銀河夜想曲   ~Fantastic Ballades~

月が蒼く囁くと、人はいつしか海に浮かぶ舟に揺られ、
そして彼方、海原ワインのコルクに触れるを夢見、また、眠りにつく……

移ろう月に寄せて

2015年06月04日 03時19分42秒 | 散文(覚書)
昔よく祖母が教えてくれたお手玉を
すっかり中年になったこの夜に
この静かな一人だけの夜中に
ふと思ったのです

星もない黒い空
月だけが
私の心の中の小さな宇宙を見ているようで
私も
部屋の窓をゆっくり渡る月を見ているのです

お手玉をしたくても
祖母のおにぎりを食べたくても
月は静かに移ろうだけ

あの時のお手玉は
あの時の丸いおにぎりは
今この月の
移ろいだったのかもしれません

満月のように見えて
どこか欠けている
照り輝いているようで
儚き行く末を湛えている
月もお手玉おにぎりも

月が黒い雲に隠れるのは
誰かがその瞳に
墨汁を落としたからでしょうか
忘れたくない思い出を
忘れてしまった悔しさ故でしょうか



部屋の窓からは
すっかり月が消えてなくなりました

心のどこかで
今も祖母に教えてもらっているお手玉を
時折部屋へ吹き込む風たちが
邪魔をするのです

お手玉をしたくても
祖母のおにぎりを食べたくても
月は静かに移ろうだけ