五劫の切れ端(ごこうのきれはし)

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「知的計画」に御注意 其の壱

2005-11-16 07:13:27 | 仏教以外の宗教
■米国の教育界が鳴動しているようです。11月11日の朝日新聞から引用します。

生命の誕生には何らかの知的計画が関与したとする Intelligent Design (ID) を授業で教えようとする動きが出ている米国で8日、二つの相反する判断が出された。カンザス州では、生物の授業で知的計画を教えられるようにする改訂案を教育委員会が承認した。一方、ペンシルベニア州ドーバー地区では、学校区委員の選挙で、全9委員のうち改選された8委員すべてを ID 反対派が獲得した。

■「IDカード」という用例に使われるIDは、アイデンティティの略語として定着しましたが、この記事に出て来るIDはまったく違う言葉です。これが、どうして重大な話として扱われるのか、というと「進化論」を否定するかどうかの大問題に直結するからです。教育問題というよりもSF好きの茶飲み話に相応しいテーマなのですが、米国は未だにこんな事が大問題となります。大統領が「神のお告げ」でイラク攻撃を決断するのは勝手ですが、それを公表しても誰も文句を言わないというのは、他の国にとっては驚きです。


米国では、進化論支持者と、旧約聖書で神が天地をつくったとする天地創造説支持者の対立が続いてきた。世論調査によると過半数が創造説を信じているが、憲法の政教分離原則のため、公立学校で「生命は神がつくった」とは教えられない。ID推進派は、生命誕生のなぞに進化論は答えられないとし、生物が誕生して固有の形をもつようになった背景に何らかの知的計画があると主張する。


■数え切れない生命体の種の中で、人間は特殊な存在なのだと考えたいのは人情です。その人間を更に二つに分けて、自分が属する人間の群がより優れた存在で、敵対する群は劣った者、乃至は動物に近い存在とする考え方は何処にでも有る考え方です。この根っこには素朴な「自意識」が横たわっています。この「素朴」という点が重要で、教育行政や啓蒙活動を何十年、何百年続けようとも根絶不可能だという事を意味します。個人的な信仰の問題に限定されていれば大した問題にはなりませんが、社会が法治国家の中に組み込まれていると、こうした問題も法律で処理しなければならなくなります。


カンザス州教委は、「生命誕生をめぐる科学的な論争」を教えるとするカリキュラム改訂案を6対4で可決。直接言及していないが、授業で進化論だけでなくIDにも触れることを示す。
ドーバーでは昨年、生物の授業で「進化論には『穴』があり、IDは穴を埋める理論の一つだ」とする文書を教師が読み上げることを学校区委員が決めた。これが政教分離原則に反するとして法廷論争が続いており、委員選挙でID推進派と反対派がぶつかった。

■この問題に関して10月20日の朝日新聞が「かがく批評室」というコラムに鵜浦裕教授(アメリカ研究)の論文を掲載して、この問題の裏側を解説しています。


……創造論にとって、それ(進化論)は無神論以外の何者でもない。信仰に代えて同性愛、人口中絶、安楽死などの「害毒」を撒き散らし、社会を滅ぼす。この無神論から子どもを守ることが創造論のもう一つの教義である。

■神と言う監視人兼最終的な裁き手の存在を忘れた人間ほど、扱い難い者はいない!これが創造論支持者達の人間観です。実際に、米国社会に広まっている犯罪や事故の凄まじさは想像を絶しています。銃規制の問題と麻薬問題だけでも、熱心に後追いしている日本が追い付くにはまだまだ数百年を要する程の深刻さです。刀狩りの歴史を持っている日本ですから、銃よりも麻薬の方が先に社会を蝕み始めてはいるようですが、米国には及びません。性に関するモラルが崩壊したり、家族が分解してしまう問題なども含めて、自分達の世界を劇的に改善する道具として「神」が掲げられる時期が、米国の歴史の中には繰り返し現われます。

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