Nikkoh の 徒然日記

ゲイ(=男性同性愛者)の Nikkoh が、日々の雑感やまじめなこと、少し性的なことなどを、そこはかとなく書きつくります

中学校技術・家庭科の変遷

2014-12-12 19:15:02 | 男性差別 V (社会の制度に関わること)
中学校の教科《 技術・家庭科 》は、1962年度から現在に至るまで50年以上にわたって存在し続けていますが、その取扱は時代とともに大きく変化してきました。
ここでは、大まかにその流れをたどってみることにします。

※ なお、高等学校の「家庭科」については、別の記事で書いています。以下のリンクからどうぞ。(2022年9月追記) 

高等学校「家庭科」の変遷 ~男子の家庭科を学ぶ権利が奪われていた時代~ - Nikkoh の 徒然日記

高等学校における「家庭科」の授業は、1994年度から男女を問わずすべての生徒において必修の科目として履修されるようになりました。では、それ以前はどうだったのかという...

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1.職業・家庭科(1951年度~1961年度)

技術・家庭科が誕生する前の中学校には、《 職業・家庭科 》という教科がありました。
その詳しい内容については、当時の学習指導要領を参考にしてください。

昭和26年度版
昭和32年度版

時間数は、各学年とも年間105~140時間(週あたり3~4時間)が配当されていたようです。3年間の時数を合計すると、315~420時間となります。
今から思うとかなり多いのですが、中学校卒業を以て就職していく生徒がかなり多かった時代であるという点を念頭に置く必要があります。

内容は6つの群から構成されていました。
第1群は主に農業系(栽培・飼育・農産加工),第2群は主に工業系(製図・機械・電気・建設),第3群主に商業系(経営・簿記・事務),第4群主に水産系(漁業・水産製造・増殖),第5群は主に家政系(食物・被服・住居・家族・家庭経営)となっていて、第6群は社会的・経済的な知識(産業と職業・職業と進路・職業生活)です。

『必修教科としてのこの教科の学習においては,各生徒が第4群を除き,各群について少なくとも35時間学ぶものとする』との記載があります。したがって、全ての生徒が幅広く農・工・商・家政についての内容を学んでいたということになります。
また、『必修教科としてのこの教科の時間のうち,前項の学習にあてた残りの時間については,【中略】性別や環境などを考慮して選ぶ』となっており、35×5=175時間との差である140~215時間は、いずれかの群について特化して学んでいたと言うことでしょう。女子生徒の場合、主に家政系の内容である第5群を主とした内容となることが多かったようです。

ここで、男子生徒も第5群の内容を少なくとも35時間は学習していたのだということ、女子生徒も第1~3群の内容を少なくとも各35時間は学習していたのだということは、覚えておいてください。

職業・家庭科の授業を受けた世代は、1938年度~1948年度生まれの方 です。

2.技術・家庭科の誕生

1958年は、日本の戦後教育史を考える上で大きな節目となる年です。この年に発表された学習指導要領は、『告示』として示され、これ以後、学習指導要領は法的拘束力を持つようになりました。
道徳の時間が特設されたのも、技術・家庭科が誕生したのも、このときです。現在の教育課程の骨組みは、1958年に完成したとも言えるでしょう。
この学習指導要領は、小学校においては1961年度から、中学校においては1962年度から、施行されました。

内容的には、それまでの経験主義・生活単元学習を主としたものから、系統主義・知識重視の方向へ転換されているという点に注目です。学力が低下しているという批判から、“基礎学力”の充実を目指した内容となっています。また、高度経済成長期への突入にあわせて、科学技術教育の向上が図られました。

その観点から、当初は職業・家庭科が《 技術科 》となる予定だったそうです。男子向けのカリキュラムと女子向けのカリキュラムを分けて考えては居たものの、前者が主に生産技術,後者が主に生活技術を習得するということで、技術に関わるという点では共通だということなのでしょう。しかし、科目名については家庭科教育関係団体からの強い要望があり、寸前になって《 技術・家庭科 》に変更となったそうです。

かくして、1958年告示の学習指導要領には《 技術・家庭科 》が登場し、1962年度から授業が開始するということとなりました。

3.男女別カリキュラム(1962年度~1980年度)

1962年度に始まった技術・家庭科の授業は、完全に男女別のカリキュラムで行われていました。それは、1969年に行われた学習指導要領の改訂でも変わらなかったため、18年間にわたって続きました。

1958年版の学習指導要領
1969年版の学習指導要領

技術・家庭科を男女別カリキュラムで学習した世代は、1949年度~1967年度生まれの方 です。また、1966年度・1967年度に生まれた方は、次の男女相互乗り入れのカリキュラムへの移行期にあたったものと思われます。

1962年度から1971年度までの授業は、1958年版の学習指導要領 に基づいて行われました。技術・家庭の授業時数は各学年とも年間105時間(週あたり3時間)で、3年間合計では315時間でした。
男子は、設計・製図55時間,木材加工65時間,金属加工50時間,栽培20時間,機械45時間,電気45時間,総合実習35時間 が標準でした。
女子は、調理80時間,被服製作130時間,保育10時間,設計・製図15時間,家庭機械50時間,家庭工作30時間 が標準でした。

1972年度から1980年度までの授業は、1969年版の学習指導要領 に基づいて行われました。時数は変わらず各学年年間105時間(週あたり3時間)で、3年間合計では315時間でした。
男子は、製図(1年),木材加工(1~2年),金属加工(1~2年),機械(2~3年),電気(2~3年),栽培(3年) を学習していました。
女子は、被服(1~3年),食物(1~3年),住居(1年),保育(3年),家庭機械(2年),家庭電気(3年) を学習していました。

男子向きカリキュラムは、いわゆる《 技術系列 》の内容のみで構成されています。木材や金属といった材料の加工についての学習や、電気や機械についての学習が中心です。いずれにせよ、主に第2次産業に従事する技術者を育てるような内容となっています。
職業・家庭科の時代は、少なくとも35時間は食物・住居・被服といった家政に関わる内容も学習するようになっていたのですが、1962年度から1980年度までの男子はいわゆる《 家庭系列 》の内容を全く学習しないことになっていたという点に着目しておいてください。

女子向きカリキュラムは、いわゆる《 家庭系列 》の内容を中心にしていますが、《 技術系列 》の内容も取り入れられています。設計・製図,家庭機械,家庭工作,家庭電気といった項目名からそれが分かります。また、1972年度から1980年度までの住居の学習内容の中には、木材加工に関わる内容が多く含まれていました。
したがって、女子は《 家庭系列 》の内容を中心としつつも、《 技術系列 》の内容も学習していたということです。

この差異については、「女子だけが家庭科を学ばされている」 ということで 女性差別 としての批判が多く為されました。それは間違っていないのですが、
同じこの状況を 「男子だけが家庭科を学ぶ機会を奪われている」 という 男性差別 としてとらえることも出来ます。

技術系列を中心に学びたいと考えている女子生徒 と、家庭系列の内容も学びたいと考えている男子生徒 が、この制度によって不利益を被る当事者ということになるでしょう。いずれも人数としては少なく、マイノリティだったのかもしれませんけれども、性別で画一的に内容を割り当てるのではなく、生徒本人の選択の余地があればよかったですね。

性差別というのは、男性差別と女性差別が複合したものであって、多くの場合はコインの両面のようになっていると僕は考えています。この技術・家庭科の男女別カリキュラムのケースなどは、まさにその好例だと思うのですが、どうでしょうか。

4.男女相互乗り入れ(1981年度~1992年度)

1977年の学習指導要領改訂で、技術・家庭科に大きな変化がありました。

1977年版の学習指導要領

このカリキュラムでは、学習領域が17に分けて示されています。そして、『17の領域の中から男女のいずれにも,7以上の領域を選択して履修させるものとすること。この場合,原則として,男子にはAからEまでの領域の中から5領域,FからIまでの領域の中から1領域,女子にはFからIまでの領域の中から5領域,AからEまでの領域の中から1領域を含めて履修させるように計画すること』と指定されました。AからEの領域は技術系列の内容で、FからIの領域は家庭系列の内容です。

具体的には、以下のような領域が設定されていました。



要点をまとめると、以下の通りです。

(1)男女とも7領域以上を学習する。
(2)男子は技術系列から5領域以上,家庭系列から1領域以上を必ず学習する。
(3)女子は家庭系列から5領域以上,技術系列から1領域以上を必ず学習する。

つまり、男子は家庭領域の内容を、女子は技術領域の内容を、最低1領域は学ぶことになったのです。
この形態は、男女別のカリキュラムに対して、《 男女相互乗り入れ 》のカリキュラムと呼ばれます。

男子が家庭系列から学習する領域は、『食物1』が選ばれることが多かったようです。
また、女子が技術系列から学習する領域は、『木材加工1』が選ばれることが多かったようです。

技術・家庭科を男女相互乗り入れカリキュラムで学習した世代は、1968年度~1977年度生まれの方 です。また、1978年度・1979年度に生まれた方は、次の男女同一カリキュラムへの移行期にあたります。これらの学年は規定上は男女同一カリキュラムで学ぶことになっていました。(詳しくは後述)

時数は、1年生と2年生が年間70時間(週あたり2時間),3年生が年間105時間(週あたり3時間)となりました。合計245時間で、従来より70時間の減少です。

5.男女同一カリキュラム化(1993年度~2001年度)

1993年度の学習指導要領改訂により、技術・家庭科における男子と女子の履修範囲の差異の規定が消滅しました。ここに、男女同一カリキュラムでの技術・家庭科の学習が始まったのです。

1993年版の学習指導要領

このカリキュラムでは、示された11の領域の中から、7つの領域を学習することになっていました。また、『「A 木材加工」「B 電気」「G 家庭生活」及び「H 食物」の4領域については、すべての生徒に履修させるものとすること』と明記され、これらの4つの領域は全生徒が必修となりました。

具体的には以下のような領域が設定されていました。



技術系列に『情報基礎』という領域が誕生しました。これは、コンピュータの仕組み,基本操作,簡単なプログラムの作成,ソフトウェアの活用などを学習するもので、完全に新設の領域でした。
家庭系列には『家庭生活』という領域が誕生しました。これは、『家庭生活に関する実践的・体験的な学習を通して、自己の生活と家族の生活との関係について理解させ、家庭生活をよりよくしようとする実践的な態度を育てる』ことを目的として作られたもので、家庭の機能,家計や消費についての学習や、簡単な衣食住に関わる内容で構成されていました。

多くの学校において、1年生に『木材加工』と『家庭生活』を履修させ、2年生に『電気』と『食物』を履修させていたものと考えられます。その場合、3年生では3つ(3つ以上)の領域を選択して履修することになるのですが、どの領域を選択するのかの決定は学校がしていた場合が多いのではないかと思います。
したがって、例えば、男子は『機械』で女子は『保育』などと学校側で指定して履修させるケースも多々あったことでしょう。そういう意味で、完全な男女同一カリキュラムになったとはいえないという点に注意が必要です。1986年度生まれまでは、このケースが多くあったことと思います。

時数は、1年生と2年生が年間70時間(週あたり2時間),3年生が年間70~105時間(週あたり2~3時間)となりました。合計で210~245時間となります。3年生で下限の時数とした場合は、従来より35時間の減少です。

技術・家庭科を男女同一カリキュラムで学習した世代は、1978年度~1988年度生まれの方 です。ただし、1987年度・1988年度生まれの方は、完全週休5日制カリキュラムへの移行期のため、3年生の時数減少(後述)に伴う移行措置によって内容が変更されていました。
一方、1978年度・1979年度生まれの方については、男女相互乗り入れカリキュラムから男女同一カリキュラムへの移行期にあたります。この件について、以下に記しておきます。

当時の移行措置の内容について記した書籍(このエントリの末尾に参考文献として示しています)によると、技術・家庭科は以下の通り、入学年度によって異なる対応が取られたようです。



1989年版の学習指導要領の完全施行は1993年度からなのですが、1991~1992年度の新入生(即ち1978~1979年度生まれ)については、先行して新しい学習指導要領に則ることとなっていました。これは、当該学年は1993年度に2年生あるいは3年生として中学校に在学していることから、一貫性を持たせるためと考えられます。
したがって、男子と女子の履修範囲の差異の規定も(文部省の出した公示・通達通りであれば)適用されませんでした。ただし、新設の『情報基礎』と『家庭生活』については履修できないものとされたため、それ以外の9領域の中から7領域以上を学習するというものでした。本来、『家庭生活』は必修の領域なのですが、『被服』又は『住居』又は『保育』の履修で代替する措置がとられていました。

したがって、男女同一カリキュラムにより、基本的には男女共修で技術・家庭科を学習したのは、1978年度生まれの学年からということになるでしょう。1978年4月2日以降に生まれた方は、家庭科男女共修世代なのです。

6.時数の大幅な減少(2002年度~)

2002年度より、学校は完全週5日制となりました。そして、1998年に公示された新しい学習指導要領に基づくカリキュラムで教育が行われるようになりました。
授業時数の大幅な減少に伴い、各教科とも内容と時数が削減されました。技術・家庭科も例外ではありません。

1998年版の学習指導要領

内容面では、大幅な精選が行われました。
技術分野は、『A 技術とものづくり』と『B 情報とコンピュータ』に再編されています。情報社会を迎え、情報技術の取扱が極めて大きくなった点が特筆されるでしょう。
家庭分野は、『A 生活の自立と衣食住』と『B 家族と家庭生活』に再編されています。こちらは幼児に関する取扱い(従来は『保育』で扱っていたのみ)が大きくなっている点が目を惹きます。
時数は、1年生と2年生が年間70時間(週あたり2時間)である点は変わらずですが、3年生が年間35時間(週あたり1時間)となりました。技術分野と家庭分野で折半すると、3年生はそれぞれの分野を17~18時間しか学習しないこととなります。
3年間合計では175時間となります。これも、技術分野と家庭分野で折半すれば、わずか87~88時間となります。
1980年度までの時数=315時間と比較すると、なんと140時間も減少しています。

なお、男子と女子の履修範囲に差異を設ける規定は当然ながらありません。また、領域選択においても、技術分野の中での選択と家庭分野の中での選択という分離がなされているため、完全な男女同一カリキュラムとなりました。
このカリキュラムで学習した世代は、1988年度~1998年度生まれの方 です。

2008年に学習指導要領の改訂が行われ、中学校では2011年度から施行されています。

2008年版の学習指導要領

ここで技術・家庭科の授業時数に変化はなく、3年間で合計175時間のままです。
内容については、技術分野と家庭分野のそれぞれで4つの領域(合計すれば8つの領域)が示されています。そして、全生徒がすべての領域について学ぶよう規定されたため、実習に十分な時間を確保するためには、授業時数の不足が懸念されます。
技術分野は、『A 材料と加工に関する技術』,『B エネルギー変換に関する技術』,『C 生物育成に関する技術』『D 情報に関する技術』の4つの領域からなります。
家庭分野は、『A 家族・家庭と子どもの成長』,『B 食生活と自立』,『C 衣生活・住生活と自立』,『D 身近な消費生活と環境』の4つの領域からなります。

以上、現在にいたるまでの技術・家庭科の変遷を、大まかに辿ってきました。
読者の方にとって、何らかの参考となったのであれば、幸いに思います。

7.参考になる文献

◎ 『技術科教育史 戦後技術科教育の展開と課題』鈴木寿雄著(開隆堂出版)

◎ 『改訂 中学校学習指導要領の展開』津止登喜江・浅見匡・河野公子編著(明治図書)

◎ 『中学校新学習指導要領 移行措置実施要領 解説と資料』熱海則夫・辻村哲夫編(明治図書)

◎ 『1958年の技術・家庭科の学習指導要領の普通教育としての性格 -文部省職業教育課課内会議の資料にそくして-』横山悦生(岐阜大学)「産業教育学研究」第27巻第2号(1997年7月)pp.42-53


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