六田俊夫(Toshio Mutsuda)のありのままのメタルダーブログ

ペチカ、トロイカ、ハラショー。ロシア熱過熱中

書評:氷川清話

2010-09-18 03:56:13 | 人物、人生(夢と愛と生老病死)、奉仕


海舟先生の人生訓といったところか。
海舟先生は竜馬の師匠で東京出身だから、押します。

だって、高知出身のおじいちゃんは、竜馬好き多いし、鹿児島出身のおじいちゃんは、西郷好き多いし、とりあえず、東京出身だから、海舟でいいし、竜馬が弟子入りするぐらいだから、有能ではあるでしょう。

海舟の本質は政治屋ですけど、剣術の修行で身につけた呼吸と胆力で、坂本竜馬をはじめ、切りにきた連中を丸腰で対応して生き残ったと自慢をしている。どこまで本当だかはわからないけど。まあ、情報量の少ない幕末。はったりも必要でしょう。

胆力とは、丸腰で刺客に応対し
「切れるものなら、切ってみろ、潔く切られてやる」
が海舟流で
「この前、旅をしたとき、茶屋の団子で腹を満たした。団子で腹をみたすような、吉之助に天下のことがわかるわけがない。ワハハ」
で、刺客を追い返すのが西郷流らしい。

本当の胆力というのは
「お前がごときが俺を殺して、国家や世界のためになるのか。切れるものなら切ってみろ」
だと思う。これは、やはり死のシミュレーションたる剣術、柔術の修行を積んで、胆を座らせることも必要だろう。禅とかもやってたらしい。

海舟は40代前後で、咸臨丸でのアメリカ渡航、海軍学校の創設を行い、近代日本の基盤を作りつつ、江戸の動乱を鎮圧した無血開城の件で、討幕軍の西郷と談判し無血開城を実現させて、明治政府ができたころには、引退して、50代~70代までは隠居して、新聞の取材などに応じていた。このころの新聞の取材などの原稿を集めたのが本書の元になっている。

なにはともあれ、黒舟が来て、開国、不平等条約を結ばせ、幕府は何をやっている、このままでは欧米に侵略されてしまうわと、佐幕だ、尊王だ、攘夷だと議論するだけならいいが、幕府に立てつく輩は刺し殺せだとか、外国人を追い出せと事件を起して国際問題になったりと、日本や故郷を守りたいのはわからんでもないが、近視眼的に暴力に走る志士も多い中、結果として無血開城を実現させた、海舟と西郷の手腕はすばらしい。

海舟は、西郷との談判のことを
「西郷は、状況を汲み取って、全てを勝さんに任せましょうといってくれた。これが、小人だと、いってることとやってることが違うとか、道理が通ってないとか、グタグタいうだろうが」
と、火がそこまでせまってきてるのに、小人だと決断はできずにいるだろうと。

しかし、その後の西郷は
「あとのことは、勝どのがよろしくやるだろう」
と、とっと引き上げ、新政府の儀式のときは、居眠りといいかげんなものであるが、
とにかく西郷が
「襲撃は中止になった」
の一言で、討幕部隊がおさまったのはたいしたものだ。
「幕府の愚行はゆるせん、外国のいいなりになるな」
と、今の国会のおじさんたち以上に血走った討幕派を押さえたのは、西郷の胆力であると。

西郷の「勝つどのよろしくやるだろう」が豪快過ぎて、これが細かい大久保だと
「やれ、あの件はどうするべきだ、この件は心配だ」
と、細かくいろいろ検討したがるだろう。まあ、しかし大久保先生が細かいだけに、明治政府を作るときにいろいろな仕組や制度を作るのに貢献したと表し、
新政府樹立に関して、江戸の動乱を防いだ西郷と新政府の基盤を作った、大久保の功績を忘れてはいけないと表している。

と、これが、海舟西郷の大事業のダイジェストだが、
この本の構成は
1章:貧乏時代から無血開城までの思い出話
2章:人物評。幕末の志士、日本の歴史上人物、韓国中国の面識のある政治家など
3章:政治。財政苦の対応など強調。理屈は死んでいる。政治家に一番必要なことは誠心誠意
4章:時事。明治政府の批評と、日清戦争への反感。朝鮮や支那とは争うべきではない。朝鮮からは大工などの技術を教えてもらったし、支那ともお隣同士。犬もくわない喧嘩なんてするべきではない。まあ、いまだに戦前や高度経済成長で中国や朝鮮に優越感をいだいてる、頭の古い日本人も多いですが、海舟先生はそんなことはない。
5章:武道。剣術の荒修行と胆力の育成。攻めるところ引くところの呼吸が大事らしい。
6章:文芸。俳諧や文学。芸術。芭蕉をべた褒め。露伴は教養があると。さいきんの評論は風刺が利いてない。私の意見としても最近の社説や新聞の論壇は風刺がきいてない。ていうか日本をどうするべきかの方向性が三大新聞に見えてるのか疑問(疑問をとく斬新な社説に期待。まあ、みえてないのにいいかげんなこと書いても、沖縄の米軍基地問題みたいになるけど)
7章:人生訓。
「仕事をあせるな。コツコツやってもうかるのは日雇取りの仕事だ。天下の仕事がそんな了見でできるか」
「潔癖と短期が日本人の欠点。死を恐れるものは話すに足りないけど、死に急ぐのも上手でない。
万般の責任を一人で引き受け、困難にも耐えながら余裕があるというのは大人物でなければできない。胸中は死ぬより苦しい。が、困難に負けて自殺でもして当座の苦しみを逃げるようでは、その人の腕が悪く小人だ。」
「党をつくるな。子分をつくるな」→西郷のようにほっとけなくなり、身動きが取れなくなる。
首都である江戸の戦火は守った海舟は、西南戦争では沈黙をまもるが、西郷も「勝がこんな南端の内戦に首をつっこむはずがない」と納得済み。
8章:明治30年になるが・・・

とのところ。

海舟は、口語調でわかりやすく語るが、事件や人物の事実関係はかなりいいかげんで、論文のようにわざわざ調べてるわけではなく、記憶にたよってるので、編者に多数指摘されている。

私のブログが誤字も多くかつ内容の誤りもおおいのも、海舟節の影響をうけてる。
「事実関係も正確な仕事をする上ではもちろん大事だが、混乱の時期には、呼吸と胆力と誠意がなによりも大事が海舟の教え。政府も民間も激しく動き理屈は追いつかず、時勢を捕らえる呼吸が大事になると」

海舟は有能な政治家だと思います。
勢いだけでは勝てない。呼吸を捕らえてタイミングをつかめ。