ジューンベリーに忘れ物

シンボルツリーはジューンベリー
どこかに沢山の忘れ物をしてきた気がして

「ジ・エンド!」と決める日まで

2021-07-10 17:07:04 | ジョギング
 ▼ 最初に、6月26日(土)付け地元紙・『室蘭民報』の、
文化欄「大手門」に掲載された随筆を転記する。

  *     *     *     *     * 

        勝手にチャレンジャー!
              
 伊達に居を構えてからは、「毎日がサンデー」。
ダラダラと朝を過ごし、そのまま1日が終わるようで、怖かった。
 だから、ジョギングを始めた。
毎朝、決めた時間に決めた道をゆっくり走る。
 なら、ウオーキングでもよかったが、少し見栄を張った。
自宅から3キロ足らずの周回を荒い息に汗だくで、スロージョギング。
 でも、気分は晴れやか。そのまま1日が過ごせた。

 冬は、走れない日が続き、春が待ち遠しかった。
そんな2月、家内と、
ある店先で『春一番伊達ハーフマラソン』のポスターを見た。
 「ハーフだけでないよ。10キロも、ほら5キロもある!」。
思わず口にした。
 5キロのコースは毎朝ジョギングしている道と、一部が重なっていた。
地元の大会。身近なコース。心が動いた。
 「5キロなら・・」。でも、心細かった。強引に家内を誘った。

 4月、家内と一緒に5キロの部に出場。
いつもの道を、少し速く走った。
 ゴール後、記録証を貰った。
無性に嬉しかった。
 それを頭上にかざし、写メを撮り、すぐに息子らへ送った。
私は有頂天になった。
 その勢いのまま、知り合いなどいないのに、
10キロの部の健脚たちを、拍手で迎えようと沿道に立った。

 そこに、沢山のランナーに混じって、
手首と手首を紐でつないだ視覚障害の方と伴走者が走り着いた。
 テレビ画面以外で、初めて見るシーンだった。
ゴールした2人の後ろ姿を目で追った。
 素敵だった。互いの健闘をねぎらい、讃えあっていた。
視力にハンディがありながら走りきった女性と、
その援助をし続けた男性。
 2人の背中が「まぶしくてまぶしくて」。
そっと有頂天にしていた記録証を後ろに隠し、
「なんか恥ずかしい!」と呟いた。

 大会会場から自宅までの道々、「伴走者になりたい。」と何度も思った。
でも、私には無理。
 せめて、あの2人と同じ10キロを走りたい。
身の程知らずと思いつつも、このままではいられなかった。
 だから、あの日、私は紐で結ばれたランナー達の
『勝手にチャレンジャー』になった。
    
  *     *     *     *     *

 ▼ この随筆は、同じようなことを何度か
ブログに綴ってきたことを、コンパクトに書き直したものだ。
 8年前のこのエピソードを契機にして、
私のチャレンジは今も続いている。

 あの時、「勝手にチャレンジャー」になっていなかったら、
大会でずっと5キロを走り、満たされていたと思う。

 10キロの完走を目指して、
それまでより距離を伸ばしての朝のジョギングや、
その後のハーフやフルマラソンの意欲も、
あの出会いがなければ、決して湧いてはこなかったはずだ。

 ▼ お陰で、『伊達ハーフマラソン大会』をはじめ、
洞爺湖、八雲、旭川、そして東京・江東区の大会に、計20回も参加してきた。
 そして、途中棄権を3回経験したものの、5キロ1回、10キロ2回、
ハーフ13回、フルマラソン1回を完走した。

 今も、週に2,3回は、30分から1時間のジョギングをし、
コロナ後に、各マラソン大会が再開する日を心待ちにしている。

 ▼ さて、そんな威勢のいいことを言いつつも、
確かに年齢を重ねている。
 「まだまだ!」と思いつつも、走るペースは年々遅くなっている。
回復力も以前との違いを強く感じる。

 それでも・・・・・!
私を『勝手にチャレンジャー』へと誘い、励ます出会いが、
この町の道々には、今までも、
これからもいくつもいくつもあると思う。

 だから、「ジ・エンド!」と私が決める日まで、
きっと、荒い息と大汗をかきながら、
走り続けるに違いない。

 ▼ 数日前だ。
深夜の雨が上がっていたので、
予定通り、家内と一緒に5キロを走りはじめた。

 有珠山に昭和新山、日によっては羊蹄山も、
望める農道に続く坂道にさしかかった。
 そこで、愛犬を連れた『サンダルに片手ポケット』の彼に
久しぶりに出会った。

 荒い息のまま、私が先にあいさつをした。 
「おはようございます・・。お元気そうで・・!」。
 彼は、相変わらず足もとはサンダル。
そして、いつも片手をズボンのポケットに入れ、
もう一方で愛犬の綱を握っていた。

 ゆったりとした口調が、返ってきた。
「おや! 今日は母さんも一緒かい。
強い雨降ったけど、この先の道も大丈夫だ。
 水たまりもない。普通に走れる!」。

 「そうですか。行ってきます。」
「ああ、気つけてなぁー!」

 彼とは、この付近の道でしか出会ったことがない。
名前も住まいも知らない。

 なのに、もう5、6年も前から、この道を走った時には、
すれ違いながらの挨拶とさりげない短いやり取りを、
期待するようになった。
 
 この朝も、私たちが走るこの先の水たまりを、
気にかけてのひと言だ。
 とっさの思いつきであっても、
その温もりに、たまらなく惹かれる。

 ▼ 半年前になるだろうか。
市内の斎場で、大きな葬儀があった。
 
 地元紙の訃報通知の欄に、
私より3歳年上で亡くなられた経歴と共に、
顔写真があった。
 市内では指折りの会社の会長さんで、
その顔には、見覚えがあった。

 時々走る道沿いに、
10数台の作業用トラックが駐車するスペースがある。
 その方は、いつも数人の若者と一緒にそこにいた。

 少し離れた所にいる彼らに、
私は大声で朝の挨拶をし、そこを通り過ぎた。

 やがて、早朝に出勤する従業員を出迎えるために、
その方がいることに気づいた。

 同じ頃、その方も、私がそこを月に何回か、
走りながら通ることに気づいた。

 以来、私の姿を見ると、
わざわざ通りまで足を運んでくれた。
 そして、穏やかな伊達の朝に似合いの、
清々しい笑みを浮かべ、
「おはようございます」と言ってくれた。

 私も会釈と一緒に挨拶を返しながら、
明るい表情で、そこを走り抜けた。

 いつも、いつも、それだけ。
でも、いつからか、その出会いを望んでいた。

 今朝も、そこを通った。
当然、あの姿はない。
 つい面影を求めて、従業員の中を探した。
きっと、これからもここを通る度にそうするだろう。

 


     国道沿いの ラベンダー 

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