怪獣ベビーと歩む道

「すくすく育って」の思いを真ん中に、
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「百年の恋」篠田節子

2005-09-10 04:13:27 | society
小説、読んだところです。
篠田節子って、多才。
ミステリーから、恋愛ものから、こんな小説も書くなんて。

銀行のバリキャリウーマンと貧乏ライター♂の
結婚から育児までの物語。
川原亜矢子と筒井道隆でドラマ化されたのが
ちょうど私の出産の頃。
TVは、「主夫の育児」がメインで、ほのぼのしたものでした。

小説は、ドラマよりも壮絶で濃厚。
妊娠の違和感、奇妙さ、
そして、産まれ出た物体を扱う(=育児する)戸惑いを
上手に表現していてお見事。
主人公が、理系のライターという設定が功を奏しているかな。

出産についてって、当然ながら女性の視点で書かれる事が多い。
「妊娠辛いー。出産痛いー。育児大変ー。でも子ども可愛い♪」みたいな
女性特有の感情論。
それを男性の言葉で、冷静に表現してくれてるのが新しい。
青山智樹の作中小説がなかなかです。

一般的に「赤ちゃん」って
無条件に「可愛い」ものとされてるけど
そんな偽善的な面ばかりでもありません。

この奇妙な物体について。
そして、妊娠出産、ジェンダーについて、
私のもやもやしている、言葉に出来ない不思議な感覚を
客観的に表現してくれています。

妊娠って、ほんと、奇妙な事だと思います。
別の人格が体内にいるという不思議な事実が、
何の惑いもなく、認められている。
見た事もない相手(胎児)に対して
無償の愛を抱いている。

主人公の真一が、母親学級で沐浴の練習をしている時
赤ちゃん人形に対し、わが子を待ちこがれるように目を細めている他のプレパパに対する違和感は非常によくわかる。
でも、世の中は、そんな男が「良い夫」とされてるのよね。

ヒロイン梨香子の主張。
「マタニティウェアなんて絶対来たくない」
「妊婦と思われたくない」
「経済や社会に触れていたい」にも共感。
一般的には、赤ん坊の誕生を
クラッシックを聞きながら、赤ちゃんの靴下を編みながら待ち望むのが
素敵な妊婦。

そして真一のライター仲間の「赤ん坊って汚いよね」という言葉。
子持ちの母親には絶対言われない言葉だけど
多くの子ども無関係者の当然の意見。
そうそう出産前の私もそうだったわ。

これが現実。つい忘れてしまいそうな事実。

男女の役割が全く入れ替わってる夫婦なのだけど
だんだん真一が、感情までも女性っぽくなって
周りが見えなくなってしまってるところなんかも
篠田節子らしい操作で面白い。

出産準備は何一つしていないのに
お宮参りの着物だけはきちんと用意している梨香子を、
笑いながらも、自分と重ねる
多くの母親失格予備軍(私も含める)に捧げたい本です。
コメント
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