表現は正しい)
塩沢は、自分でもう一度漫画雑誌を編集しようと決意します。
って無職ですから・・・自分の退職金を原資として。
そして、長年の編集者生活から得た、自分が描いて欲しい漫画家に声を掛ける。
もう引退している人、重鎮扱いだが人気は??な人
ちょっと色々癖がある人などなど・・・
もう、一癖二癖ありそうな漫画達を訪ね、話し合う。
それがメインの物語になります。
私も女性ですので、塩沢が声を掛けた漫画家のひとりが目に留まりました。
木曽かおる子(本名かPNか?は?)
今は子どもがいる主婦で、(多分)スーパーでレジ打ちをしている。
塩沢は木曽に執筆依頼をする。
しばらく考えさせて・・・と木曽(当然だよね)
息子は不登校気味で、高額で意味不明なオカルトグッズを買っている。
夫は優しいが・・・優柔不断と紙一重だ。
そんな生活の中・・・何かが心の中で湧き起こる。
理由は分からないけど、描こう!
木曽はテーブルに数枚の1000円札を置き
「これで晩ご飯を食べて下さい」とメモも置いておく。
夫と息子宛だ。
そして描く。漫画を。
ちょっと驚くのが、木曽が描く漫画が「ローマ帝国の戦い」みたいで。
ザッ漢の戦い!!みたいな漫画なんですよね。
この平凡中の平凡に見える木曽が、こんな漫画を!!
意外も意外!だから、漫画は面白いんだ!!人って面白いんだ!!
って思えましたね。
塩沢の漫画家巡りが静かに進む反面、
動を担うキャラとして、林と青木がいます。
編集者の林と漫画家の青木。
青木は塩沢が担当していて、後任として林が担当者になりました。
しかし・・・「俺を理解してくれるのは塩沢さんだ」と言う青木に
手を焼く林・・・
この林&青木コンビが、作品に動きを見せてくれます。
何度も何度も「もうダメだ」を経て、関係を改善するコンビ。
最初はボロアパートで(多分)拾い猫と住んでいる青木。
服装も、ヨロヨロTシャツとボロボロパンツみたいなんですが
最後には、綺麗なマンション?アシスタントも数名。
ネコもいます(ネコも何気に綺麗になっているわ・笑)
青木も、髪を切り、服装も普通に・・・なっていて。
その変遷が、青木の変化、林の変化、に思えました。
このコンビの存在は、
『東京ヒゴロ』のサブエピソードだと言えるでしょう(と勝手に)
そして林は他の部署に異動する。
新たに青木の担当になった秋山は、林に愚痴る。
「青木さんは、「林さんはどない言うとんねん」ばかり」だと。
繰り返す。過去に林が塩沢に相談したように。秋山は林に相談する。
そして、同じく「自分で頑張れ」と言われ、絶望的になる・・・
・・・けど、やるしかない。その繰り返し。それが生きること。
ちょっとファンタジー風になるのは、塩沢が飼っている鳥の存在です。
片言で塩沢と会話しています。
もっと詳しく言いますと、塩沢に突っ込んでいます(笑)
塩沢は何となくですが、鳥と意思疎通できるような設定らしくて。
飼っている鳥だけではなく、街の鳥ともちょっと意思疎通してます。
なんだそれ?ですが、案外違和感がなくて。
優しい雰囲気になるので、私としては「良いアクセント」でした。
そして飼っている鳥は
かなり・・・塩沢に突っ込んでいて、笑える。
さてさて、塩沢が創刊した新雑誌はどうなるのか?
気になる方は、どうぞ読んで下さいね。
松本大洋さん、お見事!!でした!!!!
・・・・・・・・・・・・・やはり『ナンバー吾』は読むべきですね。
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