五劫の切れ端(ごこうのきれはし)

仏教の支流と源流のつまみ食い

「知的計画」に御注意 其の四

2005-12-12 09:09:49 | 仏教以外の宗教
■いよいよ、論文の結論部分です。

第二に、教育論争においても政教分離の原則内で論陣を張れるよう、「神による創造」を争点からはずし、「生物進化論VSデザイン」の対立軸を設定する。第三に、この対立軸を「信仰の否定VS信仰との調和」の対立軸に重ね合わせることで、これまで生物進化論教育を受け入れてきた中道派市民に、それは科学教育としても信仰としてもふさわしくないことを説得する。第四に、彼らの支持で当選した州議会議員や教育委員が、対象を特定せず「論争がある場合には賛否両論を公平に教える」という、遠まわしの表現を州や学区の教育方針に滑り込ませる。オハイオ、ニューメキシコ、ミネソタでは州レベルでこの規則が制度化され、カンザス州でも検討されている。

■田舎の州が並んでいるのが気になりますが、米国の多様性を象徴しているようにも思えます。抽象的な理論物理学と難解な哲学理論でも決着がつかない大問題を、素朴な信仰心に訴えて封じ込めてしまう動きが、政治と教育の現場に浸透しつつあるのが米国なのです。日本にも特定の宗教団体が支配している政党が有りますが、米国という国は、大統領の就任式で必ず聖書に手を置いて宣誓しなければならない、キリスト教の国です。冷戦に勝利した!と祝っているのはソ連を悪魔に見立てて呪っていたキリスト教徒達だったのかも知れません。


考えてみると、これらはいずれもきわめてアメリカ的な文化価値を熟知した戦略である。国民の圧倒的多数が指示するキリスト教の神と道徳、論争に公平性を重んじる伝統、公教育における納税者や保護者の意見の尊重、州政府や学区教委の独立性など、その力で潜在的な支持層を掘り起こす政治センスに、創造論の動員力があるのだろう。

■少し古い本ですが、鹿嶋春平太著『聖書の論理が世界を動かす』(新潮選書)や、グレース・ハルセル著『核戦争を待望する人びと』(朝日選書)などの恐ろしい米国特有のキリスト教文化の深層を描いた本が有ります。クリスマスのケーキやサンタクロースに幻惑されると、大変な事になりそうです。古代ユダヤ人が亡国の絶望の中で見た幻影や救世主の姿を21世紀にも生々しく投影している人々が存在しているのです。


逆に効果的な施策や有益な研究であるとしても、反キリスト教道徳というレッテルをはられると、社会的支持を得るのが難しくなる。じっさい、現実主義的なエイズ対策、ES細胞研究やクローニングはかなりの影響を受けている。科学に干渉するキリスト教保守道徳と宗教的無害を説明できない科学、傾国のドグマになるのはどちらなのだろう。

■字数制限の影響でしょうが、最後の一節が非常に重要なのに、大急ぎで書かれてしまって不親切な書き方になってしまいました。これは鵜浦先生の著書『進化論を拒む人々』(勁草書房)を急いで読まねばなりませんが、アメリカの本音を知ってがっかりするだけかも知れません。それでも、アメリカと一緒に戦争をする道を選択した日本は、どうしても知っておかねばならない事でも有ると思います。

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