ジューンベリーに忘れ物

シンボルツリーはジューンベリー
どこかに沢山の忘れ物をしてきた気がして

近所の子 やり取り2つ

2023-04-08 10:46:03 | 北の湘南・伊達
 新学期が始まった。
初日の朝は小雨模様だった。
 それでも、登校する子ども達に、
ひと声かけたくて自宅前まで出てみた。

 100メートル程先の十字路で、
黄色い旗を振る雨合羽の男性がいた。
 登校日には欠かさず、
子どもの見守りをしてくださっているのだ。
 
 今年度も自発的にお2人の方が、
いつもの場所で続けてくれるようだ。
 何歳も年上だが、私にはできない献身である。
ただただ頭が下がる。

 さて、その黄色い旗の前を通る近所の子どもだが、
この冬にあったやり取りを2つ記す。


 ① 冬至が近づいていた頃のことだ。
3時半をまわると、まもなく黄昏時になる時季のこと。
 その日は曇り空で、外は冷え込み始めていた。

 何気なく2階の窓辺に立つと、
見慣れた少年がランドセルを背負ったまま、
自分の家の玄関前に屈んでいた。
 家の人と待ち合わせをしているのだろうと、
気にも止めなかった。

 ところが、10分が過ぎただろうか、
買い物から戻った家内が、
「私が出かけたときから、
ずっとあの玄関前にいるんだけど・・」
と言う。
 もう、30分以上も外に座っていることになる。
急に心配になった。
 
 最初は、家内が声をかけに行った。
答えは、
「今日はカギがない。
 だから、誰か戻ってくるまで待っている。
大丈夫です!」だった。
 少年は高学年になり、体ががっしりしてきた。
そう言うのならと、静観することに・・。

 それからまた30分程が過ぎた。
薄暗くなってきた。
 今度は、私が声かけに行った。
「寒くなってきたから、私の家で待つことにしよう」。
 しかし、少年は「大丈夫です!」の一点張り・・。
ここで家族の帰りを待つとくり返すばかり。

 「じゃ、ホッカイロでも背中に貼ろうか?」
私のこの提案には、素直にうなずいた。

 「風邪でもひいたら大変!」。
走って自宅から使い捨てカイロを握って戻った。
 そこに、ご近所の奥さんが走り寄ってきた。
「今、お婆ちゃんに電話したから、
もうすぐ迎えにくるからね」。

 「よかった。助かったね」。
そう安堵する私から、少年はカイロを受け取ると、
急いで背中に貼ろうとした。
 よほど寒かったのだ。
「ここまで、よく頑張った!」。
 そう思いながら、カイロを貼る手助けをした。

 さほど時間をおかずに、お婆ちゃんが駆けつけた。
どうやら待ち合わせの約束に行き違いがあったらしい。
 お婆ちゃんは、私にもご近所の奥さんにも、
「ご迷惑をかけて」と恐縮した。

 私は、明るい声で応じた。
「なかなかですよ。
この子、根性ありますよ。
 何を言っても、ここにいる。
大丈夫ですって言い続けたんですよ。
 大した根性ですよ。
立派!」。

 数日後、両親からもお礼を言われた。
私は、同じように「根性ありますよ!」をくり返した。
 私なりの褒め言葉のつもりだった。
きっと両親は、そのまま受け取ってくれたと思う。


 ② 地元新聞に、賞状を両手で持った
見慣れた顔の少年の写真が載っていた。

 道産食材の美味しさをアピールするポスターコンクールで、
最優秀賞を貰ったと言う記事だった。

 美味しさが伝わるよう口をいっぱいに開けた子の嬉しそうな顔が、
画用紙から飛び出しそうに描かれた絵の写真も、一緒に紙面にあった。

 出来上がったポスターがよくできていたので、
お母さんが応募先を探してエントリ-したと、
記事には加えられていた。

 我が子の秀作を認めてもらおうと、
応募した母親の行動にも心打たれた。

 その子は、ご近所の2年生で、
毎朝、お兄ちゃんらと一緒に我が家の前を通って、
登校していた。
 記事を見て、いつかお祝いのひと言を伝えたくなった。

 朝の雪かきが続いていた。
登校時間と私の雪かきが重なった日だった。

 厚手のスキーウエアにニット帽で、
その子は3つ年上のお兄ちゃんとやってきた。

 私はいい機会だと思い、雪かきの手を止め声をかけた。
「この前、新聞で見たよ。
美味しそうなポスターでした。
 最優秀賞、おめでとう!
すごいね」。
 その子は、少し照れながらニット帽をとって、
うれしそうに「ありがとうございます」と微笑んだ。

 てっきり、横にいるお兄ちゃんも笑顔かと思った。
ところが、無言でさっと弟から離れ、足早に先を急いでいた。
 いつものやさしいお兄ちゃんじゃないような気がした。
違和感があった。

 突然、実に独りよがりな私の連想が始まった。
『弟は、1年生の時も地元紙に載った。
 その時は作文コンクールでの受賞だった。
今と同じように、登校時にお祝いを言った。
 弟は2度も受賞し、新聞に載った。
きっと、兄は複雑な気持ちになっているに違いない』。
 2人の後ろ姿を見ながら、勝手に切なくなった。

 ところが、弟の後ろ姿は小走りで兄を追った。
兄は一瞬立ち止まり、近づいた弟の肩に手をやった。
 何やらうれしそうに話しかけ、
それに弟は大きくうなずいていた。

 「とんだ思いすごしだ!」。
私の愚かさを笑いながら、再び雪かきを続けた。 

  


   エゾノリュウキンカ ~だて歴史の杜『野草園』

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